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8/22

8:帰還

「ただいまー!」


「ただ今戻りました。」


あれだけ走っていて、息のひとつも切れないものなのでしょうか。


少なくとも、私みたいな少し自信のある程度では、どうにもならないです。


ただいまの一言も言えないまま、息遣いの荒い私はソファーに倒れ込みました。


「聞いてよロルフ! フローレンスと今度お買い物行くんだー!」


「はいはい、しっかり楽しんできなさい。」


「カストル、フローレンスに似合いそうな人形ってなんだと思うか?」


「知らんよ……。自分で考えた方がいいだろ。俺なんかに聞くより。」


師弟、同期コンビは2人で話し込み始めました。


私は口もきけないほどに、疲労が溜まって動けません。


「お疲れ。あの二人と行動なんて疲れただろ。」


リュドミールが隣に来てくれました。あいつらはなんでも運動に結びつけるからな……。と、呟きながら温かいお茶を出してくれました。


「ありがとう、リュドミール。疲れたのは確かだけど、とても楽しかったわ! ここの医務室、本当にすごいのね。どこ見ても驚きの連続よ。」


「そうか、それはよかった。自分のやりたいことに専念できるような隠し部屋がたくさんあるからな。」


「たくさん? 2つじゃないの?」


2つをたくさんと表現するのは、少し数が少ない気がするが。


「いや、まだあるけど?」


今見てきた、ものすごい2部屋の他にまだ部屋が……!?


「前任の宮廷医師がそういうのが好きでな。あと、1人が好きだったからあまり人が入れないように、隠し部屋をいくつか作ったってわけ。多分フローレンスが使える2部屋を見せたんだろうな、あいつら。」


「使えない部屋もあるの?」


「使えない、というか使って欲しくない、が正しいか? 見ていて良いものじゃない部屋もいくつかはある。一応、俺は管理者として全ての部屋の出現方法を知ってはいるから、もしさっき見た以外に行きたい所があったら俺に言ってくれ。」


自分の護衛部隊に向けていた、さっきまでの優しい笑顔は消え、真剣な表情でこちらを見ていました。


よほどのことなのでしょう。しかし、あの場所はあくまでも医務室です。それ以上の事なんて、普通はしないはずです。


ますます前任の方が気になります。ただの尊敬としての興味以上に、その方の精神状態なんかも気になります。


「その人のこと、教えてくれる?」


「城探索、18:00に戻ってくるように言ったのは、これから行くところが時間厳守だからなんだよ。だから、その話は後でゆっくり、俺の知ってる情報は全て教える。」


「そんなに変な人というか、関わりを持たないような人だったの?」


「端的に言えば、とても狂ってたと思うよ。はい、この話は後にしよう。大広間の方へ行くぞ。ほら、立てるか?」


腰掛けていた椅子から立ち上がり、ソファーに寝転んでいた私に手を差し出しました。


「ありがとう、助かるよ。」


リュドミールの手を取り、談笑していた皆さんにも声をかけて大広間へ向かうことにしました。


この城に来てから数時間ですが、それだけでも、色々な人との接触が多くなりました。


今まで治療以外ではそんなことなかったので、緊張してしまいます。


歩きながら話していると、すぐに大広間に到着しました。


大広間に入ると、先程のシェフや、後ろで作業をしていた料理人の方々が揃っています。


大広間には、味見した料理や、ほかの料理の乗った、6人ほど座れる丸テーブルが点在していました。


「お、初めて見る料理があるな。久々に新メニューか?」


「それ、油淋鶏って言うらしいですよ。なんでも、東国の伝統料理らしいよ。」


シェフに言われたことをリピートしました。


「すごいな、そんなことも知ってるのか。やっぱり俺も他国の勉強はした方がいいのか……?」


「いや、さっきシェフに聞いただけ! でも、他国の勉強したら、楽しいだろうなー、とは思うよ!」


「実は俺、この国の宮廷外交役を担ってるんだ。今後の人生に役立つから〜って言って、わざわざ母さんがな。」


宮廷外交、宮廷においた人間関係を基本とした外交展開のことでしょうか。


私の知っている宮廷外交は、他国の人をもてなし、自国の富を剣にして外交をすると言うものです。


そんなことリュドミールはしないと思うのですが……。


「ああ、いずれ付き合ってもらうからな? よろしく頼んだぞ。」


「え、急過ぎない? まだ来て1日も経ってないんだけど?」


「まあ、色々と落ち着いてからだ。とりあえず数ヶ月は俺も仕事を置いて勉強したり、フローレンスについたりするから、そんなことないと思うが。」


「了解、外交のことも頭に入れておけばいいわけね! じゃあもうご飯食べてもいいかしら?」


「フローレンス! 一緒に食べよー!」


「リュドミール! こっちに美味しそうな料理があるぞ!」


「呼ばれてるよ、リュドミール。」


「フローレンスもだろ? さて、行きますか。」


マリーとカストルさんの方に寄ると、ロルフさんとエレオノールさんもこちらに来てくれました。


どうやら、2人は席を確保してくれたようだったので、今日は新王子護衛隊の6人で食べることにしました。


新王子護衛隊、というのは先程大広間に向かっていた時に決まった私たちのチーム名です。


私は、宮廷医師だから王子専用じゃない、と言いましたが、どうやら、宮廷医師兼“王子監視役”になっていたみたいです。


幾度となく脱走と怪我を繰り返す彼への、親からの心配でしょうか?


「フローレンス、食べないの?」


準備された食事に手をつけなかったのを心配したマリーが、私の顔をじっと見つめました。


「食べるよ? 少し考え事してただけ!」


「そかそか、よかった! あ、そうそうこれも美味しいよー!」


油淋鶏以外の見たことの無い料理を指さして言いました。


「それ、すごく美味しいぞ。早くフローレンスも食べるべきだ!」


エレオノールさんがその料理を私の口に持っていき、食べさせました。


「美味しいけど、これデザートでは?」


「あ、デザート最後に食べる派だった?」


「逆にマリーは最初に食べる派なの?」


「私は途中途中で食べる派ですね。」


「それはないっ!」


意図せずエレオノールさんの言葉に、マリーと2人でツッコミを入れてしまいました。


「ははっ! 途中途中はないってよエレオノール! やっぱ俺がフツーだったな!」


「さすがに途中で、というのは私も初めて聞きましたね……。」


「だから、ビュッフェとかのときに、変なタイミングでデザートを取ってきていたりしていたのはそういう訳か……!?」


「えっ、そんなに少数派なのか? というか、カストル。そういうこと言ってると、のちのち大変になるぞ?」


「お前なんか怖くねーよーだー!」


「まあまあ、2人とも落ち着いて下さい! 最初の治療がお2人になるのは嫌ですよ?」


「仕方ないな、今日はフローレンスに免じてなしにしてやる。」


「今日は、ね。はい、申し訳ありませんでした。」


何気ない会話と雰囲気で、皆さんと出会って数時間とは思えないほど、素敵な夕食の時間を過ごすことが出来ました。


それから少し経って。


片付けの手伝いの後、医務室に行き、数冊本を手に取りました。


時間があれば、すぐにでも読み始めようと思った気になった本。


早く読もうと思い、皆さんと別れてリュドミールの部屋、現私の居候先に戻ってきたのですが、前任者について話す予定だったことをすっかり忘れていました。


ですが、リュドミールが帰ってきません。


仕事でしょうか。それでも少し遅いかと思うのですが……。


「おまたせ。はいこれ。」


両手に抱えた紙の束を机にどすん、と音を立てて載せました。


「さて、前任者の話。だっただろ?」


目の前の紙と、リュドミールの顔を順に見て、私の目標となった前任者について聞く覚悟をしました。


「頷いた、ってことは、この先どんな事実があっても受け入れるんだな。」


もう夜中、城の部屋の明かりが全て消えた頃。


煌々と輝く一部屋で、リュドミールは話し始めました。

次は前任者についてで終わるつもりです。

ちなみにこの話が終わったら、フローレンスの医師としての活動が始まります。

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