もしも~
闇夜に斜面を下る人影。
駆ける、駈ける、賭ける。
こちらに逃げれば助かるはずだ。大体あんな女信じるんじゃなかった。確かに美しい黒髪を持つ綺麗な女だった。
性格も大和撫子のように清楚で可憐だった気がする。
一緒に旅行に行こうと言われたときは天にも昇る気持ちだったが、、今は馬鹿だと後悔する。
何故か?
女が狂っているからだ。
何処が?
全部がだ !
ドサッ。
考えていたら、転んでしまう。
薄暗い山の中、ポツリと別荘があるだけの草むらの中でもがく音は女にも届いてしまったようだ。
ザッザッザッ。
足音が後方から聞こえる。
駄目だ立てない。足の感覚がない、手も動かない、捕まる。
足音が俺の近くで消え、女の影が俺の体に重なる。
「酷いです、トシヤさん。私を置いて逃げるなんて。怖いのですか?でも大丈夫。私たち二人は運命の恋人同士なんですから、絶対に元の状態に戻ります。トシヤさんなら、、」
両足を両脇に抱えられ、ズルズルと引きずられる、顔も手も腹もうつ伏せに倒れたままで、草に引っ掛かり切れ、血が出る。
「ううぅぅ、、」
その傷に土が入る感覚がある、だが痛みは不思議と感じない。そう俺は石になりかけているのだ。
つまり彼女はー
人を石にする《メデューサ》なのだ。
-3日後ー
口もきけない思考するだけの石像となった俺は、巨大なハンマーを持って微笑む女に言われた。
「ああっ、やっぱり私たちは運命の恋人同士では無かったのね、ごめんなさい。」
大袈裟な落胆の演技、そして女には不釣り合いなほど大きなハンマーが持ち上げられる。
そこから導かれる結論はひとつだった。
ゴッ!!
ハンマーが俺の胸に振り下ろされ、当たる。
胸が砕けるが痛みは感じない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、、」
ゴッガッ、ゴガ、ボンッ、ゴ、バキィ。
「ああっ、私を幸せにしてくれる運命の恋人は一体何処にいるの?!」
女が最後、俺の頭にハンマーを撃ち下ろした瞬間、テレビの電源を切ったように俺の思考は停止した。
世の中には不思議なことが沢山ある。
妖怪、怪奇、階段、都市伝説、等々、だがそれらが本当なら?
実在したのなら?
それが私達の法則で成り立つものなら、我々はどの様にそれらに接すればいいのだろうか、、それらのモノ達に、、、