てか、顔がタイプなんだよね…だからさ、私に紹介してくれないかな? お願い!
―――「宇佐さん、"うさぎ役"だからっ!」
あれから、劇の練習に顔を出すようになった。正直、気乗りはしなかったけれど、やらないのはなんか違うかな?と思ったからだ。初めは、私が練習に顔を出すと…皆「え?」って顔をしていたけど、クラス委員長の高橋さんのおかげで、少しづつではあるが、クラスの人とも会話をする事が増えてきていた。
クラスの人達は、話をしてみると、私が思っていたよりも普通で…
「わーっ!やっぱ宇佐さんって頭いいんじゃん! 全然クラスで喋んないから、怖い人かと思ってた」
だとか、
「実は、秘密結社に所属していて、スパイ活動してるから必要以上に喋らない説とかあったよね?」
だとか、そんな話をされた。そもそも、私の事が気にくわないのはあの三人だけで、他の人はただ、掴み所のない私に、距離を置いていただけと言った様子だった…。
そう知ったとき、私は…私が勝手にクラスの人は皆、私が嫌いなのだと思い込んでいたのかもしれないって、そう思った――。
でも、私は嫌なヤツで…それなら、どうして…どうしてあの時、誰も救ってくれなかったのか…って思ったりもしたんだけど、結局、私と言う人物を知らないのだから…皆も、"怖かった"のかもしれない…とも思った。
そう考えると、渡くんは…あの時、どんな気持ちであの場に入ってきたのだろうか?話を聞いていたなら、尚更入りづらかったんじゃないだろうか……?そんな事を考えていると、クラスの男子に呼ばれる。
「宇佐ー、この後おまえの役だから入って!」
「あ、はい」
劇の練習に参加するようになって、渡くんとはあまり会えていない。たまに廊下でスレ違う時に、軽く話す程度で…たまに中庭に行けても、あっちはあっちの準備で忙しくて…って、あれ?私……
(渡くんに、会いたいと思ってる…?)
ふと、そんな事が頭をよぎる。でも、なんで―――。
そう考え始めると、何故か渡くんが頭の中にいっぱいになっていく。と、急に声をかけられる。
「……さん、宇佐さん…!」
「えぁ?! は、はい!」
声の主の方を見ると、この間廊下の窓から私を見て逃げ出したように見えた子だった。その時の事を思いだし、変に身構えてしまう。
「な、なにかしら?」
「宇佐さんってさ…」
「は、はい」
「隣のクラスの渡くんと、仲良いよね?」
「え?…あ、うん…」
(仲、良いのかな?)
「付き合ってるの?」
「ひゃっ?!」
うわっ、自分思うほど変な声でた! つ、付き合うとか…考えた事もなかった…私が、渡くんと…? 少し想像をしてみる。
『美月…どうした? 浮かない顔して…』
『今日、ちょっと嫌なことが合って…だから、落ち込んでいるのかもしれないわ…』
『そうか、じゃあ……全部俺が忘れさせてやるよ…!』
『だ、ダメよっ…!』―――
って、そんな馬鹿な…これは妄想だ。きっとこんな風にはならない。そもそも、渡くんってこんなじゃないし…うまく想像できない…。
「宇佐さん…?」
「え、いや、付き合うとかは…ないけど…」
「ほんと?!」
「あ、は、はい…その、中庭でたまにお弁当食べるだけで…」
「そっか…そっかぁ…良かった!」
「え…?」
「私さ、宇佐さんがあの三人にめちゃめちゃ言われてる時さ、なんか言ってあげなきゃって思ってたんだ…それで、振り返った時にさ、彼が入ってきたじゃない? その時、あの空気の中ずんずん宇佐さんに向かっていって…正直、カッコ良く見えたんだよね…」
「え…?いや…」
(確かに、"全部知った上で入ってきた"のだから、勇敢な行為だったのかもしれない…でも、それを知ってるのは私だけ…のはずなんだけど…なんでこの子はそれを知らないのに…)
「てか、顔がタイプなんだよね…だからさ、私に紹介してくれないかな? お願い!」
パチン、と手を合わせて彼女は頭を下げてくる。顔か…確かに、彼は綺麗な顔立ちをしている。紹介…紹介か…なんでだろう?とても胸の辺りが苦しくなる。渡くんに『この子が友達になりたいらしいのだけど』、そう言うだけ、やっと最近クラスの人とも話せるようになってきたんだ…断るのは得策じゃない。なのに―――
「そう言うのは、私なんて言っていいかわからないし…そのごめんなさい…」
「えー! いいじゃん! お願い! ねっ!」
(ぐっ…お、押しが強い…!)
「え、えっと……」
私が困っていると、扉の開く音。
―――カラカラ…
「失礼しまーす…あ、宇佐いる?」
「あ、渡くん…」
ちょうど、渡くんが劇の練習をする教室に来てしまう。
「へー、マジで視聴覚室でやってんだ。そりゃわかんないわけだ…」
クラスの人達がざわめき始める――
と、そこにそれを割るように声をあげる目の前の女の子。
「わ、渡くん! こんにちは!」
「は?え?あ、こ、こんにちは…? 誰…?」
「私っ! 工藤 茜って言います!」
「え?は、はい…えっと…」
困った顔で、渡くんが私の方を見る。
(てか、工藤さんって言うんだ…。)
工藤さんは、更に渡くんへと絡んでいく。
「渡くん! あ、あのね!」
すごいな…私には、あんな風にガンガン声をかけることなんてできない…。
――「私ね…!」
そう言えば、工藤さんってクラスでも友達に囲まれている事が多いし…美人だし…胸も…私より大きい…って、私は何を気にして…
――「渡くんに、一目惚れしてましたっ! 私と、付き合ってくださいっ!!」
そうだ、こんな風に誰にでも絡めるなら、私になんか………ん?
(え…? えぇぇ…っ?!)
ざわついていたクラスが、一瞬にしてフリーズした。