―――運で配役がっ?! 心臓がドキリとする。
(ぐっ…初めて可愛いとか言われた…なんだろう?この気持ちは…悔しい…?とは違うような…)
初めての台詞に、私の考えとは裏腹に高揚するものがある…。本当、なんだろう?…でも―――
嫌じゃないと思う。
私がそんな事を考えていると、彼は急に
「じゃ、行くか」
と言って歩き始める。私は慌てて彼を追いかける。学校を出て、しばらく一緒に歩き思ったのが、彼は歩く速度が速いと言う事。身長が違うのだから、当たり前なのだけど、彼の速度に追い付こうと歩くと、少しだけ忙しい…
たまに小走りになる私に気づいたのか、彼はこちらを振り替えると「あぁ、ごめんごめん」と言って歩く速度を落とした。
「そ、そういう気遣いは出来るのね」
「なんで上からなんだよ」
「別に!」
私も彼のように少しでも素直になれたなら、きっと今の台詞はあんなんじゃなくて、「ありがとう」だったのだろう…。
そして、しばらく歩くと彼は駅前のゲームセンターへと私をつれて来た。
「…? 何をするの?」
「いや、ゲームでしょ」
「…え?」
意味がわからない…なんでこんな所に私を…?てか、初めて来た…。色んな音が聞こえる。
「ははは、何キョトンとしてんだよ、とりあえず遊ぼうぜ!」
「いや、私こう言うのしたことないし…!」
私が、わたわたとしていると彼は
「今日は俺が付き合わせてるから奢り! 好きな物やんなよ」
(そ、そう言われても……)
▽▼▽
―――1時間後
「だああっ! また負けた!」
「ふふ、渡くんまだまだねっ!」
「割と自信あったんだけどなぁ…」
私は、一時間前とはうって変わって、何故か音楽ゲームに没頭していた。
「あー、女子に負けるとか…俺だせぇ…」
「ふふふ、情報を処理する能力は男性の方が優れてるはずなのにね!」
「うわ、うぜぇ…と」
そう言いながら、彼はなんとなくスマホを見る。
「…もう一時間くらい遊んだな…行くか」
「どこにいくの?」
「いいからいいから」
「?」
私は、彼についていく。彼は何かメモを見ながらキョロキョロとしたりして、少し道に迷っているようだったが…道を見つけたようで、高台にある閑静な住宅街へと入っていき、その中にある階段を上がっていく。そして―――
「……っ!」
「ははは、想像してたよりすげぇわ」
私は言葉を失う。目を大きく開き、目の前の光景をただただ記憶に焼き付ける―――
「すごいわ…こんな所に、こんな景色があったなんて…」
そこは、住宅街の中の、何処にでもあるような小さな公園。唯一他の場所と違うと言えば、町が一望できると言う事。また、夕凪がそれを綺麗に演出している。
「素敵…」
思わず口をついて出た言葉。私はハッとして彼を見る。彼は、何故か嬉しそうにこちらを見ていて、こう言った。
「やっと、楽しそうに笑った」
(ああ、そうか…)
無意識に顔が綻ぶ。
(楽しいってこう言う事か……)
私は、彼の顔を見て、今ある素直な気持ちを伝える。
「渡くん…」
「ん?」
「ありがとう」
私の言葉を聞いて、彼は一瞬驚いたような顔を見せたけど、すぐに、何時もみたいに、ニッと笑って、ピースサインを作った。
▽▼▽
――翌日、何故か私は渡くんの事をやたらと考えるようになっていた。彼は、何故あそこまでして私に関わるのだろうか?とか、何故あんな景色を見せてくれたのだろう?とか…あと、今、何してんのかな…とか…そんな事を考えて、昼休みに中庭へと向かう。
私が行くと、既に渡くんがいて、軽く手をあげる。そして、いつもみたいに「よっ!」て言う。
「こんにちは、渡くん」
それから、他愛ない話をする。
「そういやさ、宇佐のクラスって文化祭何するの?」
「え……?」
「え?……」
「そう言えば、何をするのかしら…?」
「えぇ?! なんで知らないんだよ!」
「ま、まだ決まってないのよ! きっとそうだわ…!」
「いや…でもうちのクラス普通にもう動いてるけど…?」
「そ、そうなの…?」
「マジか…宇佐…」
▽▼▽
あのあと、渡くんが
「実は、この間授業サボった時に決まってたりして」
何て言うものだから、少し不安になってきた。
(本当に私だけ知らないのだろうか…? でも、皆放課後とか動いてる様子はないし…)
私は、意を決して…クラスメイトに声をかけてみることにする。
「あ、あの…」
「………。」
無視。やはり、職員室で先生に確認した方が早いだろう…
「(何してんだろ…私…)」
小さい声で呟く。最近、渡くんといるせいで人との距離感が分からなくなってきた…。そんな事を考えながら、教室を出る。すると、男子が一人私に声をかけてきた。
「あ! いた! おい、宇佐てめぇ昼休みいっつもどこいんだよっ!」
「?!」
「劇の練習っ! おまえだけ台詞も覚えてねぇし、昼休みいねぇし、放課後とか昨日声かけようと思ったら、昨日に限ってすぐいなくなるし! とりあえず今日は残れよっ!」
「え?…え…?」
あまりにいきなりだったので、私がたじたじしていると、クラスの女子が一人やってきて
「もう、そんな言い方したら宇佐さんビックリするじゃん!」
(この子…クラスの委員長…てか、劇?! 劇ってなに??!)
「はー?だってよ、こいつ何時もいねぇじゃん!」
「あ、あの…っ!」
私の声に二人が黙る。向けられる視線…
「えっと劇…って…?」
「あー、ほら、やっぱり知らないんだよ」
「えぇ…? だって決まって何日たったと思ってんだよ…」
「そ、そうだけど…ほら…この子…」
二人が何やらヒソヒソと話す。あー、これたぶん私の事言ってるんだろうな…以前の私なら、きっとこの時点で腹をたてて何処かに行っていたかもしれない…でも、今は違う。なんと言うか、渡くん
と話したことで、人と話すと少し分かり合えると言うことを知った。だから―――
「げ、劇って何をす、するのかしら…?」
「マジかよ宇佐…」
「ほら、知らないんじゃん! あのね宇佐さん、この間決まったんだけどね…その時ちょうど宇佐さんいなくって…」
(やっぱり、あの時決まったんだ…)
「劇は不思議の国のアリスで、籤引きで配役を決めたんだけど…」
―――運で配役がっ?! 心臓がドキリとする。
「宇佐さん、"うさぎ役"だからっ!」




