あまりの不意打ちに、反応の仕方がわからない…っ!ただ分かるのは、たぶん私の顔は、今…真っ赤だ……!
あれから、私達は当たり前のように昼休みは中庭で話すようになっていた。その時に聞いたのだけど、彼は 渡 修也君 と言うらしい。なんでも、中庭に1人でいたのは、つい最近私の通う学校に転校してきたかららしかった。
それと、あの日以来…私は完全にクラスで孤立してしまっている。ただ、今までと大きくは変わらないので、あまり気にしないようにしているのだけど、お節介なマイペースぼっちの彼は、
「なぁ、宇佐さ…このままじゃダメじゃね? てか話聞くとさ、悪化してんじゃん」
「うーん…でも、別にいいわよ…今までよりもちょっと無視されるレベルが上がっただけだし…そんなに気にしてないわ」
「本当かよ」
彼はそう言って「ふーん…」と、疑うような目で見てくる。しかし、これは私の正直な気持ち…のはずだ。ただ、クラスにいるのは前よりも息苦しさの様なものを感じる気はする…。そう考えると、やはりもうちょっと私はクラスの人と馴染む努力をした方が良いのかもしれない…我ながら「大丈夫」だと思ったり、考え出すと「改善した方が…」と思ったり…自分の優柔不断差が嫌になってくる…
「なによ、大丈夫だってば」
更にこうして、私はまた素直にもなれず…彼の手助けを拒否してしまう…
「…そうか、ま、でもあんまそんな顔してっとさ、やっぱ心配になるわ」
「え?私はどんな顔をしていたの?」
「なんつーか…前からなんだけどさ、宇佐ってつまらなそうなんだよな」
(つまらない…?つまらないって何がだろう?)
「ごめんなさい、ちょっとわからないわ…」
そういう私に、彼は柔らかくニッと笑って
「はは、そっか、まぁその内俺が分からせるから良いよ」
「どういう事?」
「べっつにー」
そうこうして、昼休みは過ぎていった。
▽▼▽
その日、私は家に帰り夕食や入浴を済ませた後、1度ベッドに横になる。
「はぁ…疲れた…」
その時、ふと彼の言った言葉を思い出した。
『なんつーか…前からなんだけどさ、宇佐ってつまらなそうなんだよな』
天井に意味もなく手を伸ばし、自分の指の間から零れる電球の灯りを見ながら考える。
(そんなに、私はつまらなそうなのだろうか…)
今まで、必要最低限にしか他人と関わってこなかった。そうする事を疑問に感じたこともなかったし…ただ、確かに自分は人とはちょっと違うのだろうと言う自覚はあったが…
「まさか、ココに来て…自分を見つめ直すことになろうとは…」
呟いた後に、『はは、そっか、まぁその内俺が分からせるから良いよ』。その言葉を思いだす。そして、何故か顔がにやけている事に気づき、ハッとする。
「うわ、私何してんだろ…気持ち悪…」
私は体を起こして、勉強をするべく机へと向かった――。
▽▼▽
翌日の昼休み、中庭に行くが彼の姿がない。辺りを少しだけ探すが、どうやらいないようだ。
「ま、何か用事でもあるんでしょ…」
私は呟いて1人ベンチに腰掛けお弁当を食べる。
―――何故だろう?今まではこれが普通だったのに、なんだか落ち着かない。私は意味もなく、いつも彼が座る場所に視線を向ける。と、そこに1枚の落ち葉が乗っている事に気づく。
「ふふ、渡くん、だいぶ小さくなったわね」
そう呟いた瞬間だった。
「誰が小さくなったって?」
声が聞こえ、そちらに視線を向ける。
「よっす!」
彼はいつも通りニッと笑って軽く手をあげた。それを見て、少しだけホッとしている自分に気がつく。と、同時に恥ずかしい独り言を聞かれたのを思いだし、顔が熱くなる。私は、それを気づかれないように、平静を装い彼に話しかける。
「お、遅いじゃない…! 何してたのよ?」
「あー?いや、ちょっとさ、もうすぐ文化祭じゃん? その準備と…あと、ちょっとな」
「そうか…もうそんな季節なのね…」
呟いた後に、さわさわと秋風が少しだけ強くふいて、隣に座っていた落ち葉を運んでいった――。
「あ、小さい俺が飛んでいっちまった」
「……ぐっ……忘れて…」
「ははは!」
それから、彼が定位置に座る。しかし、お弁当はない様子だ。
「ご飯は?」
「あー、食ってきた、時間ないと思ったし」
「そう…」
ゆっくりと時間が流れる。私は、たぶんこの瞬間が好きだ。居心地がいいと言うか、とても落ち着く気持ちになる。私は、目を閉じて、優しく頬を撫でる秋風を感じる。と、彼が声をかけてきた。
「なぁ、宇佐ってさ、今日暇?」
「……え? 特には…用事はないけれど…」
「そっか、ならさ放課後付き合ってくんない?」
「え…えぇ…別に構わないけれど…」
「よしっ!」
彼は軽くガッツポーズをして、「なら放課後、ここで待ってて!」と言ったかと思うと、徐に立ち上がり、「ちと、俺戻るわ」と言って去っていった。
「放課後…なんだろ?」
私はそう呟きながら彼の背中を見送った。
▽▼▽
放課後。言われた通り、中庭で彼を待つ。と、廊下の窓に私のクラスメイトの帰る姿が見えた。彼女はこちらに気づいた様子で、チラリと私を見ると、走って行ってしまった。
その姿に、なんとも言えない気持ちになる…まぁ、そんなに気にしてはいないけれど…そんな事を考えていると、
「またつまんなそうな顔しやがって」
私はいつの間にか下を向いていたようで、声のした方に顔をあげる、とたん、頬にひんやりとした違和感――
「わっ?!…つめたっ…!」
「はっはっは! 何が『わっ?!』だよ…あはははは! そこは『きゃっ』じゃねぇんだ? ははは」
「ぐっ…」
可愛い悲鳴をあげられるなら、あげてみたいものだ。生憎と私はそんなスキルもっちゃいない。本気でビビった時なんかは、きっと声にならない悲鳴をあげるのが精一杯で、その場でフリーズするのが、関の山だろう。
「わ、悪かったわね…可愛くなくて…」
私は、まだ笑いながら彼が差し出しているフルーツオレを受けとったその瞬間―――
「はーっ!笑った笑った…つか別に、可愛くなくはないでしょ」
「…へ?」
(うわっ、変な声でたっ!てか、え?…)
私の気も知らず、彼は続ける。
「いや、うん。宇佐はさ、可愛いよ。不器用な所とか、実は一生懸命悩んでる所とか、俺はアンタのそう言うとこ、可愛いいと思うけどな…」
(こっ…こいつ…っ! ぬけぬけと…っ!)
「な、な、な……っ!」
あまりの不意打ちに、反応の仕方がわからない…っ!ただ分かるのは、たぶん私の顔は、今…真っ赤だ……!