すれ違った想い
ありがちなストーリーかもしれませんが読んでくださった方に少しでも感動を与えることが出来れば幸いです。
ーあぁ、あの時お前に伝えていればよかったな……
何も変わらない今日がまた始まった。
会社に出社するため紺のスーツに身を包み、まだ寒さも残っているためお気に入りのモスグリーンのマフラーを首に巻き颯爽と通勤路を歩く。
そしていつも俺の視線の先には幼馴染の朔也の姿がいる。広い背中に背筋を伸ばして歩く姿は凛としていて俺から見てもカッコイイと思った。後ろから声をかけてみるが気づかない、ましてや振り向くことすらもしないで歩いてしまう。
やっぱり今日も気づかないよな、もう二年もこんなんだからさすがに慣れたな……
俺と朔也は生まれた時から一緒に過ごしてきた。両親が親友だったためどこに行くにも一緒で、小中高と進学先も同じで挙句の果てに会社までも同じところに勤めている。
気づくと俺の隣にはいつも朔也がいた。
多分この世界中探しても朔也以上に分かり合える奴はいないだろう、そんな風にも思える奴だった。
だがちょうど二年前のある日、二人で飲んだ帰りに些細なことで喧嘩をし、それっきりこのような関係になってしまったのである。
慣れたといっても俺の口からは心とは裏腹にため息が零れ、外の冷気により白く、空気と溶け合うように消えていった。
その日の帰り、仕事帰りの朔也をたまたま商店街で見かけた。実家暮らしをしている俺たちは自炊もしなくていいため滅多に商店街に訪れることなどない。
悪いとは思いつつも好奇心に負けそっと後を追うと、花屋へと入っていった。様子を窺うと店員と何やら真剣に話していた。
誰かにプレゼントするのか……とうとう朔也にもそんな人が出来たんだな……
胸の奥がズキっと痛んだ。この痛みは以前にも覚えがある。
痛みを振り払うように踵を返して、家へと走り帰った。
そして一週間が経ち俺の誕生日になった。いい年してと思われるかもしれないが、古くからの友人が会いに来るということで家ではなくある場所へと足を運んだ。
去年は朔也は来てくれなかったが今年は来てくれるかな……と期待していたが、一向にあいつは姿を見せなかった。
順番に俺へとあいさつし話かけてくれた。俺はそろそろ結婚するとか、会社の上司がどうとか他愛のない報告や愚痴などが多く俺は笑いながら相槌を打って聞き続けた。
両親もわざわざ来てくれ、俺を見ては泣く。
昔はいろいろと迷惑かけたけど、立派に社会人やってたもんな……俺
もう人は来ないだろうと帰ろうとすると足音が聞こえた。
まさかと思い振り向くとそこにはあいつが立っていた。
片手に花束を持ち、真っ黒のスーツに身を包んでいる朔也は今にも泣きそうな顔をしていた。
「似合わない花なんて持って、この後デートか?」
からかい交じりに笑いかけると、あいつは急にしゃがみこんだ。
戸惑う俺をよそにポツリポツリと話し始めた。
「久しぶりちょうど二年以来だな、充の誕生日に飲みに行って以来話もしてないし会ってもいないよな。去年はあまりにも混乱して会いに来れなかったんだ……ところでさ、あの時の喧嘩の内容覚えてるか?」
「もちろん」
俺の誕生日だからといって朔也の奢りで俺たちは飲みに出かけた。
その時俺は言うつもりもなかったが、周りのカップルの多さと酒にやられ口走ってしまった。
「お前、彼女作んないの? 結構カッコイイんだし選び放題だよな」
「は? 別に作んないし」
「でも、お前の親は心配するんじゃねえの、一人息子がいつまでたっても独り身でって。なんなら今度紹介するぞ」
自分で言っておいて、胸の奥が痛んだ。
「余計なお世話だよ! うるせえ人の気持ちも考えずに首突っ込んでんじゃねえよ」
肩に置いた俺の手を払ったあいつは完全にキレていた。そのまま走り去っていく朔也を俺は追いかけたんだ。
だけど……
「その時急に車が俺に突っ込んで来ようとしたんだよな、今でも忘れないよ……充の俺の名前を呼ぶ叫び声が」
「俺もその時は必死だったんだよ」
笑いかけると目からは大粒の涙が零れ落ちた、頬を伝って地面を濡らしていく。
「俺をかばって」
「お前をかばって」
「「死んだんだよな」」
ザアっと風が吹き抜け、周りのお墓に備えてある花の花弁が舞った。
そう、俺はあの時硬直して動けなくなったあいつの腕をなんとか引っ張り、その反動で俺が車に轢かれた。
俺は即死だった。相手の運転手は飲酒に加え居眠りもしていたためアクセルを踏む加減が出来ていなかったそうだ。
でも死ぬとき、車が自分の方へとやってくるのがスローモーションのようにゆっくりと見えたんだ。その時俺は思った。
ーあんなことが言いたかったんじゃない、本当はお前が……
そんな後悔を抱えたまま、俺はずっと彷徨っていた、だから必死に伝えようと声をかけてみても俺の声は朔也に届かないことぐらい理解していた。
それでも朔也に伝えたいことがあったんだ。
「あの時なんで俺が怒ったか充……わかってないだろ」
「うん、わからないさ」
目を伏せると、朔也から花束を差し出されていた。
「これ、カタクリの花っていうんだ。花に疎い充は知らないと思うけどさ花言葉が二つあるんだ」
「知るわけないじゃん、ってかお前も似合わないことするじゃん」
「花言葉は『初恋』と『寂しさに耐える』」
「へ? 何言ってんだよ」
「お前人の気持ちも知らないで、彼女作れってないだろ……しかも好きな奴にそんなこと言われたらよ! 俺はずっと充が好きだったんだよ! 男に好きなんて言われても気持ち悪いかも知んねえけど物心ついた時からお前に惹かれてた、必死に隠してきたけどさすがに限界だった。だから誕生日に伝えようとしたんだ、なのにこうなっちまって隣には充はもういないし」
泣きながら訴えるように朔也の言葉に、俺の目から涙が零れ落ちた。
朔也が俺を好き……?
俺たちはずっとすれ違って想い続けてきたのか……
俺もずっとお前に伝えたかったことがあるんだ。
朔也と同じで隠し続けてきた気持ちを今伝えるよ。
零れ落ちる涙は拭いきれず滴り落ちていく、最高の笑顔を作って伝えよう。
「俺も朔也が好きだよ。世界中の誰よりも朔也が好き」
神様の悪戯か、俺たちにくれた贈り物かわからないが、零れ落ちた涙は地面を濡らしていた。
確かに俺はやっと朔也と目を合わせることが出来た。自分の思い違いでなどでない。朔也の目が見開いて俺を真っ直ぐに見つめているのだから。
「充……なんだよな。本当に充なんだよな」
「なんども言うなよ」
俺達はお互いに顔をくしゃくしゃにしながら笑いあった。
「俺達どんだけすれ違ってたんだろうな」
「そうだな、でも逝く前に朔也に伝えられて、それに……こうやって、話せるとは……思わなかった」
「俺もだよ、充」
こんなわずかな時間ですらも愛おしいと感じてしまう。
お互い惹かれあうように頬に触れそっと呟いた。
「「永遠に愛している」」
目をとじて触れるだけのキスをする。本当に感触があったかは定かではないが。もう十分だった。
一筋の涙が零れ落ちると同時に、朔也が目を開けた時には充の姿はもうどこにもいなかった。
よろしければ、一言でもいいので感想・アドバイスを貰えると幸いです。
短編リクエストも承っています!