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【習作】勇者は世界を二度救う

作者: 時藤 葉


 血まみれの少年が一人、玉座の前で立っていた。


 所々破損した鎧を身にまとい、手には砕け散った剣。


 彼の視線の下には絶命している化け物、『魔王』がいた。


「これで、世界は救われた」


 少年はそう呟くと目を閉じゆっくりと後ろに倒れこむ。


 少年と魔王の戦いは死闘だった。


 彼とともに魔王討伐の旅をしていた5人は既に後ろで倒れている。

 死んでこそいないものの誰もが重傷だ。



 だがしかし少年は勝利した。


 異界からの勇者としての力をすべて使い切り、救世を成し遂げたのだ。


 そう、まさに全てを使って。


 彼が魔王を絶命させた一撃は彼が持つ魔力全てと、


――この世界における彼が存在した記録と記憶の全てを代償とした一撃だった。


 今ここに血まみれで倒れこむ少年は、もはや世界を救った勇者ではない。


 ただの来栖蓮という名の日本人でしか無いのだ。


 やがて彼の体はゆっくりと光に包まれる。


 少年はおぼろげな意識の中、それを感じていた。


 しかしその光の正体を少年は気にしてはいなかった。


 なぜなら致命傷こそ避けたものの、少年の体からは大量の血が流れ出ていたからだ。


 遠くないうちに失血死するであろうことは、明白だった。


 治癒魔術という手段はあるが、少年に魔力は残っておらず仲間も皆気を失っている。


 少年が存命のうちに目を覚ますであろうことは望めない上、仮に目覚めたとしても目覚めた彼らの先にあるのは見知らぬ少年の半死体だ。


 ここが安全な場所ならともかく、帰還も一苦労な魔界の奥底である以上見知らぬものに割く魔力は無い。


 故に彼の死は必然であった。



 そしてついに、彼の意識が途絶えようとする瞬間が来た。


 彼の脳裏には何も浮かび上がらない、これから死ぬことの後悔すら無い。


 少年は満足していた。


 日本にいた頃は何も為すことができず常に劣等感に苛まれ続けていた。


 そんな自分が救世という大事を成し遂げたのだ。


――何も思い残すことはない。


 そう心中で呟いたが最後、彼の意識はまばゆい光に包まれ、途絶えた。





 クロイツ王国の史料には、『の勇者が魔王討伐を為す』とだけ書かれている。


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