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その少女は、ス、と僅かな隙間から這入りこみ、一瞬、太陽の光に怯んだかのように揺らめいた。彼女を知っているような気がしたし、全く見知らぬ少女のようにも思えた。足を引きずるように近づいてくる。ゆっくりと上体を伸ばし、その天辺がどこまでも伸びていくように見えて、寒気が背筋を這い上がった。おそろしく続いていくと思われたその伸び様は殊の外はやく終わりを見せて、一層ぐらんぐらんと不安定に右へ左へと揺れる。声を発することはない。ちらりとも鳴き声を上げない。彼女は声を失っているのだろう。口が空を食むように開いては閉じ、それを見つめていると吸い込まれてしまいそうに錯覚する。
息を飲むと、彼女はぎょろりとした大きな目を駒緒へ向けた。
血走った両目はひたすらにこちらを見つめていた。訴えかけるように口が開くが、固まった駒緒に悲しげな表情を浮かべたように思えた。
駒緒の知っている彼女はそんな表情をしない。悲壮に満ちたとて、駒緒に助けを求めるときでさえ彼女は決して媚びることはしない。少女らしい少女ではなかった。少女と称するには熟し過ぎていた。
だから彼は決して彼女の名を呼ぶことはない。少女は彼女でないのだから、それはまるで意味がない。呼び間違えるということは有り得ない。
その名を知ると同時に、彼はこの無意味にも思える儀式の意味を知るのだ。何年もの間、臭いものには蓋をして逃げ続けてきた彼自身の過去は、いとも簡単に暴かれてしまった。その過去を知るものはすなわち限られている。
暴けるのは一握りの人間のみである。
行寺キノエが隠し通そうとした過去を引きずり出してきたのだ。それ相応の理由があろう。
少女には理由があり、意味がある。
駒緒が一歩、一歩と踏み込むたびに少女の目はあてどもなく動き、震えた。過去からの亡霊は必ずや駒緒も知っている存在のはずだ。証拠に脳の端がチリチリと焼けた。目の前の気配を知っている。誰よりも駒緒に近く、彼女に似通った少女。あの場所から誰かが掘り起こした異物である。
「もう終わりにしましょう」
正体さえ分かってしまえばもう乱されることもない。少女は哀れな被害者だ。
「わらびさん、いるんでしょう?」
「謝らないわよ」
亡霊から女が出てきた。亡霊の影に隠れていたわらびは澄ました顔で「わたし、謝らないわ」と言う。つい先程まで悠然と女学校の行く末について演説していた学長は平然と現れて、少女の亡霊を押しのけた。
思っていたより早い登場に面食らう。もう少し粘るかと思っていた。
彼女は潔い性格らしい。なるほどそうでなければ伝統ある女子校を共学にしようなどという誰も望んでいない改革などを打ち出したりはしないだろう。
「目紜わらび。確木女学校学園長足るわたしは謝らない――誤ることはない」




