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疑殆帯同  作者: 穏田
第四章
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 血反吐を吐いて逃げ惑う。

 就職活動のためにこの学校のことを調べ尽くしたとはいえ、校内図までは把握していない。あれというのは駅の構内図とは違って大っぴらにはされていない。特にこのように閉鎖的な学校なら尚更のこと、調べようと思えばいくらでも道はあっただろうが――何事にもその道に通じる者というのはいる――、それに対して重きを置いていなかったというのが駒緒の正直なところである。理念や校訓をそらんじることができて損はないけれど、校内図という就職活動においては知っておいても知らずとも何ら影響のないことを、そこまでの労力を割くことは、たとえ彼でなくとも得策としなかっただろう。

 それよりもまず、頭に詰め込むことは、それこそ山のようにあった。

 調べ得ることは調べ尽くしたと言ってもいい。校内図以外は全て頭に入っていると言っても過言ではないのだ。

 だからこそ、彼が犯したミスは彼自身を確実に、着実に窮地に陥れていた。

 そうは言っても、学校というのは、そのほとんどが同じような作りをしているものだ。

 確木女学校のうちでも彼が今いるのは小等部である。これが文理選択で校舎が東と西に分けられている高等部だったなら、そこで彼の敗北が決定していたであろう。

 しかしながら、幸か不幸か、彼の現在地は疑いようもなく小等部であった。チャンスはいくらでもある。

 彼が《彼女》を出し抜くには充分だった。

 1年生の教室の群れを横目に走り抜け、階段を駆け上がる。

 振り向かず、声が聞こえても動じずに、上へ上へとひたすら登っていく。校舎は6階建て。その最上階には6年生の教室が連なっている。

 しかし、そこに至っても駒緒の狙いは果たせない。もっと上へ、上がっていかなければいけない。

 不純物が混じっていては、真実を見つけることはできないのだ。

 最上階の、更にその上。

 閉鎖されている屋上への階段を昇る。

 ふと気付けば、血はもう止まっていた。足の痛みもない。意識しなければ忘れていられただろう傷は、再び主張し始めることもなかった。

 屋上へと続く扉は鍵をかけられて閉ざされていたが、そんなことは問題ではない。駒緒にとって、それは些細な問題だった。

 ドアノブを・・・・・引きちぎって・・・・・・、その先へと進む。

 太陽の日差しが容赦なく目を刺す。この森に這入ってから一度も見ることはなかった自然の光はひどく健全な匂いがした。

「はは……」

 金網まで走って行って、その下を覗く。足下にまで伸びた蔓と木々の先端が遙か遠くまで続いていた。

 この学校には運動場なんていうものはない。確木女学校において、日を浴びることができるのは、この屋上の空間のみに限られる。

 口からは笑い声が漏れたが、晴れやかとは言い難い。気分は直滑降に下がっていき、このあとの展開次第では浮上しそうもない。

 振り返ると、きっちり閉めたはずのドアが、ゆっくりとこちら側に押されていくところだった。

 軋む音に肩を竦める。

 亡霊なら亡霊らしく、大人しくしていればよかったものを。

 金網に背中を預け、森の奥の奥からやってきた化け物を迎える。それは、少女の形をしていた。

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