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確木女学校は森の中にあった。
森の奥の奥の、そのまた奥。
深い森の奥の中央に、その学校はあった。
あったという表現は適切ではない――君臨していたのだ。その地は少女たちの楽園であった。
大っぴらに男子禁制と口に出したりはしない。そういう時代ではないのだ。
女人禁制、男子禁制と唱えたところで、昨今ではそれが通らないこともままあった。免罪符として成り立たない時代であった。
男の庇護下から自立せよという風潮に合わせるように、自立した女が男を養う。そんなこともある現代社会では、性別に囚われていてはいけないと校長は言う。
彼女は若く、精力的だった。前向きな女だった。
校長の考えは実に合理的でシンプル。余地もない。
伝統を重んじるべきと主張する周囲に「何をおっしゃいます」と微笑むのだ。
その笑みに怯むことのない者が「校長!」と悲鳴を上げた。
「伝統とは、時流に染まってはいけないのです! 染まらぬからこそ伝統なのです!」
それはもっともな言い分だった。文句の付け所のない立派な正論だった。
それでも校長は譲らない。
何も言わず、決意したことを粛々と着実に進めていった。
「いきなり共学にしようだなんて思ってないわ。女子校は女子校だからこそ価値があるのよ」
しかし、と校長は続けた。「だからといって、女だらけの世界は駄目。いけないわ」
そう思わない? ――聞きながら、彼女は長い髪を耳にかけた。
パイプ椅子に座って、背筋を伸ばした駒緒は「はぁ」と気のない返事を返した。
「とても素晴らしいと思います」
「いけない理由に関しては言わないわ。それはまだ言わないの。誰にも言ったことないんだから」
「そうですか」
興味はなかった。
ただただ就職先が見つけることだけを祈っていた。祈られたくはない。祈るのみだ。
これが就職活動において第一希望に考えている学校の面接だった。
最初で最後にしたいと思っていた。
校長は駒緒の答えに満足したようだった。足を組み直して「面接は以上よ」と言う。
「ありがとうございました」
「はい、さようなら」
校長室を出る。
掴んだ鞄の取っ手が指に食い込んだ。思わず溜め息が出る。
今日の最終面接のために、どれだけの準備をしてきたか分からない。それが、たった3分にも満たない時間で終わった。鞄の中には、この学校の資料がぎっしりと詰まっている。
そんなに短い時間で俺のことが分かってたまるかと舌打ちをした。
次第に歩調が速くなっていく。
振り向いた。
誰かが付いてくるような気がした。
クリーム色の廊下が延々と続いている。誰もいなかった。
その先には誰もいなかった。後ろから付いてくるものはなく、影も形もない。それでも駒緒は知っている。知っているはずだった。
「――駒緒さん?」
甘くかすれた声が彼を呼ぶ。
ランドセルを背負った少女がこちらを見ていた。




