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疑殆帯同  作者: 穏田
第三章
38/50

「似合わないから告白しないんだって」

「何が?」

 リンゴに色を塗りながら、美優は駒緒を見上げた。

 その隣に座ると少し遠ざかる。そんなに避けなくてもと言えば、だって駒緒って距離感がおかしいと更に遠ざかった。

「人が不快にならない程度のパーソナルスペースって両手を振り回して当たらない程度の距離のこと言うの」

「長年の友だちに対して普通そういうこと言わない」

「長年の友だちだって不快になる距離で話しかけてくる駒緒が悪い」

「ごめん」

「そうだね」

 年々人の心を傷つけるのがうまくなっていくなぁ。

 半ば感心しながらパレットに赤い絵の具を絞り出す。赤のみで色づけされているはずなのに、どうしてかその赤は薄く滲んで見えた。

「あ、ねえ駒緒。新しい絵の具買ってきてよ」

「やだよ」

 名案とばかりに微笑むが動く気配がない。代金を支払う気などさらさらないのだろう。

「あいつがおまえのどこに惚れたのか全然わかんない」

「わたしが分かってるからいいの」

「山岸が可哀想」

「人を見る目がないのがいけないんだから、ほっといて」

 彼女の批判のベクトルはあらゆる方向に向いている。

 これで悪気がないことが恐ろしい。こいつには誰か1人を特別扱いするということができないんじゃないかと一層山岸が哀れに感じられた。

 純粋って罪だ。

 美優は絵の具に水と筆を馴染ませながら、唇を噛む。

 我慢しているときの癖だった。そんなに俺といるのが嫌か。

 そんなに噛むと血が出ると言いながらリップクリームを差し出せば「ありえない」と言って叩き落とされた。

「汚い」

「汚くねーよ」

 転がっていってしまったそれを追いかけて机の下に潜る。誰かが落とした消しゴムもついでに拾ってから元の場所に戻った。

「杏奈に怒られるよ」

 美優はリンゴのヘタをつまんで底の部分を塗り始める。口が半開きになってることに気付いていないのだろう。アホに見える。

「あいつはいつでも怒ってんだよ」

「あんたの前だけでしょ」

 机に消しゴムをこする。カスを投げつける前に視線で叱られた。

「子どもじゃないんだから」

「子どものままがよかったなぁ」

「そのうち大人になりたいに変わるから」

「大人になりたい?」

 美優は視線を逸らした。「なりたいよ、もちろん」

「へえ」

 なりたくないのになりたいという心情は駒緒には理解できないものだったが、それが恋なのだとしたら、そんなものは捨ててしまったほうが楽になるんじゃないかと首を傾げた。

「おまえから告白すればいいのに」

「まだ子どもでいたいのかも」

 美優の言っていることはたまによく分からない。

 乙女心は複雑だと言えば、分かってるじゃんと彼女は言う。

 理解不能すぎて複雑だとは言えなかった。


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