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疑殆帯同  作者: 穏田
第三章
37/50

 どうしよう、どうしようと頭を抱える同級生は未だかつて見たことがないほど狼狽えていた。

 可哀想にと駒緒はどこか他人事のように思いながら、元凶となった手紙を紙飛行機にして飛ばす。しばらくして気付いた彼は「おれのラブレター!」と、それを追った。

 しわくちゃになったラブレターを一生懸命伸ばして、眉間に皺を寄せながら真剣に読み直し始める様子は必死でちょっと面白い。

「そんなものに頼るからだぞ、山岸」

 笑いながら声をかければ、じろりと睨まれる。おお怖いこわいと顔を隠した。

 イスに体重をかけてギコギコ揺らす。手遊び代わりに机をドラムに見立てて指で叩いていると、我慢の限界に達した山岸に指をひん曲げられた。

「美優もそれ読んだって言ってたぞ」

 山岸は答えない。

「佳乃ちゃんと中野も読んだって」

「……どうせ、似合わないとか言ってたんだろ。美優とおれじゃ釣り合わないって、おまえらこれ読んで笑ってたんだ」

 せっかく伸ばした皺は彼が握り込んだせいでまた復活する。目に涙を溜めて口をへの字に曲げた山岸は袖で目元を乱暴にこすった。

 空調の音がやけに耳につく。

 騒ぎながら廊下を走り抜けていく集団が羨ましかった。つい教室の外に目線を向けてしまう。

「いいじゃん、直接告白すれば」

「できないから手紙書いたの。おまえにラブレター代筆してって言ったとき話しただろ。何も聞いてないな、ほんと」

 山岸は溜息を吐いて俯く。

 どうしてそこで怖じ気づくのか駒緒には分からない。

「向こうが直接言ってこいって言ってんだからオッケーもらったようなもんだろ」

「イエス、ノーの話じゃなくて面と向かって言うのが無理」

「ヘタレか」

 ゲラゲラ笑ってやれば、ムキになった彼は顔を真っ赤にして怒る。

 しかし詰め寄るときに思い切り机に腰をぶつけ、痛そうだと思って見ていれば、ピョンピョンと跳ねる。

「何してんだよ」

 半ばあきれながら頬杖をついた。

「絶対折れた」

「よっわ」

 骨折したというところを掴む。ぎゃあ、と悲鳴を上げて山岸は駒緒の頭を叩いた。

 お互いに距離を取る。割と痛かった。

 頭蓋骨がじんじんする。

「頭の骨、折れたわ」

「腰の骨、粉砕した」

「弱過ぎだろ」

「おまえの頭蓋骨、アメ細工かよ」

 女子に天使と呼ばれる外見のくせに口が悪い。そんなところが好きだとどこかの誰かが言ってたなぁと駒緒は苦虫を噛み潰したような心持ちになる。

「世の中の女子には中身を見て欲しい、中身を」

「うるせえゴリラ」

「ゴリラに謝れよ」

「おかしいだろ」

 腰をさすりながら近くの席に座る。仕方がないのでその正面の席に移動してやると、山岸はぐしゃぐしゃに丸められたラブレターを投げて寄越した。

「人がせっかく書いてやった手紙を」

「もういらない」

「覚えた?」

「忘れた」

 そう言って少し困ったように笑う彼に「笑い事じゃねぇよ」とラブレターを投げ返して、また頬杖をつく。最近ますます学長に似てきたと駒緒を見ながら山岸は話題を変える。

「頬杖つくとこが似てきた?」

「頬杖つくとこが似てる」

「くだらねー」

 一笑に付して腕を伸ばし、山岸の無防備な頭をはたく。

 ぐらぐら揺れて、赤べこのようだった。

「なあ、おれさあ」

 黒板の上にかけられている時計を見ながら、そろそろクラスメイトたちが戻ってくる時間だと窓の外に視線をやる。グラウンドでは集合させられた生徒たちが、体育座りをしながら何やら解説をしている様子の教師を見ていた。

「昔、ずっと前、おれたちが小等部のころ、学長が今の学長じゃなかった気がするんだけど」

「はあ。そうだっけ」

 人差し指のささくれを弄りながら相槌を打つ。

 山岸は首を傾げた。

「どうだっけかなぁ」

「俺転入組だから知らないけど」

「そっか、おまえはそうだっけ」

 じゃあ、と山岸はぼんやり窓の外を見下ろしながら言う。

「何で学長の息子のくせにおまえって最初からいなかったの?」

「しーらね」

 そっぽを向けば、「教えろよ」とふざけて掴みかかってきた。両手首を掴み返して前後に揺さぶると、何がそんなに面白いのか、山岸は止まらない笑いを抑えることに苦労していた。

「馬鹿だなぁ、おまえ」

「うるせー、バカ」

 馬鹿だ馬鹿だと言い合っているうちにチャイムが鳴る。イスを引く音が何重にもなってやかましい。ありがとうございましたぁーと間延びする号令に続く礼と、言い終わらないうちにどこかのクラスのドアが開く音を聞く。

「おまえは? 杏奈ちゃんに告白しないの?」

「振られるから嫌だ」

 がやがやと体育から戻ってきた生徒たちが教室に入ってくる。

 山岸は何か言いたそうにしていたが、駒緒が着替えるクラスメイトに席を譲ると諦めて自分の席へと戻った。

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