10-6
――かわいそうに。
彼女は何も知らない。何も分かっていない。まだ幼く、善悪も正否も分からないのだ。
それを教えてくれるはずの親は失われ、身近にいた大人たちは彼女を謀ったのだろう。
何も知らない佳乃を捧げて安寧を得た。
――かわいそうな子だ。
目先の餌を必死で求めてここまで来てしまった。彼女が手に入れられるものなど何もない。
ああでも、と思う。
それだけではないのだろう。
ここまで深みに落とし込んだのは、周りの大人だけの責任ではない。大人のように狡猾ではない、無邪気な心から発せられた言葉を疑うなんて佳乃にはできなかったのだ。
親友の言葉を否定することができなかった。疑うことができなかった。家族の死から何も学ばなかった。
鈍感で思い込みが激しい生来の気質のせいで、ハズレクジを引いても泣くことしかできない。
だから哀れだと杏奈は目を伏せる。
彼女たちは、とっても哀れだ。
しかし、だからといって、杏奈に彼女たちを救う余裕などない。
彼女は彼女のことでいっぱいいっぱいだ。彼女たちが両手で受け止めきれないものを、どうして彼女が肩代わりできるだろう。
目紜杏奈は万能ではない。
義務があるとしても、実際手が回らないのだから優先順位に従っていかなければ後悔するのは確実に自分だ。
赤の他人を助けていたら自分の1番大切な人を失いましたなんてそんなマヌケな未来に誰が進んで歩むものか。もう奪われるのは嫌だ。臍を噛んで諦めたって、何も手に入らないなら譲る意味などない。私は、自分を犠牲にしたくない。
動かない彼女の隣を通り過ぎた。
振り返らない。
責任なんて取れないのだから、関わってはいけない。
無責任だと罵られようと、彼女には他を置いても守らなければならない人がいる。
――私はお姫様なんかじゃない。
ファンタジーの世界のプリンセスは可憐でか弱く、守るべきは己の美しさのみだった。杏奈は果たして本当に誰が見ても美しい存在だろうか。
生きている限り、汚れないわけがない。そんな人間はいない。
そして彼女は王子様にだってなれない。正義も武器も持ち合わせていない彼女はただ、中途半端な強かさと甘い見通しで突き進んでいく。
誰も助けてはくれないのだ。杏奈が誰1人として救わないのと同じように。
地下へと続く道を照らすものなど何もなく、彼女は階段を降り切った。
封を開けると、直下の彼女は杏奈を見上げて困ったような顔をした。
「ごめんなさい、杏奈。間に合わなかったわ」
「いいのよ、鏡」
縦穴の側面につけられた梯子に足を掛けながら言う。
彼女は彼女のために駒緒を救う。そのために他人を犠牲する。
それを後悔すべきじゃない。みんなやってることだ。悔やむべきじゃない。可能性なんか感じるな。期待なんて持つな。
「駒緒くんは私が生き返らせる」




