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疑殆帯同  作者: 穏田
第二章
24/50

9-1



 誰も私を理解できなかったが、それは私自身も同じことだった。

 だが、私の心は、私のことを誰よりも正しく理解していた。



***



 彼が足音を潜めて降りていく。めいはそれに合わせた。

 壁には水滴が滴り、這う。

 急勾配の階段を恐る恐る降りるめいとは対照的に、蛍は慣れた様子で先を行く。たまに振り返って、遠くに見えるめいを急かした。

 地下へと向かっていることが分かった。金曜日に見たスパイ映画では、地下室にはスパイ組織の秘密が眠っていた。

 秘密基地のようだと、彼女は思う。

 どこか乱雑で、しかし排他的。

 仲間以外がその空間を乱すことは許されていない。

 目紜家自体が虎の尾扱いされてはいたが、その彼らの内でも最もタブーに近いところに彼女はいた。

 彼女自身、目紜の核心を知ってはいたが、それとはまた別。

 目紜は多面的だ。

 彼女が以前触れたのはその一面にしか過ぎなかった。

 彼らはその核さえも移ろい易い。

「ご存知の通り、父は多忙です」

 蛍は言う。「目紜は変革を迫られている」

 どこかの政治家のような言い様に、めいは少し黙った。

 あんまり難しい話ならば自分は理解できないであろう。政治についてのことは、学校で習ったことが彼女の持ち得る知識の全てだ。大人が眉をひそめて訳知り顔で語ることはめいにはまだよく分からない。

 しかし話題は目紜のこと。

 政治よりかは知っていることが多かった。

 戸惑いながら、はい、と応える。

「父の堪忍袋の緒は限界だったのです。今なお行寺家に遅れをとっていることや、思うようにならないことが多過ぎた。父は傷ついていたのです。我らが母を失い、彼自身の心の拠り所さえ残されなかった。ただあったのは、ぼくたちと杏奈だけ。そして、最も憎き行寺。彼らのせいで父は余計に消耗しました。心を擦り減らしました。だから、行寺は殺さなければいけないのです。ぼくたちは杏奈のためにあると、幼い頃から言い聞かされていましたが、それでも、ぼくたちは元はと言えば父の子。その父が苦しんでいるというのならば、それを取り除き、少しでも心安らかになってほしいのです。そして、その手始めに駒緒に目をつけました」

 計画されたことでした、と彼は言う。

 しかし、誰でも良かったのですとも言う。

「隙さえあれば、そこに付け込むつもりでした」

 煽動したのは、一体誰だと思いますか?

 そう笑った彼の質問に、めいは答えられなかった。改めて、《彼》は恐ろしいと思っただけだった。

「駒緒はこの先にいます」

「死んだって――」

「まだ生きています。彼は紛いなりにも行寺の家長となる人間なのですから」

 めいは唾を飲む。

 唇を舐めた。

「あなたは目紜を裏切ったんですか」

「違いますよ」

 何の光も映さない無機質な両目が鈍く瞬きした。「行寺駒緒は、行寺から見捨てられたのです」

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