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疑殆帯同  作者: 穏田
第二章
20/50

8-3

 目紜杏奈は膝を抱える。

 父親に監禁されてから1日と少し。原因は分かっていた。駒緒だ。彼に告白をしたことが、父に知られたのだ。

 彼女は知らないことだったが、あの学園には隠しカメラが至るところに設置されている。花梨かりんはその管理を任されていた――そのせいで対応も迅速だった。

 父が過保護であることは充分に理解していたつもりであった。しかし、その認識は改めねばならない。

 異常だ。あの父親はおかしい。

 帰宅後、すぐに父の書斎へと連れてこられた彼女は、そこに待機しているよう命じられた。――嫌な予感はしたのだ。

 父親はひたすらデスクトップパソコンを食い入るように見ていた。

 何らかの映像が流れていることは分かったが、その詳細を知ることができたのはちょうど、監禁から24時間が経った頃だった。

「杏奈、来てごらん」

 父親が呼ぶ。その表情に嫌悪感を抱いた。

 何か良くないことを企んでいる顔だ。

「はい」

 逆らうことは許されない。逆らった結果、とんでもない目に遭わされた兄弟を知っている。その点で、杏奈は特別甘やかされていた。さぞ恨まれているであろうと思ったが、兄たちがそれを態度に出すことはなかった。

 引け目を感じていた。兄としての使命感で自分に優しくしてくれるのだろうと――彼女が他の兄弟に嫌われることなど有り得ないというのに。

「もうすぐだ」

 父親はイスを引いて、場所を譲る。

 促されるままに杏奈は画面を覗きこんだ。

「え――」

「これだろう? コマオっていうのは」

 呆然と――駒緒が自分の兄達にリンチされている様子を見る。それは、車内を撮ったカメラを中継していた。

 信じられない気持ちで父親を振り返る。手で隠していたが、彼のその口元は抑えきれないというように緩んでいた。

「何ですか……これ……」

「いやぁ、コマオくんね、コマオくん。ひどいよねえ、きみを振るなんて。泣かせるなんて。

 あ、泣いてないか。きみは本当に強い女の子だ。泣かなくて正解だよ。こんなやつのために流す涙ほど意味のないものはないからね」

 そうして彼は立ち上がる。娘の頬を心から慈しむように撫でる。

 寒気がした。

「あの……」

「僕が呼んだんだ。訊きたいことがあって」

 きみにも訊きたいことがあるんだよ、と父親は言う。

 その目の奥は冷え切っていた。

 杏奈は父の手を跳ね退ける。

 その腕を掴まれた。

 ぎりぎりと締め上げられる。

「痛い、痛い!」

「最悪だ。最悪だよ、杏奈。いけない子。そんな子に育てた覚えはないんだけどな」

 必死で振り払おうと足掻あがく。

 全体重をかけて引いたが、びくともしなかった。

「残念だ。彼の何が、きみの心を射止めたんだろうね。子どもだからと安心していた。最近の子どもは早熟だ。おかげで、取り返しのつかないことになってしまった」

 ぐい、と顔が近づく。

「杏奈」

 能面のような表情で、目紜キリは訊く。

 詰問する。

「彼に《鏡》を与えたな?」

 死刑宣告のように響く。

 父親は全てを知っているのだ――そのことが、杏奈を絶望させた。

「本来なら多くの犠牲でもって創り出すところを、きみは何も使わずに生み出した。とんでもない才能だよ。でもね、それだけはやってはいけなかった」

 杏奈は答えない。知らない。

 知らない――

「困ったなあ……」

 呟く。「どうしてこんな子になってしまったのかな。コマオくんのせいかな。彼がきみに悪い影響を及ぼしたんじゃないかな。駄目だよ。自分のレベルに合った子と仲良くしないと。彼は育った家庭に問題がある子なんだから。きみに釣り合うような人間じゃない」

 あなたがそれを言うのか。

「私が誰を好きになろうと、私の自由です!」

 至極当たり前のことを訴える。だが、それは許されないのだ。

 彼女にはどんな自由も与えられない。ただ、キリの機嫌を逆撫でするだけの行為だった。

「そうかい」

 彼はそれだけ言って、杏奈を離した。

「まあ、見ていなよ。これからコマオくんに会ってくるから。彼が《鏡》を持っていれば、それで良し。なかった場合は、どんな手を使ってでも探し出す」

 探し出して、壊してやる。

 狂った眼で、キリは言う。

「きみに《鏡》は必要ない」

次話 3/29、23時ごろ更新

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