8-3
目紜杏奈は膝を抱える。
父親に監禁されてから1日と少し。原因は分かっていた。駒緒だ。彼に告白をしたことが、父に知られたのだ。
彼女は知らないことだったが、あの学園には隠しカメラが至るところに設置されている。花梨はその管理を任されていた――そのせいで対応も迅速だった。
父が過保護であることは充分に理解していたつもりであった。しかし、その認識は改めねばならない。
異常だ。あの父親はおかしい。
帰宅後、すぐに父の書斎へと連れてこられた彼女は、そこに待機しているよう命じられた。――嫌な予感はしたのだ。
父親はひたすらデスクトップパソコンを食い入るように見ていた。
何らかの映像が流れていることは分かったが、その詳細を知ることができたのはちょうど、監禁から24時間が経った頃だった。
「杏奈、来てごらん」
父親が呼ぶ。その表情に嫌悪感を抱いた。
何か良くないことを企んでいる顔だ。
「はい」
逆らうことは許されない。逆らった結果、とんでもない目に遭わされた兄弟を知っている。その点で、杏奈は特別甘やかされていた。さぞ恨まれているであろうと思ったが、兄たちがそれを態度に出すことはなかった。
引け目を感じていた。兄としての使命感で自分に優しくしてくれるのだろうと――彼女が他の兄弟に嫌われることなど有り得ないというのに。
「もうすぐだ」
父親はイスを引いて、場所を譲る。
促されるままに杏奈は画面を覗きこんだ。
「え――」
「これだろう? コマオっていうのは」
呆然と――駒緒が自分の兄達にリンチされている様子を見る。それは、車内を撮ったカメラを中継していた。
信じられない気持ちで父親を振り返る。手で隠していたが、彼のその口元は抑えきれないというように緩んでいた。
「何ですか……これ……」
「いやぁ、コマオくんね、コマオくん。ひどいよねえ、きみを振るなんて。泣かせるなんて。
あ、泣いてないか。きみは本当に強い女の子だ。泣かなくて正解だよ。こんなやつのために流す涙ほど意味のないものはないからね」
そうして彼は立ち上がる。娘の頬を心から慈しむように撫でる。
寒気がした。
「あの……」
「僕が呼んだんだ。訊きたいことがあって」
きみにも訊きたいことがあるんだよ、と父親は言う。
その目の奥は冷え切っていた。
杏奈は父の手を跳ね退ける。
その腕を掴まれた。
ぎりぎりと締め上げられる。
「痛い、痛い!」
「最悪だ。最悪だよ、杏奈。いけない子。そんな子に育てた覚えはないんだけどな」
必死で振り払おうと足掻く。
全体重をかけて引いたが、びくともしなかった。
「残念だ。彼の何が、きみの心を射止めたんだろうね。子どもだからと安心していた。最近の子どもは早熟だ。おかげで、取り返しのつかないことになってしまった」
ぐい、と顔が近づく。
「杏奈」
能面のような表情で、目紜キリは訊く。
詰問する。
「彼に《鏡》を与えたな?」
死刑宣告のように響く。
父親は全てを知っているのだ――そのことが、杏奈を絶望させた。
「本来なら多くの犠牲でもって創り出すところを、きみは何も使わずに生み出した。とんでもない才能だよ。でもね、それだけはやってはいけなかった」
杏奈は答えない。知らない。
知らない――
「困ったなあ……」
呟く。「どうしてこんな子になってしまったのかな。コマオくんのせいかな。彼がきみに悪い影響を及ぼしたんじゃないかな。駄目だよ。自分のレベルに合った子と仲良くしないと。彼は育った家庭に問題がある子なんだから。きみに釣り合うような人間じゃない」
あなたがそれを言うのか。
「私が誰を好きになろうと、私の自由です!」
至極当たり前のことを訴える。だが、それは許されないのだ。
彼女にはどんな自由も与えられない。ただ、キリの機嫌を逆撫でするだけの行為だった。
「そうかい」
彼はそれだけ言って、杏奈を離した。
「まあ、見ていなよ。これからコマオくんに会ってくるから。彼が《鏡》を持っていれば、それで良し。なかった場合は、どんな手を使ってでも探し出す」
探し出して、壊してやる。
狂った眼で、キリは言う。
「きみに《鏡》は必要ない」
次話 3/29、23時ごろ更新




