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疑殆帯同  作者: 穏田
第二章
13/50

3-3

 俺の周りの女子は、どうしてこう暴力的なのだろう。

 チラリと杏奈を盗み見ると、彼女はすこぶる機嫌が良さそうだった。この顔だ、と駒緒は思う。彼女はいつだって楽しそうにしている。喜怒哀楽の喜と楽しか持っていないかのようだ。ネガティブな感情を露わにしたところを一度だって見たことがない。

 そういうところに人気者たる一端があるのだろう。

 クラスメイトの1人でしかない駒緒に、気負うことなく話しかけてくる積極的な性格も、それを後押ししている。

 正直言って、パーソナルスペースの狭い人間は苦手だと駒緒は思っていた。彼自身があまり他人に心を許さないたちだからだろう。だが、それと悟られないよう意識無意識なく気を使っている。一見開けっ広げなようでいて、その胸中を中々見せたがらない。それが、行寺駒緒という人間だった。

 隣を歩く少女にだって――憧れの彼女にも、今後自分の心の中を晒すときは訪れないだろう。

 直接話すのは今日が初めてだというのに、そこまで思って自分の想像力に辟易する。中野や美優ならいざ知らず、杏奈との距離がこれ以上縮まることはない。ありえない。

 彼女は雲の上どころか、大気圏を抜けて銀河の向こうの存在だ。見ることすら難しい。

「駒緒くんはさ、編入生でしょう?」

 そんな銀河系の外に位置する少女は駒緒が感じている距離など知るはずもなく、核心に近い部分を突いて来た。それは彼がいまだに気にしているコンプレックスだった。

「まあ、そうだね」

 同じだけど、同じじゃない。スタート地点から大きな差があった。

 羨ましくないと言えば嘘になる。妬ましいとは思わない。

 杏奈は一層嬉しそうにする。何がそんなに愉快だったのか。

 まさか同属とでも思っているのか。遥か高みから見下ろしている人間が? 冗談じゃない。

 杏奈がポジティブの固まりならば、この時の駒緒はネガティブにかたよっていた。

「私も小等部から編入したの」

 知ってます。

「だから編入組の子たちとも仲良くしたいんだけど、なかなか輪の中に入っていけなくて。駒緒くんが一人でいるの見てチャンスだと思ったの」

 そう言う彼女はまっすぐに駒緒を見ていた。そんな明け透けに言われると、ひねくれた返しをしようにもできなくなる。

 つまり。

 次に言われる言葉が想像できて、思わず足が止まってしまう。

「駒緒くん。私とお友だちになってください」

 つまり、駒緒を足掛かりに友だちを増やしたいと。

 そのアグレッシブな姿勢に舌を巻く。現在の交友関係で充分満足している彼からしたら、彼女のような思考は到底考えつくものではなかった。おそらく足掛かりだとか土台だとか、そんなことまでは考えてないのだろう。

 なるほど、話しかけてきたのにも多少は打算があるわけだ。

 そんなふうに思ってしまうわけだが、杏奈にそんな『打算』なんていう考え方があるのかさえ怪しい。良くも悪くも裏表がないのが彼女という人間だ。

 何はともあれ、色々複雑な気持ちもあったが、友だちになってほしいという申し出は非常に魅力的だった。抗う理由も見つからず、躊躇ためらいつつも頷く。

 杏奈は終始にこにこしていた。断られることなど想定もしていない。断ったらどうなるのかな、とも思ったが、そんな意地を張るようなことはしなかった。

 あっさり杏奈のお友だちになった駒緒は、とりあえず海王星と地球くらいまでは距離が近くなったかなと適当なことを思った。

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