私とカノジョのクリスマス 一
代わり映えの無い講義と休日の日々が過ぎ、先日、今年ある講義の全てが終った。後は正月休みを挟んで一月の授業を残すばかりだ。
そして、本日は十二月二十四日クリスマスイブ。私とカノジョは二十六日に実家へと帰るつもりなので、今日明日はまだ同棲中の家が寝倉である。
「ジンググベル、ジングルベル、鈴が鳴るー。今日は、楽しい、クリスマスー」
「ヘイ!」
小さく口ずさんでいたカノジョの歌にテンション高く合いの手を入れながら、私とカノジョは黒と白のトレンチコートを着て新宿へと来ていた。
クリスマスデートである。
日が落ちて既に数時間経っていて、息は白く濁っている。
これで雪でも降ればホワイトクリスマスと都民の我々のテンションは上がる物なのだが、生憎、本日は綺麗な星空である。
数え切れないほど利用してきたが、新宿駅はやはりダンジョンの一種だろう。何より出入り口が多すぎる。北口へ向かおうとして東口に出る事などざらであり、高校生の頃は良く迷った。
デパートや本屋やゲームセンターが並ぶ界隈はクリスマス一色となっていて、サンタの格好をした売り子や、私達のようにデートをしているカップルなどが歩いている。
「あ、飛鳥。見て。あそこの二人」
カノジョが指した場所を見ると、高校生ほどの二人の男女が手を繋いで歩いていた。
付き合いたてなのだろう。彼らの歩みはぎこちなく初々しい。
少年と少女はチラチラと互いを見ていて、目が合うと笑い合う。
いじらしく、とても幸せそうだ。
彼らの姿を見て、カノジョが短く息を吐いた。
「懐かしいわね。わたし達も付き合い始めた頃はあんな感じだったわ」
「……そうだっけ?」
「そうよ。覚えてないの? 飛鳥とわたしが手を繋ぐのに三ヶ月かかったのよ?」
そんなに時間がかかったのか。
私は思い出してみたが、初めて望月風香と立花飛鳥が手を繋いだのが何時だったのか、ついぞ分からなかった。
だが、ここで覚えていないと正直に答えるのはまずいだろう。それくらい私にも分かる。
「そうだったね。ほら中々タイミングってのが掴めなくてね」
「わたしは何時でもウェルカムだったのだけれどね」
カノジョが可愛らしく頬を膨らませ、私はそれに笑いながら、カノジョの左手を握った。
「それじゃあ今日はこうして手を繋ごうか」
「よろしい」
私達の前を歩く先の彼らはそのまま十字路を右に曲がった。その先にあるイルミネーションを見に行くのだろう。
「さっきの子達。幸せになれるかしら?」
「どうなるにしても満足して終れれば良いと思うよ」
「不幸せなのは嫌だわ」
「仮に最後が幸せじゃなくても、満足して納得がいっていれば、それは価値がある事だと思うよ」
気付いたらカノジョの言葉にそう答えていた。視界に映ったデパートのイルミネーションに心を奪われていたからだ。
私は常々思うのだ。我々は幸せを絶対化し過ぎている。
別に良いではないか、幸せでなくとも。
今の自分の在り方に納得し、それに満足しているのなら、きっと地獄に居ても私達は笑える。
笑えるのなら良いではないか。
幸せを追い求めて不幸せに成ったのだとしても、笑えるのなら、地獄でも私達は楽しく生きていけるはずだ。
楽しいのなら良いではないか。
「わたしはやっぱり幸せである事は必要だと思うわ。飛鳥の言うとおり私達は不幸でも笑えるだろうし、楽しいだろうけど、何時か壊れる。なら、たとえ満足で無くても納得して無くても、わたしは幸せなのが良い」
「ま、そこは個人個人の考え方だよ。俺達バカップルでも意見が合わない事があるさ」
と、気付いたら私達は目的地のカフェの前に着いていた。落ち着いた雰囲気の喫茶店で、私達はデートの時度々此処を利用している。
本日はこの店でクリスマスイベントをやるらしいのだ。
「ねえ。飛鳥」
「何?」
カフェに入ろうと私がドアノブに手をかけた時、私の右手がギュッと握られた。
見ると、カノジョは真顔でこちらを見ている。
「飛鳥は今、幸せ?」
正直に答えた。
「……俺は今、納得して満足して幸せだよ」
「うん。なら良いわ」
私達は少し笑い合い、今度こそ店内へと入った。