九
*
「お邪魔しました」
短く言って、あたしは望月家を後にした。
ケータイを取り出してみると、家族からあたしが何処まで散歩に行ったのかを聞くメールが二三届いていて、あたしは夜空を見上げながらため息を吐いた。
少し遅くなってしまった。
「あ~、飛鳥兄さんみたいには行かないか」
風香さんの説得は失敗だ。飛鳥兄さんの様に口が上手かったら、あたしは失敗せず、風香さんが外に出るよう説得できただろう。
残念ながら、あたしは三兄妹の仲で一番口下手なのだ。良く口は回るけれど、交渉やら説得やらは苦手科目である。
あたしは家族に今から帰るという旨のメールを返信し、〝ん~〟っと体を伸ばした。苦手分野をやるのは疲れるものだ。
雲の切れ間と月に眼を奪われながら、あたしはもう一度長く息を吐いた。
さて、説得は失敗した。
なら、次はどうするべきだろう?
幸いにして、あたしは三兄妹の中で一番諦めが悪い。
末っ子の妹のわがままはそう易々と終わらない。
○立花つぐみ→望月風香
つぐみちゃんが帰って、わたしは自室のベットに倒れこんでいた。
「もうわたしに構わなくて良い、か」
先ほど、つぐみちゃんに言った言葉を反芻し、わたしは眼を閉じた。
何と、傲慢な言葉だろう。今まで翼君がわたしにしてきてくれた全てを否定しているような言葉では無いか。わたしは何様だ。彼らにとやかく言う資格などわたしには無いのは分かり切っているのに、この上お願いとは厚かましい。
そうだ。つぐみちゃんの言ったとおり、わたしが終わらせないといけない。この不幸で成り立っていた幸福な舞台の幕引きはわたしがやらなければならないのだ。
頭では理解していた。
でも、わたしは弱すぎて、呆れるぐらい、気持ち悪いぐらい。
わたしは弱すぎて、飛鳥の死を信じたくなかった。
『わたしを気にしないで自由に生きて欲しい』
良くそんな言葉を吐けた物だ。
ああ、わたしは醜い。醜すぎる。




