六
そして三月十四日が訪れた。飛鳥がわたしに告白してくれて、丁度二年目の記念日、わたし達は大学生活で必要な品々を買うために新宿駅を訪れていた。途中、良く行っていた新宿駅のアップルパイが美味しいカフェを訪れたり、本屋を巡ったり、色々とぶらぶらしていたから、最早デートだったけれど、カップルが二人で出かけてデートに成らない方がおかしいのだからしょうがない。
家に帰ったら、互いに両親にわたし達が同棲しようと思っている事を伝えようと、話しながらデートをして、顔を綻ばせていた。
氷の女王も形無しで、わたしの心は溶け切っていた。
さて、あらかた市内を散策し終わり、そろそろ目的の品々を買いに行くかと、わたし達は横断歩道で信号を待っていた。
飛鳥と手を繋ぎ合って、晴れやかな春の始まりを予感させるような陽光にわたしは少しだけ眼を細め、
気付いたら飛鳥に突き飛ばされていた。
『え?』
我ながら間抜けな声が出たと思う。
わたしが最後に見たのは、顔を強張らせた飛鳥の表情と、その後ろから彼を覆い被さろうとする灰色の乗用車の姿だった。
*
そして、飛鳥は呆気無く、ドラマのように奇跡的に生き残ったりはせず、死んでしまった。
何で、わたしはそれを受け入れられなかったのか?
今日も自室へと敗走したわたしはベットへとへたり込んだ。
飛鳥との日々を思い返すと、如何にわたしが飛鳥に依存し尽していたかが良く分かる。
あの時のわたしにとって、飛鳥は世界の全てで、飛鳥さえ居れば他の何も要らなくて、わたし達だけで世界は完成していた。
飛鳥は彼に依存する事を許してくれたけれど、わたしはそれに甘えてはいけなかった。
何時の間にかわたしは飛鳥の事をスーパーマンか無いかだと勘違いしていて、絶対に飛鳥はわたしの隣から居なくならないと、根拠も何も無い妄想をしていた。
その妄想の果てが、この結果だ。
飛鳥の死を受け入れず、飛鳥からの愛を歪めて、翼君を代わりにして、飛鳥への愛を汚した。
翼君はどれほど辛かったのか? わたしの様な醜い女に四年間、依存され、どれだけ苦しかっただろう?
考えるだけで震えが止まらない。
翼君の事を考えると、わたしは恐怖に支配される。
もう、飛鳥を愛していたのかさえ、分からなくなりそうだからだ。
わたしは確かに立花飛鳥だけを愛してきた。少なくともわたしの中ではそうで、この六年間一度たりとも飛鳥以外の男に心を許した事は無かった。
けれど、わたしは確かに、翼君を――飛鳥としてだけど――愛してしまっていて、彼に心を許していた。
抱き締められた時の幸せと、キスをした時の切なさは嘘では無い。
「ああぁ」
わたしは一体誰を愛してきたのか?
「飛鳥ぁ」
ああ、あなたに会いたい。
うずくまり、ぐちゃぐちゃになった心に引き裂かれそうになっていたら、〝ピンポーン〟と家のインターホンが鳴った。