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花弔風月  作者: 満月小僧
私とカノジョの一日
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私とカノジョの一日 一

 望月風香は立花飛鳥の彼女であり、私は望月風香の彼氏である。それは私とカノジョの共通認識で、この四年間壊れた事は無かったし、現在進行形で壊れていない。


 私達は同じ大学の同じ学部に所属していて、更に付け加えるなら、今、私達は隣の席に座り、講義中である。本日は十二月中旬晴天なり。


 カノジョの細いが筆圧の強い筆跡と、私の太いが筆圧の弱い筆跡で作られた同じ内容の二種類のノートは比べてみると中々面白い。私達の人となりを対比しているようである。


 ちなみに私は左手を使って板書をしているのだが、右手用として発達し続けた文字を左手で急いで書く事は中々に大変であり、私のノートの文字は良く崩れる事があった。もう少し板書速度が良心的であれば大分楽なのだが。


 黒板の数式を写すがてら、チラッとカノジョの横顔を見た。


 陶器の様な滑らかで白い肌、肩口まで伸ばされた真っ直ぐな黒髪、左目の泣き黒子、その全てが何度も何度も中学生の時から見てきた物にも関わらず私の眼を奪い、美しいとさえ思わされる。


 と、見つめていた事がカノジョにばれたようだ。


 カノジョはこちらへと目線を向け、微笑んだ。


 カノジョは笑うと少し幼くなるのだ。


 少々恥かしくなった私は、憮然とした態度で右手を使って眼鏡の位置を直し、再び板書に集中した。


「急に見つめられたら恥かしいじゃない」


「いやいや、ごめんごめん。つい見惚れちゃってね」


「家で幾らでも見られるんだから、外でそんな恥かしい事を言うんじゃありません」


 講義が終って直後、本日の講義は全て終ったため、私達は帰り支度をしながらそんな会話をしていた。


 諌める様なカノジョの言い方だが本気で拒否している訳では無い。望月風香は対面上クールな女性で、高校時代は氷の女王なる渾名がつけられていた程だが、割とバカップルするのが好きな人なのである。


「おーい。立花ー」


 と、鞄に詰め込み終わり、いざ帰るかという私達の元へ、やや離れた席に座っていた男子学生がこちらへと歩いてきた。矢島浩太という男で、この大学で私がカノジョを除いて最も良く話す生徒である。


「どうした? さっきの授業で分からない所でもあったのか?」


 彼は良く私に授業内容を聞いてくる事があった。


「いや、分からないのならあったけど、それは良いよ。一緒に夕飯食わな

い? 望月さんも一緒で」


 時刻は十八時五分。夕食を食べるには丁度良い時間だろう。


 別に私は構わないので、カノジョの意見次第となる。


「どうする?」


 私の言葉にカノジョは両手を顔の前で合わせ、淡々と言った。


「残念だけど、家にもうご飯が作ってあるの。またの機会にしてくれる?」


「そうかー。残念。お前らは本当リア充だな」


 矢島は特に残念がる事も無く、嫌な顔をする事も無く、そう言い残して、元々座っていた席へと戻っていた。どうやら彼はまだ荷物を詰め込み終わっていないらしい。


「じゃあな、矢島。また明日」


「じゃあね」


「おう」


 短く矢島に言い残して、私とカノジョは教室を出た。



 大学を後にして、私達はスーパーを訪れていた。食料品の買い溜めが尽きてきていたためだ。


「お米、白菜、大根、豚肉に、白菜、後はポン酢も買いましょう」


「そうだな」


 カノジョの指をくるくると回しながら本日買う物をリストアップしていくカノジョに頷きながら、私は品物を入れるカートを押していた。


「今日の夜は鍋にするわ。寒いし」


「あれ? 夕飯もう作ってあるんじゃなかったけ?」


「お米が炊いてあるだけでおかずは無いの。飛鳥は味噌と塩がおかずでも良いの?」


「良くないね。でも、米しか出来ていないなら、矢島たちと一緒に夕飯行っても良かったんじゃない?」


 カノジョは眼を逸らした。


「だって、早く家に帰りたかったし」


 嬉しい言葉ではあるが、もう少しクラスメイトと仲良くしても良いのではないだろうか?


「……クラスメイトと交流を持つのも大事だと思うよ」


「良いじゃない。わたしはクラスメイトとよりも飛鳥と一緒に居たかったの。それじゃだめ?」


 中々可愛い事を言ってくれ、男冥利に尽きるという物である。


 私は何と無しに苦笑して


「いや、だめじゃない。さっさと買って家に帰ろう」


 スーパーから出て少し歩いて、私達は横断歩道で信号が青に変わるのを待っていた。この白と黒の縞々を超えれば、五分ほどで私とカノジョの家に着く。


 カノジョが右手、私が左手に先ほどの品物が入ったレジ袋を下げ、我々の残った手は繋がれている。


 右手からカノジョの少しばかり低い体温が伝わってきて心地が良かった。


 信号が青に変わった。


「はい。じゃあ渡ろう」


「…………」


 カノジョは無言で頷いて、私はその手を引いた。私の右手を握る力が、凡そ十秒ほど縞々を渡り終わるまで強くなる。


「渡り終わったね」


「…………ええ。そうね」


「「ただいま」」


 特に滞りなく私達は二階建てアパート〝セセラギ荘〟の二〇二号室へと帰宅した。


 習慣と化し半ば無意識の領域となった帰り道に早々問題が起きる物では無いのだから当然と言って良いだろう。


「じゃあ鍋の用意するから、飛鳥も手伝って」


「了解」


 ちゃかちゃかと箸やらお椀やらを食器棚から出し、机の上に置いていく。


 本日の夕飯も楽しくなりそうだ。


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