第8話 更に近づけた気がしました。
「何……? こんなとこまで来て……。朝のホームルーム始まっちゃうよ?」
彼を引っ張り、連れてきたのは普通校舎1階のトイレ。
1階にはトイレが2か所あるが、職員室から遠い方のトイレを選んだ。
「あの、涼さん4月にここに転入してきたんですか? ……って。こんなことよりも、何よりも!! モデルだったんですか? なんか、映画とか雑誌とか色々出てて活躍してて、それで、ほら、あの……」
まだ、頭が混乱していて、言葉がまとまらない。
それに加えて、早足で来たため少し息が切れていて、言葉が出辛く、何と言っているか、涼さんが理解できたかどうかさえ危うかった。
「んー、まぁ全部本当だよ」
理解出来ていたのか。……いや、それよりも肝心なことがある。
「本当……って……」
「そそ。俺は事務所に入ってて、モデルやってんの。ついでに言えば、7月に銀幕デビュー、みたいな?」
いつもと変わらないノリで話しているが、話している内容はすごいことだ。
「まぁ、俺が転入してきたことと、モデルやってることは繋がってるんだよね」
「教えてくれれば良かったのに……」
軽い気持ちで言った一言。
「教えて何が変わってた?」
なのに、帰ってきた言葉はとても重たかった。
いつもより少し低くて、小さくて、元気のない声に不安が募る。
「何てねー。ほら、みんな気付いてなかったし、言う機会もなかったし。まぁ、別に魔王倒すのにそんなこと関係ないかなーって」
涼さんはそう笑って言って、俺の頭をぽんぽんと叩いてトイレから出て行った。
彼の笑う顔を見て思った。本当は言いたくなかったんじゃないかな、って。
きっとそう言えば、みんな変に気を遣っていたかもしれない。
そうやって、特別扱いされることが彼には苦痛だったんじゃないだろうか。
そう思って、気づいたら涼さんを追いかけて、腕を掴んでいた。
「俺は、別に涼さんがモデルだから、って特別扱いしませんから」
そう勢いに任せて言ったはいいが、何だか恥ずかしくなってきた。
「いや……。あの……、気にしないでください」
腕を慌てて放して、涼さんを置いて、廊下を早足で歩いた。
今、涼さんどんな表情してるだろう……。こいつアホか、とか思ってるのかな……。
そんなことを考えながら歩いていると、誰かにまた頭をぽんぽん、と叩かれた。
「涼さん……?」
思いあたった人の名を呟き、後ろを振り返ると、そこにはいつの間に俺に追いついたのか、満面の笑みを浮かべる涼さんがいた。
「なんかさ、ありがと」
彼はそう言って、また頭を叩く。
「子供あやしてるようなことしないでくださいよ」
「え? 子供あやしてるつもりだった」
「え! 酷い!」
彼の脇腹を小突いて、また早足で歩きだした。
教室への帰り道、さきほどの一件は涼さんが謝ることで無事解決した。
彼はまだ納得しきってはいないようだったけど、それは見ないフリ。
そして、彼は自分のことを話し始めてくれた。
「お前のいう通りだよ。特別扱いしてほしくなかっただけなんだよね。仕事あるから、って地元出てここの学校に来て、最初は楽しかった。でも、たくさん仕事を頂けるようになって、みんな俺が雑誌とかで、モデルしてるの知った途端態度変えてさ。特別すごいわけじゃないのに、そんな風にされてすごい嫌だった」
「そうなんですか……」
どういう表情をすればいいのか分からず、俯くことしか出来なかった。
「で、みんなと一緒にあっちに召喚されて、誰も俺がモデルって知らなくて、ラッキーだ、って思ったんだ。だから、言わなかった。でも、無駄な心配しなくて良かったな。アホみてぇだ」
そう笑う涼さんの表情はいつもの顔だ。
「そうですよ、今考えてみると、身近にモデルがいてどうこうとかより、突然異世界に召喚されて魔王倒して帰ってくる方が数倍大変ですよ」
「そうだよな。……そうだよな!! すげぇな、おい」
「今さらですか?」
彼と話しながら階段を上り2階まで来た。
3年生の教室は2階、2年生の教室は3階にあるため、涼さんとはここで別れることになる。
「じゃぁ、ここで」
そう言って手を振り帰ろうとすると、
「あ、ちょっと待って、今日何に出る?」
と涼さんに呼び止められた。
「サッカーです。涼さんは?」
「俺も俺も!!」
同じサッカーであると分かった瞬間、彼はとても嬉しそうだった。
「じゃぁ、また後で」
ん? 同じ種目だけど、学年違うし……。
試合するのだろうか?というか、球技大会のルール知らないや……。
まぁ、後でどうにかすればいっか!そんな事を考えながら涼さんに手を振り、教室へ戻るため階段を上った。
涼さーん、その2。
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お礼と、これからについて活動報告で書かせて頂きました。
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お時間のある方は目を通していただけたらな、と思います。
ではでは。




