第7話 学校にいきました。
「ただいま……」
慎とは駅を降りてすぐに別れた。1年ぶりに、駅から自宅まで歩いたが、無事迷わず着くことが出来た。
意外と道って覚えてるんだな……。
俺の家は、ワンルームマンションの2階だ。
先月の3月、父親の海外転勤が決まり、母親がついていくことになったのを機に、思い切って1人暮らしを始めることにした。
今まで家族で住んでいた家は知人に貸し、店やコンビニ、街が近いここに引っ越してきたのだ。
そのせいで、高校を転校しなければならなかったが、それよりも新しい生活に対する期待のほうが大きかった。
そんな記憶と一緒に、携帯の充電コードの在りかを思い出して、携帯を充電した。
しかし、確か切れてしまっていたはずの携帯の電池は切れていない。
確か、あちらの世界で連絡を取ろうとしていたら、電池が切れたんだっけ。人だけでなく、物も1年前の状態に戻っている、ということか。
携帯を開くと、
『新着メール 3件』
と、画面の左上に表示が出ていた。
「誰だろう……」
小さく呟いて確認すると、3件とも未登録のアドレスからだった。
しかし、どこかで見たアドレスだと思い確認してみると、涼さんと、優華さんと、ゆあからだった。
全員に届いてます、とだけ返して、メールが来ていない壮さんと、雄吾さんと、黎さんにメールを送っておいた。
それからは、何もすることがなく、棚の中にあったカップラーメンを、1人寂しく食べ、早めにベッドに潜った。
今まで俺、1人でなにして時間を過ごしてたんだっけ。1年間、旅の中で1人なることがなくて、もう忘れてしまった。
そして、必死に考えても、思い出すことはできなかった。
* * * * * *
翌日。球技大会が行われる日。
「おはよう」
と、軽く挨拶をして教室に入ると、何人かが返事をしてくれた。
球技大会は1日かけて行われるため、体操服で登校することになっている。
教室に体操服姿の人が溢れているのは何となく不思議な光景だ。
「おーい、仙崎!!」
誰かに苗字を呼ばれ、声の主を探すと、
「俺、俺!!」
と1番前の席に座っていた男子が手を上げた。
「仙崎サッカーだったよね、ポジションどうする?」
彼は、紙とペンを持ち聞いてきた。体育委員だったような気がする。
サッカーを選んだ記憶もないし、どんなポジションがあるかなんて知らなかったので、
「どこでもいいよ!! 出来ればベンチ」
と、飛びっきりの笑顔でそう言うと、
「あー……人数1人多いし仙崎がそれでいいなら。もちろん、怪我とかしたやつが出たら代わってもらうけど」
と了承してくれた。いいのかよ、そんなんで、とか思いつつ、俺にとってはそれ以上ない良いポジションなので頷いた。
ホームルーム始まらないかな……なんて思っていると、クラスの女子が突然騒ぎ始めた。
「ほら、あの先輩だよ、モデルやってる……」
「初めて生で見た……。まじかっこいいじゃん」
「背高いし、顔小さいし……」
「てか、なんで3階に来てんの? 3年生は2階でしょ?」
「いいじゃん、見れるだけ!!」
「この前、雑誌の表紙載ったらしいよ……」
「映画にも出るらしいよ……」
昨日慎が話していた人だろう。
この学校には普通教室や、職員室がある普通校舎と、理科室や音楽室などの特別教室がある特別校舎がある。
普通校舎の1階には職員室や校長室があり、2階には3年生、3階に2年生、4階に1年生の教室がある。
よっぽどの用事がない限り、3年生が3階より上にに上がってくることはないはずだ。
まぁ、俺にとっては彼がどんな理由で2年生の階にこようが知ったこっちゃないのだが。
「淳、どうした? また考え事?」
後ろから話しかけてきたのは慎だ。
「いや、別に……」
「そっか、ほら女子が今窓から見て騒いでるのが昨日言ったモデルの先輩。すげぇよなぁ、同じ学校にモデルいるとか……」
「そーだねー」
「お前興味なさすぎだろ……。ま、そうだと思ってたけど」
慎はそう言って笑うと、窓側までその先輩を見に行った。その間も、変わらず女子は騒ぎ立てる。
「え? 3組に来てない?」
「うっそまじ!?」
「やばい、今日寝癖ひどいんだけど」
「てか何で3組?」
「なんで3組に? お目当ての人がいる……とぉかぁ!!!?」
最後の女子の一言で更に女子が騒ぎ出す。
大丈夫、多分君たちじゃないから、と心の中で呟いてあげた。
女子たちは教室の後ろに固まり、先輩の到着を待っている。
そして、その先輩が教室の前の扉を開けて入ってきた。
「じゅーん君いますか? 仙崎じゅーん君」
「へ……?」
突然名前を呼ばれ、変な声が漏れた。まさか、そのモデルの先輩……って……。
「お、いたいた! 突然ごめんな、淳!ちょっと暇つぶしに来てみた!!」
まさかのまさか。我が学校が誇るモデルは、1年間共に旅した仲間でした。
1年前に戻った体は少し筋肉がおちて細くなった印象を受けた。しかし、相変わらずのスタイルの良さと、爽やかさ。
優しそうな目と、綺麗に茶色い髪をセットしているのも相変わらずだ。
「仙崎ってどういう関係なの?」
「あいつ転入してきたばっかだよね……」
「高崎先輩も転入してきたばっかだったよね、確か……」
「前の学校が一緒とか?」
「なら、もう教室来ててもおかしくないでしょ?」
「うん、なんか……やだ」
涼さんが転入してきたばかりだった、という新たな情報を得たのはいいが、一気にクラスメイトの注目を浴びてしまった。
もちろん、悪い意味で。
涼さんは、訳が分からず戸惑う俺の心の中なんて知らず、ニコニコ爽やかスマイルを浮かべ、俺の席へ駆け寄ってきた。
「球技大会、何に出る?」
更にニコニコして聞いてくる涼さんの手首を思いっきり掴んで、彼の顔を見る。
「ちょっと聞きたいことあるんで……」
「え? 何? ここじゃダメなの?」
「いいから、いいから……」
涼さんの細い手首を強く握ったまま立ち上がり、突き刺さるクラスメイトからの視線を無視して、教室から出るため歩き出した。
「やー……、仙崎が連れてく……」
「何で……。もっと先輩見たかった!!」
「つか、仙崎のくせに先輩に対して乱暴じゃない?」
「思った、それ……」
「今日、あいつ教室帰ってきたら何もかんも全て吐かせてやる」
「おっ、いいね……。やっちゃおっか」
視線とともに、女子の言葉も心にグサグサ突き刺さる。
もうどうなってもいい。全責任は涼さんに押し付けてやる。
なんて思っても、本当は教室戻るのがちょっと怖い気もする。
様々な思いが脳内を巡る中、大勢の生徒の視線を跳ね飛ばして廊下を歩いて行った。
涼さーん。
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