第6話 元の世界に帰りました。
「1年前、突然お呼びしたのにもかかわらず、このように、私たちの世界を救っていただきありがとうございました。本当に、皆様がいなければ世界は崩壊していました……。このようにお送りすることしか出来ず、申し訳ありません……」
彼女はそう言って、深く頭を下げた。
「年前の、この世界へ来た瞬間にお送りします。過去の皆様が、こちらの世界へ召喚されたすぐ後へ……。では、記憶の保護を」
王女様がそう言い、一歩下がると兵士が俺たちに魔法をかけてくれた。
何だか、頭がふわふわしたが、10秒ほどでその浮遊感は解けた。
「では、魔方陣の中央へ」
王女様の言葉に従い、俺たちは魔方陣の中に入り、中央に立った。
「時を覆いし空の使者、空間を守りし水の使者、ここにありてなき……」
王女様は魔方陣の外側から、詠唱を始めた。
「今、すべてを在るべき時へ、場所へ戻したまえ!!」
彼女の詠唱が終わった途端魔方陣の線が青く輝き、何かを吸い込むような大きな音とともに、辺りは青い光で満たされる。
「本当にありがとうございました!!皆さんのこと、一生忘れません!!」
ゴゴォ、という音にかき消されぬように、王女様が叫んだ。
「こちらこそ、いい思い出になりました!!忘れませんから!! さようなら!!」
優華さんが、そう返事をして手を振る。
「さようなら!! さようなら!!」
王女様の言葉を最後に、音が途切れ青い世界が白に変わった。
* * * * * *
視界が晴れて、周りが見えてきた。隣を走る車。少し遠くに見える電車。アスファルトの道路。黒い髪に黒い瞳の人たち。ランドセルを揺らしながら帰る小学生。家の前を掃くおばあちゃん。
「戻ってきたんだ……。俺……」
呟いて一歩踏み出すと、つい先ほどまでより制服が少しゆったりしていた。
身体が1年前に戻ったようだ。せっかくついた筋肉と、少し伸びた身長がなんだかもったいない。
「どうしたんだよ、異世界行ってきましたみ、たいな顔して」
後ろから突然声をかけられ振り向くと、そこには友達の緑川 慎の姿があった。
彼のその冗談に思えない冗談に、少し戸惑う。
「いや、考え事」
「そっかそっか……」
1年ぶりに姿を見るのに、それは記憶の中の姿と全く変わらない。
当たり前のことだが、少し不思議な気分だった。
「なぁ、明日の球技大会に、3年生のモデルしてる先輩が参加するらしいぞ!!」
「へ……? 何のこと?」
「お前知らないのか?」
慎と俺は利用している、学校近く駅へ向かって歩き始めた。
彼とは家が近いため、一緒に帰ることが多かったのだ。
「あ、そっか。淳、今年からこの学校に来たんだよな?」
「え……」
忘れていた。今日は4月28日。水曜日。俺は、今年N高校に編入した。明日は球技大会。そんなことを今さら思い出す。
「うん、そうそう」
「あのな、俺も名前は知らないし、見たことないんだけど、モデルやっててすげぇかっこいい先輩が3年生にいるらしいんだ。全校が集まるときとかは学校休んで、仕事に行くらしいんだけど球技大会には出るらしい」
「へぇ……そうなんだ」
「なんか女子どもがなんとか、って名前言ってたんだよな……。結構すごいらしいよ、うん。雑誌の表紙……とか?」
芸能とか、そういうことに全く興味がなかった俺は適当に話を聞き流し、駅に向かって歩き続けた。
* * * * * *
「ふー……駅着いた、着いた」
慎は、そういってホームのベンチに腰を下ろした。
「おっさんみてぇ」
「なんか言った?」
「いえ、なんにも」
下らない会話を繰り返していると電車が入ってきた。乗るのは1年ぶりか……。懐かしい。
「ほら、さっさしろよ乗り遅れるぞ」
「あ、うん」
それからの帰り道は懐かしいものばかりだった。
スカートの短い女子高生、イヤフォンで音楽を聴く学生。買い物帰りの主婦に、スポーツバッグをかるった野球少年。
全てが本当に懐かしくてたまらなかった。
やっとこさ帰りました。長かった……と思います。
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