第5話 最後の夕食食べました。
それからの時間は本当に矢のように早かった。
パーティーも、パレードもあっという間に終わってしまった。俺たちはこの世界では本当に英雄になってしまったようだ。
近々、城の中央広場に俺たちの銅像が建つらしい。実際の俺よりかっこよく、とお願いしておこうか。
そして気付けば、もう、最後の夕食。食堂に集まり、みんなの様子を見てみると、最後の夕食は何かとわくわくしているようだった。
こういうとき、しめっぽくならないのがこのメンバーの特徴で、俺が大好きなところの1つである。
「はい、グラタンきた!!」
「はーい、ピラフとか俺のターン」
「あー……最後にシチュー食べたかったな……」
「このニンジン食べて下さい!! なんか大きい……」
「好き嫌いしないでよ……。 はい、キノコ」
「ちょ、自分も好き嫌いしているじゃないですか!!」
「気にしない、気にしない!!」
最後の食事に様々な言葉が飛び交う中、涼が突然立ち上がった。
「あのさ、一応携帯番号とかアドレスとか交換しておきません?
あっちの世界に戻って連絡取りたいですし……」
彼はそう言って、いつから持っていたのか紙とペンを顔の横でヒラヒラさせる。
「お、そういやそうだな。うん、やりますか」
などと、みんなから賛成の言葉が漏溢れだす。
しかし、これが様々な事実を発覚させるきっかけになってしまうのだった。
涼さんから貰った人数分の紙全てに、自分の携帯のアドレスと番号、学校名を書く。
「じゃぁ、配りましょうか」
ゆあの言葉を合図に、連絡先を書いた紙を交換し合った。
それからの夕食の話題は、その紙に書かれていることについて。
「え? 黎さん、彼女いるんですか? このアドの『sym.love』って……」
そう聞いたのは優華さん。きっと sym というのは彼女の名前からとっているのだろう。……さゆみ、とか?
「あぁ、いるよ。そのアドレス嫌なんだけど彼女がうるさくて。浮気防止ー!!、とか言ってさ。元気にしてるかなぁ……」
「一言も言わなかったですよね!? 心配じゃなかったんですか?」
「心配だったけど、言うのもな、って思って。アイツなら大丈夫だろうし」
黎さんはそう言って笑ったが、きっと彼女のことはかなり心配だっただろう。
「壮さん字綺麗ですね……。ってこれ携帯じゃなくて家の番号ですか?」
そう聞いたのは雄吾さん。
そう言われ、壮さんの連絡先が書いてある紙を探し確認すると、確かに字がきれいで、番号は携帯のものではなかった。
「あぁ、俺家でする仕事してるから、家の電話の方が便利なんだよね。携帯の番号も下に書いてるでしょ? 家にかけて出なかったら携帯にかけて」
「あ、本当だ。わかりました……」
雄吾さんはスープを飲みながら、連絡先が書いてある紙に視線を落とした。
「え? 淳、N高校だったの!?」
「あ、はいそうですけど……」
「俺も、俺も!!」
「そうなんですか!? 確か……1つ上でしたよね?」
「うん、そうそう!! ここに来たとき、3年生だった!」
「何で気付かなかったんですかね……」
「ホント!! 不思議だね……」
同じ学校だったことが発覚したのは涼さん。
何というか、同じ学校というのは近すぎて、逆に考えなかったのかもしれない。それ以前に、そんなこと気にしている余裕がなかった、ということが大きいが……。
「2人一緒の学校なの? というより、みんなどの辺に住んでるの?」
そう聞いたのは壮さん。それぞれが住んでいる場所を言って分かったこと。
「みんな近所じゃねぇか……」
雄吾さんが驚きを隠せないように呟いた。
みんな歩いていけるほど近いわけではないが、駅で数駅行けば簡単に会える距離だったのだ。
「というか、そんなことも知らなかっらんですね、私たち……」
「ね……。よくよく考えたら名前と年齢くらいしか知らないし……」
「いきなりここに召喚されて、魔族だなんだ言われて……。そんなこと、言うタイミングもなかったですし、言う必要もなかったですもんね」
「そうだよね……ゆあはさ、高校生だったよね?」
「はい。優華さんは大学生でしたよね?」
「うん、そうそう」
女性陣が話していると、横から涼さんが、
「俺、壮さんと雄吾さんの年知らないんだけど……」
とこっそり聞いてきた。
「え? 確か、壮さんが最初25だったから今26で、雄吾さんが今24です。最初23だったので」
そう答えると、ありがと、と呟いて会話に戻った。
「よくよく考えたらどんな仕事、とか、どこの学校か、とか。どんな風な生活してたのか、とか全く知らないんですよね」
ゆあが小さく呟いた。
「元の世界でまた集まろう。せっかく1年も旅して仲良くなったんだしね」
そう言い、デザートのティラミスを一口、口に運んだのは壮さん。
「そうですね、集まりましょう!!」
「連絡先もバッチリ分かりますしね!」
俺ももちろん賛同した。
「なんか、こっちの世界のみんなしか知らないんですよね……。元の世界ではどういう人だったのか、気になります!」
「だよね!! 涼はもててたんだろ、どうせ?」
「いやいや、黎さん彼女いるじゃないですか!! 淳は?」
何故か黎さんと涼さんの淡いピンク色の会話に突然引きずり込まれた。
「全くですよ……。ははっ」
「何、最後のははっ、って」
「何でもないですよ!! ははっ」
涼さんのツッコミに棒読みのセリフで答える。
「涼、お前は淳と仲良くなれていないな、ははっ」
「ちょ、黎さんまで何なんですか……」
そんな下らない会話を繰り返す中、
「じゃぁ、そろそろごちそうさましましょうか」
と、みんなのデザートのお皿が空になったのを確認して、ゆあが切り出した。
「そうだね。じゃぁ、15分後荷物をまとめてここに集合ね。城の人に魔方陣があるところまで案内してもらうから」
壮さんの言葉にうなずいて、部屋へ戻った。
* * * * * *
部屋に戻り、荷物を持って食堂に向かった。
すぐに全員が集まり、地下の魔方陣が書かれている部屋へと案内される。
薄暗い部屋を照らすのは蝋燭だけ、というなんとも不気味な部屋だ。レンガ造りの壁や、古い本が山積みになっているボロボロの机などが、その雰囲気を一層もり上げている。
「ここ、俺たちが召喚されたところだよな」
「そうですね、懐かしいです」
思い出すのは1年前、何か宙に浮くような感覚に襲われて、気付いたらここで7人そろって尻もちをついていたときのこと。
「あれ、痛かったです」
「まぁな……」
そんなことを雄吾さんと話していると、先ほど俺たちが通ってきた扉があき、王女様が部屋の中に入ってきた。
彼女は、ドアから数歩入ったところで、
「今から記憶を保護して、皆さんの世界へ転送します。最後に、私からもう一度お礼を言わせてください」
と言い、美しいブロンドの髪をなびかせ俺たちのすぐ前まで歩いてきた。
ようやく帰るようです。
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