第4話 何だか寂しくなりました。
遅めの朝食を終え、片づけも終わったころ、壮さんが食堂に入ってきた。
「みんなやっと起きたんだ」
そう笑う声からは微塵の疲れも感じ取れない。流石というべきなのだろうか。少し複雑だ。
「王女様から聞いたことを説明するんだけど、長くなりそうだし、お茶でも入れてもらおうかな」
彼がそう言うと、すぐに周りにいたメイドさんたちが行動を開始する。
流石は国を治める王が住む城のメイド、と言ったところだろうか。
「じゃぁ、ゆっくり説明していくよ」
全員に紅茶とクッキーが行き渡ったのを確認して、壮さんは話を始めた。
「よくよく考えたら俺たちは魔族を倒すことに必死で、帰り方なんて知らなかったよね。昨日呼ばれたのは、帰り方の説明を受けるためだったんだ」
壮さんの声を真剣に聞きたいが、紅茶の甘い香りと、隣で涼さんがクッキーを食べるボリボリという音が邪魔をして、気が抜けた。
「で、どうすれば帰れるんですか?」
黎さんが聞いた。
「まず、前回は俺たちがいた世界から、この世界へと来るために時空を超えたんだ。でも、今回はそれにプラスして、時間を超える必要もある」
「時間、か……」
ゆあのその言葉は独り言でも、話をしている壮さんへ向けての言葉でもなくて、遠くにいる誰かに囁いているような感じがした。
「時間を超えるときに、身体は1年前の姿に戻る。負った傷跡なんかも消え去る、っていうことだね」
全てが1年前の、召喚された日に戻る、ということか。
「時空を超えるだけの召喚術ならいつでも行えるそうなんだけど……。 その逆の転送もね……。でも、時間を超えるとなると1つ条件があるらしいんだ」
「「「「条件……?」」」
みんなの声が重なり、思わず顔を見合わせる。
「そそ。条件は満月であることで、次の満月は明後日なんだ」
「明後日……?」
雄吾さんが聞き直した。
「うん。つまり帰る日は明後日。急だよね、本当に……。明日の午後からは場内で王様とか、他国のお偉いさんとパーティー、明後日の昼間は王国内でパレードするから、好きなことできる時間は短いのね。だから、荷物は今日のうちに纏めて、それから好きなことしてね」
本当に、この王国との永遠の別れが近づいているんだ、と感じた。パーティーや、パレードなんて正直面倒だけど、せっかくこっちの世界で英雄になったんだから、最後までやり英雄をやり遂げよう。
「最後の最後で、好きなこと出来る時間少なくてごめんね……」
「そんな、壮さんが謝るようなことじゃないですよ!!それに、私は元の世界で、みんなと会えれば十分です」
そっと微笑んだ、ゆあの一言にみんなが頷いた。
「1年前に戻るときに記憶はちゃんと保護してくれるそうだよ。だから、そこは安心して大丈夫だから。じゃぁ、持って帰るものとか、荷物とか早めにまとめてね」
壮さんの言葉にみんなが返事をして、それぞれの部屋に戻った。
* * * * * *
午後からは荷物をまとめた。こちらの世界のものを持って帰ることが出来るようなので、愛用していた短剣と、召喚獣を召喚するときに使っていた杖を持って帰ることにした。
召喚獣との契約は、主としての契約から、友としての契約に切り替えた。
これで、彼らは新たな主と契約できるようになる。また、俺も友として彼らを召喚できる。
主が召喚していないときに限るし、俺が召喚していても、新たな主が召喚しようとすれば、そちらを優先しなければならないが。
でも、元の世界ではきっと召喚できないだろうから、魔王との戦いの後、もう別れをしておいた。
イフリートは俺の数倍ある筋肉だらけの体を震わせて泣いていたな。相変わらず水の召喚獣ウンディーネは美人だったな。
なんて考えていると涙が零れそうになる。
「片づけ、片づけ」
涙をこらえて、ここに召喚されたときに背負っていた、高校への通学用の鞄に荷物をつめこんだ。
帰る兆しが見えてきました。
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