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世界を救った、よしどうしよう  作者:
未来を考えましょう。
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第48話 最後の決断を始めました。(3)

 俺は、未来に行くつもりで、今日、ここに来ていた。


 淡々とした、何の目標もない俺を捨てたかった。大切な記憶と仲間と一緒に、新しい人生を歩みたかった。1年間という代償より、それの方が大事に思えた。これが、俺なりの結論で今と向き合った結果だと、、確かなものであると、ここに来るまでは信じていた。


 けれど、それは簡単に揺さぶられた。俺は、本当に今と向き合えているんだろうか。こんなにも簡単にも揺さぶられた思いは、信じてもいい思いなのだろうか。


 それに、魔法なんて使えなくていいとは思っていたが、やはり心の片隅では召喚獣のみんなとの思い出が燻っていた。もし、召喚術が世間に知られてしまったとき、俺や召喚獣たちにとっていい未来は見えない。ならば、いっそこの思いも全部忘れてしまった方が良いんじゃないか。もし、未来に行ったとしても、心の片隅に、今のまま召喚獣への思いを潜めていたら、いつか必ず召喚してしまう。そして、大切な召喚獣たちを、仲間たちを、自分自身を苦しめることになるだろう。

 ちゃんと頭じゃ分かっているのに、その不安が拭いきれないでいるのは、俺が今と向き合えてないからじゃないだろうか。


 そして、偶然とも奇跡ともとれる形で知り合った仲間を忘れたくなかった。今に残れば、そんな感情も忘れる。あまりに寂しいことだと思うけれど、その寂しささえこれっぽっちも感じない。

 だんだんと、何が俺にとって正しいことなのか、見えなくなってきた。


 みんなが決意を固めていく中で、気持ちが揺らいでいくのが情けなかった。それに拍車をかける様に、次は雄吾さんが口を開いた。


「俺は、この辺の学校に行ってないような奴らを雇って引越し屋をやってる。ここに居るメンバーは、今に残ろうが、未来に行こうが、ちゃんと生きていけるだろうけど、そいつらはまだ俺がいねぇと心配なんだ。だから、そいつらを置いて俺は未来にはいけねぇ。悪ぃな」


彼らしい、簡潔な言葉だった。俺の周りにも雄吾さんにお世話になっていた奴らが居たし、彼の存在は重要だ。

 だけど、「悪ぃな」と謝ったのが引っかかった。何が悪いんだろう。今に残ることは悪いことなのか。俺たちに謝ることなのか。単純な疑問が浮かんだ。

 きっと、それは前々から考えてはいたが、きちんと向き合いたくなかったこと。何が、正しいのかじゃなくて、何が「悪いこと」なのかということ。

 みんなを忘れて今を選ぶということ。目の前の仲間を選ばないということ。それは「悪いこと」なのか。裏切るということなのか。謝らなければいけないことなのか。

 自然と目を閉じれば、瞼の中に様々な情景が浮かぶ。たくさんの感謝と、謝罪の言葉がこだました。


「あの、私……!」


 自分の世界に入り込んで、深く考え込んでいた俺の耳に響いたのは、透き通った声。ゆあの声だ。


「私、は……。みんなと過ごして、変われた自分の、この気持ちを大事に抱えて、未来に行きます。私がこうして、どうしたいとか、ああしたいとか、そんな願望じゃなくって、自分の行動をはっきり言えるようになったのはみんなのおかげです。そのおかげで、私は、今日こうして決断を出来てるんです」


 今の思いを抱えて行くということ。俺は、その重さを抱えて歩けるのだろうか。意識や考え方を大きく変えて、一気に重さを増した思いを抱えて、この世界で歩いて行けるのだろうか。

 俺にとって、それがどうであれゆあの決断には変わりはない。彼女は1年後へ行く。


「私、ずっと寂しかったから。この世界で、家族に愛してもらえなくて。人と上手く関われなくて。誰ともちゃんと向き合って話ができませんでした。私は一人ぼっちのまま生きていくんだ、って思ってたんです。でも、それって涼さんが言ったように、ただ逃げてただけなのかなって。昔のトラウマに引きずられて、また失敗したくないとか、傷つきたくないとか、そう言い訳をして逃げ続けてきてたんですよね。だから、私はもう逃げたくない」


 そう続けて言い、笑うゆあは輝いて見えた。きっと、彼女にとって初めての心を許せる仲間。本当の意味での仲間が、俺たちなのだろう。そう思ってもらえることは、俺にとって大きな喜びだ。ここまで、俺たちのことを思ってくれる人がいるのだと思うと、これからの未来の不安も忘れて、思わず笑みがこぼれる。それは俺だけではなくて、雰囲気が柔らかくなる。この雰囲気に幾度となく助けられてきた。

 そして最後にもう一度、


「今を抱えて歩きます」


 と微笑んでくれた。

 そして、決断をしていないのは俺と壮さんの2人になった。俺は、壮さんの言葉は最後に聞きたくて、自分から口を開いた。1年後にいくという決意を伝えた。しかし、それは揺らいでいた気持ちではある。真剣に聞いてくれるみんなに、不確かな思いしか伝えられないことが悔しくてたまらなかった。

 そして、最後に壮さんが口を開く。これで、全員の決断が終わる。本当の意味で、長かった魔王を倒す旅が終わる。


「俺は、みんなのリーダーとして、不十分かもしれないけど今日まできた。毎日、不安やプレッシャーとの戦いもあったけれど、何より楽しかった。情報屋っていう仕事柄、人との繋がりをもつことを避けて生きてきた俺にとって、本当に大切な仲間と記憶なんだよね」


 いつもの優しい声で紡がれる一言一言に静かに耳を傾ける。


「だから、せめてみんなの前では最後までリーダーで居させてほしい」


 それから、次の言葉まで、不思議な時間が流れた。壮さんの言葉が思い起こさせる、1年間の日々が頭の中を駆け巡った。彼の言葉に、何度救われ、何度導かれ、何度感謝したか。いつの日も彼は完璧な優しい俺たちのリーダーだった。

 今日の日までを思い起こせば、不思議と辛さも悲しみもなく、楽しさと幸せが残る。そして、リーダーからの最後の指示が出された。


「俺以外のメンバーは今に残ってほしい。これからの未来をいいものにするために、この世界での1年を失わないでほしい。1年後の世界で俺が必ず全員を結びつけるから。もう一度仲間にするから。だから、みんなは今を生きてくれないか」


 


 


 

 

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