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世界を救った、よしどうしよう  作者:
未来を考えましょう。
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第47話 最後の決断を始めました。(2)

「黎、優華。決断をしてくれてありがとう」


 この重い雰囲気は振り払えるものではない。壮さんは、思い雰囲気ごと包み込むようにそっと二人を見て言った。悲しげな黎さんの表情や、不安に満ちたような優華さんの表情は崩れなかったが、少しだけ柔らかくなったような気がした。


「俺たちは、お互いの性格や好きなものは嫌ってほど知ってるのに、元の世界でのことを知らな過ぎたと思うんだよね。だから、その分、今、今日、伝えなきゃ分かってもらえないし、伝えてくれないと分からない。今日が最後なんだ。せめて、悔いのないように話してほしい」


 そう続けた壮さんの言葉は、また俺たちの心にしみる。いつだって、彼は俺たちを助けれくれた。最期の最後まで、やっぱりその関係は変わらなかった。

 例えば、今に残ったとしたら、悔いを感じていることさえ忘れてしまう。なかったことになってしまう。けれど、未来に行った仲間に後悔をさせることにもなってしまう。そして、その後悔は消えることもないし、晴らすこともできない、永遠の後悔になる。


次に口を開いたのは、涼さんだった。そして、この世界の自分を、俺たちが知らない涼さんという人を話してくれた。


「あの、俺……。もうみんな知ってるだろうけど、モデルやってて、夏から映画も決まってたんすよ。この春に、田舎から出て一人暮らしを始めて、やっと夢が叶うって思ってた反面、すっごい不安も大きい日々の中、俺は召喚されました」


 俺の様な一般人には計り知れない不安だろう。雑誌やテレビを通して、顔も知らない多くの人が自分の存在を知り、そして期待する。それもまた、俺たちが知らない新しい「世界」だ。


「頂ける仕事も、ファンからの言葉も、全部プレッシャーにしか思えなかった。相談できる相手もいなかった。地元を出たばかりの俺を、みんなモデルしてるやつ、とか、芸能人もどき、とか、そんな風にしか見てくれなくて……。もう、押しつぶされそうでした」


 世界の中にある「俺たちが知らない小さな世界」の中で涼さんは苦しんでいた。


「もちろん、みんなのように俺のことなんか知らない人も多くいましたよ。知名度は低いですから。でも、そんなの関係ないんですよ。知名度低い二流モデルが何悩んでんだ、って感じですよ」


 でも、苦しかった。涼さんはそう続けようとしたように見えた。そう続けようとして、その言葉を飲み込んで、小さく哂った。自分を哂った。


「話しかけてくれた人も、蓋をあければ、仕事を紹介しれくれとか、モデルの友達を紹介しれくれとか、そんなことばっか。誰も、俺を見てなんかなくて、俺の仕事とか、俺の周りの人しか見てくれない毎日から抜け出せたのが、あの召喚でした」


 涼さんが、俺たちにモデルであることを言わなかったのは、前に話してくれたように、単にモデルだからと特別扱いされたくない、というのも当然だがあったはずだ。しかし、それ以上にモデルである自分を振り切りたかったのかもしれない。

 いつかのアイドルの言葉のように、普通の男の子に戻りたかったのかもしれない。


「異世界に行って、俺のことを知らない人ばかりで正直ラッキーって思いました。モデルとか関係なくちゃんと俺を見てくれる、って。でも、元の世界に戻るときどこか不安でした。俺の仕事を知った途端、俺の事を見てくれないんじゃないか、って……」


 これも、また、以前話してくれていたことだ。だけど、もうその心配は要らない。


「でも、みんな何一つ変わらずに接してくれた。俺、それがすっごい嬉しくて、こういう仲間とずっと一緒に居たいって思ったんです。でも、それと同時に、俺は勝手に壁を作って逃げてきたんだって思ったんです。勝手な先入観を持って、壁を作ってた。仲間が欲しい、って思いつつ、向き合うことが怖くて逃げてたんだ、って。俺、馬鹿だなって……」


 彼は、そう言って片手で自分の髪をくしゃくしゃとかいて、頭を抱えた。涼さんは、周りの態度が変わっていくにつれて、初めて接する人にも、どうせ他の人と同じように俺を見ちゃくれない、という負の先入観を持つようになったのだろう。そして、それが次第に彼の周りに壁を作った。一人ぼっちの壁の中で、彼は仲間を探していた。

 今、その壁を壊そうとしている。自分を持とうとしている。モデルという肩書に負けない自分を持とうとしている。


 そして、そんな彼は、決断をする。


「俺は、みんなのことが好きだけど、やっぱり未来には行けないです。変われた今を忘れたくないし、俺を変えてくれたみんなを忘れたくないけど、でも、やっぱり……」


 今に残るという決断を。また壁の中に戻るという決断をした。そこには強い気持ちがあった。


「みんなの事も大切だし、自分の事もやっぱり大切です。でも、同じように、こんな俺を応援してくれる人が大切なんです。押しつぶされそうでも、不安や寂しさがあっても、やっぱり大切なんです。周りにいる、俺を見てくれない人でも、『モデル高崎涼介』を見てくれている。応援してくれている。やっぱり、その気持ちは裏切れないです」


 そこにあったのは、ファンの方への感謝だった。どんな環境にあっても変わらない彼の思いだった。

 もし、彼がこの気持ちを持ったまま”今”に帰れていたら、どんなに良かっただろう。きっと、今までよりももっと輝いていられたはずだ。

 

 どんなに、ここで色んなことを思って今に帰ったって、そのことは全部忘れてしまう。

 俺の心は、少しずつ揺れ始めていた。


 

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