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世界を救った、よしどうしよう  作者:
過去を振り返りましょう。
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第45話 今に帰りました。


「ゆあ、ありがとう」


 壮さんはそう言ってほほ笑んだ。何だか、彼の顔が少し柔らかくなったような気がした。きっと、壮さんだって不安だったのだろう。もし、一人でこの世界に残ることになったら。そんな不安が、きっとあったのだろう。


「俺も残る」


 次に残る決断をしたのは雄吾さんだった。


「この世界を放って帰ったら、向こうの世界で後悔しそうだからな」


 続けて雄吾さんがそう言った。それに影響されたのか、優華さんも、


「私も……、私も残ります! 不安は多いけど、でも、やっぱり戻って後悔はしたくない」


 と、この世界で戦う決意を固めた。


「雄吾、優華、一緒に頑張ろうね」


 2人の決意に、壮さんが笑顔で礼を言う。

 ここまでで7人のうちの半数以上の4人が残るという決断をした。一人一人が強い決断をした。共に戦う決意をした。俺の中で、だんだんと恐怖が薄らぐ。一緒になら、戦える気がした。ゆあと同じで、俺も元の世界での自分に不満を抱いていた。目立った存在でもないし、肉体的にも精神的にも強い人間ではなかった。俺も変わりたいと思った。雄吾さんや優華さんと同じで、この世界を放って帰って、後悔したくないと思った。

 俺が世界を救えるというのなら。俺が本当に勇者だというのなら、俺は、ここで世界を救うため戦いたいと思った。

 その決意を、口にする。


「俺も残ります。……一緒に」


 壮さんの目を見ながら話すと、それに答えるよう彼は頷いてくれた。そして、同じ決意を固めた仲間の顔を順番に見た。みんなが、笑顔を向けてくれる。それに安心して、この決意を固めてよかった、と思えた。恐怖だって完全に取り除かれたわけではない。それでも、決意を固めてよかったと思えた。

 これで、これからの選択をしたのは俺を含めて5人。残るは、涼さんと黎さんだ。彼らが、どんな決意をしようと、それは彼らの自由だ。でも、できれば残ってほしいと思った。

 しかし、それは俺の我儘でしかない。


「俺は……。どうしたらいいか分からない……」


 重い声でそう言ったのは、涼さんだった。


「悪いですけど、俺もです。皆みたいに強い決断が出来ないや」


 続けてそう言い、苦しそうに笑ったのは黎さんだった。

 残ってほしい、というのは俺の我儘。分かってはいたが、寂しさがこみ上げる。

 まだ、悩んでいる段階ではあるが、彼の決断によっては、一緒に居られなくなるかもしれないのだ。今日が、最初で最後の共に過ごせる日になるのかもしれないのだ。

 流れた沈黙に耐え切れなかったのか、涼さんが口を開く。


「俺、みんなが残るって決断をして焦ってました。俺も同じ決断しなきゃいけないのかな、って。正直、俺は怖くてたまらないんです。みんな同じなのは分かるけど、元の世界でやらなきゃいけないことがあるんです。ここじゃ死ねないんです。俺は、俺は……」


 言葉がつまる。涼さんは口を動かしてはいるが、それは声にはならなかった。


「無理に何も言わなくていい。元の世界に戻る、っていうのも立派な決断だよ」


 涼さんと黎さんを心配してか、壮さんが温かい言葉をかける。


「まだ、答えは出せないでいるみたいだけど、自分なりの答えを出せばいい。流されないで」


 続けて言った壮さんの言葉に、2人はうつむき気味だった顔を上げた。


「壮さん……。みんな……。勇者は7人全員そろってなくていいんですね」


 黎さんの言葉は、俺には元の世界に戻るという決断の言葉に聞こえた。壮さんは、黎さんをしっかりと見て、そして静かに頷いた。

 その瞬間、少しだけ黎さんの顔が陰った気がした。


「でも、それは、勇者としての俺の願いでしかない」


 そんな黎さんに、壮さんが声をかける。


「涼介、黎。シオンが王子として、国民として、願ったように……。俺は、勇者としては2人に自分なりの決断をしてほしいと願っている。でも、1人の人間としては、俺個人の願いとしては、ここに残ってほしい。みんなで、ここで戦いたい」


 俺が我儘だと飲み込んだ言葉を壮さんは素直に口にした。俺が言いたかった言葉を伝えてくれた。

 7人で召喚されたのが運命というのなら、きっと、7人で戦うことまでが運命だろう。


「壮さん、俺、正直怖かったんです。みんなみたいに決断できないし。だから、その言葉を待ってたのかもしれないです……。俺もここに居ていいんですよね。残ります、ここに……」


 黎さんが、そう言ってそっと微笑んだ。


「俺も、残ります。俺も、同じように引き留めてくれるのを待ってたのかもしれないです。素直じゃないから」


 続けて、涼さんがそう言い笑った。それにつられてメンバーに笑みが広がる。笑える状況じゃないなんてわかりきっていたけれど、それでも自然に笑みが浮かんだ。これからのことに不安は多いけれど、戦っていける気がした。少しだけ、強くなれた気がした。


 それから、王女様に7人全員で世界を救うために戦う、と伝えると涙を浮かべながらお礼を言ってくれた。ここに至るまでのわずか数時間であるが、様々な問題が起きた。それをまとめてくれたのは、壮さんだ。それは、誰もが思っていること。誰も言えなかったことを言ってくれ、温かい言葉をくれ、冷静な判断をすることができる。

 必然的に、壮さんがリーダーになった。


 そして、俺たちの旅が始まった。



* * * * * *



 これが俺たちが出会った日。

 そして、壮さんが俺たちを導き、助け、支えてくれた日々の始まり。

 

 世界を救うか、元の世界に帰るか。その選択を迫られたように、今、新たな選択を迫られている。このときのように、また、言いたいことを飲み込むのだろうか。壮さんに、導かれ、支えられていくのだろうか。

 決して、1年前の決断が、自らの意志ではない決断であるとは思ってない。壮さんの支えのもと、ただしい選択を全員が行えたと思っている。

 ただ、今回は違うのだ。知らない世界、初めて会う人、戻りたい理由。以前は、全員が同じ環境に居た。でも、今回は、それぞれの生活。それぞれの大切な人。それぞれの守りたいもの。それは、俺が知らないことも多く含んでいる。そう思うと、また、自分の考えを飲み込んでしまいそうになる。


 前よりもずっとずっと、俺は、独りだと感じた。



 

 


過去編が終わりました。

また本編に戻ります。

長くなってしまいすみません。


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