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世界を救った、よしどうしよう  作者:
過去を振り返りましょう。
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第44話 城に戻りました


「初めての城下だっていうのに大変だったね。お疲れ様」


 城の食堂に戻ったのは丁度正午くらいだった。壮さんたちが迎えてくれた。どうやら一通り起こったことの話は聞いているようで、そんな言葉をかけながら、紅茶をいれてくれた。


「えぇ……」


 シオンの言葉をどこか引きずっていて、少し元気のない声であいづちを打った。


「とりあえず、怪我がなくてよかったね」


 優華さんが優しく声をかけくれた。それにも、適当にあいづちを打ち、紅茶を一口飲んだ。ふわりと甘さが口の中に広がる。


「ちょっと砂糖いれたけど甘かった?」

「いえ、ちょうどいいです」


 壮さんが疲れを気遣ってか砂糖を入れてくれたらしい。ほんのりとした甘さで少しリラックスできた。


「もしかしたら勇者の召喚に魔族が気付いて偵察や警告として1匹街に送った可能性もぬぐえない、ってさっき城のやつが言ってた。今日、明日どうってことはないだろうけど、この国にあまり時間はないみたいだな」


 食堂の椅子には座らず、壁に寄りかかるようにして立っていた雄吾さんが腕を組みながら言った。


「そうですね……。。王女様が私たちに夕方までに結論を出して下さい、って急かしたのも仕方なかったんですね……」


 優華さんが、紅茶の入ったマグカップをぼんやりを見つめながらそう呟く。

 シオンの言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。彼の言葉を伝えるべきなのだろうけど、それは、きっとみんなを戸惑わせることになる。しかし、必死に伝えてくれた願いを、俺の中だけに閉じ込めていていいのだろうか。

 どうするべきなのか、よりも、どうしたいのか、の方が大事だ。そう思った俺は、シオンの言葉を伝えることにした。王子としての言葉も、一人の国民としての言葉も全て。


「あの、ちょっといいですか――」


 そして、今日のシオンの言葉を全て伝えた。王女様や城の役人に言われるのとはまた違う、世界を救ってほしいという願いの言葉を、みんな黙って聞いてくれていた。

 そして、それぞれが、シオンの言葉を受け止めたとき、雄吾さんが口を開いた。


「こういう言い方は悪いってのは分かるんだけどな。淳。この世界のやつらはみんな同じこと思ってんだよ。誰だって、お前が勇者って分かれば同じことを言うし、必死に頼むにきまってる」


 彼の厳しい言葉に涼さんも続いた。


「それはそうかもしれない……。そう言われるのは当たり前のこと。俺たちはこの世界を救うために召喚された勇者ですもんね。当然もてはやされるし、最後の頼みの綱なんだから、何としてでも、首を縦に振らせたがるのも当然。それに流されちゃ駄目ですよね」

「雄吾さん、涼君、ちょっと待って……。きっとその子は真剣に淳に頼んだんだと思う。なのにそんな言い方……」


 雄吾さんと涼さんの言葉に割って入り、反論したのは優華さんだった。


「じゃあ優華さんは、『命をかけて、思い入れも何もない、ついさっきまで存在さえ知らなかったような世界を救って下さい、お願いします』って頼まれたら、『分かりましたいいですよ』って言うんですか?」

「確かに、命をかけてとか言われてもまだ頷けないかもしれない……。でも、だからと言ってシオン君の言葉を否定するのは――」

「否定なんかしてませんよ! ただ事実を言っているだけで――」

「ちょっと落ちいて!」


 激しい2人の言い合いを止めたのは壮さんだった。初めて聞く、壮さんの張り上げた声に場が静まる。


「あ、ごめんね……。でも、ここで言い合いしてる時間は勿体ないから。時間がなくて、焦って気が立つのも分かる。自分の考えを理解してもらえない苛立ちも分かる。でも、だからこそ、今は落ちついて、ゆっくり考えよう」


 壮さんは、そうゆっくりと話した。それが、少しずつ俺たちに落ち着きと、余裕をくれた。

 すーっと一度大きく息をして、軽く目を閉じる。そして、ゆっくりと口を開いて、


「壮さんはどうかんがえてるんですか? これからのこと……。たしか、朝食の後に王女様が、結論は夕方までに、って……」


 と尋ねた。


「俺は、この世界の救う力を自分が持っているなら、戦うよ」


 壮さんはそう答えて、笑った。この人は本気なのだろうか。そうならば、どうして笑えるのだろうか。


「全員が全員ここに残らなきゃいけない、ってことじゃないらしい。時間はあまりないけど、自分なりに考えて、自分なりの決断をしてくれればいい」


 その言葉に、すぐに思ったのは、俺ぐらいここに残らなくても、という考えだった。俺だって、力があるなら世界を救いたい。でも、自分に力があるなんて思えなかった。命を失うのが怖かった。計り知れない魔族の恐怖に怯えていた。俺は、今日、シオンの願いとともに、魔族の恐怖も知ったのだ。

 震える手を握る手も、震えている。部屋には、呼吸の音だけが響いていた。


「あ、あの……!」


 そして、最初に声を上げたのはゆあだった。


「私も、ここに残ります……。壮さんと一緒に」

 

 少し震えた声で、そう言った。


「私は、私は残ります!」


 今度は、強く声を張ってそう言った。


「私、元の世界じゃダメな人間だったから……。何もない人間だったから……。ここでなら変われそうな気がするんです。世界を救えるかなんて分からないけど、私は救いたい。きっとそれが、自分自身を救うことにもなるから……」


 不安気な顔をしてはいるものの、ゆあの決意は強かった。きっと召喚された直後なら、甘い考えはよせだとか、自分自身を救う前に死んでしまうかもしれないだとか、本気なのかだとか、考え直してみたらどうかとか、言い方は違えど反対意見が出てきていただろう。しかし、今は違う。短時間であるとはいえ、心境に変化が生まれたのだ。

 これはそれぞれの選択。それぞれの決意。どうすべきか、ではなくて、どうしたいか、なのだ。



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