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世界を救った、よしどうしよう  作者:
過去を振り返りましょう。
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第40話 食卓を囲みました

 食堂には1つの大きな円卓があり、それを囲むように等間隔で7つの椅子が並べられていた。

 どうやら、俺が最後のメンバーだったらしく、自然と空いていた席に腰かける。


「みんな揃ったね、うん。 じゃあ、早速食事……といきたいところだけど。まずはこれからのことを考えて自己紹介をしておこう。どうなるか分からないこそ、大切なことだと思うよ」


 最年長であろう眼鏡の男性の言葉。全員がそれにうなずき自己紹介を始める。

 提案した男性から自然と座っている順に時計回りで自己紹介は進む。


『霧島壮介』

『高崎涼介』

『阿南優華』

『三谷ゆあ』

『新川雄吾』

『神田黎』


 そして俺、『仙崎淳』


 この7名が異世界に召喚されたメンバーだ。


「苗字で呼び合うのも堅苦しいし、適当に呼んで下さいね!」


 そう笑ったのは神田黎さん。確かに苗字では堅苦しい。その言葉をきっかけに、みんなで呼び方なを決めた。

 本来なら自然に決まる呼び方を、みんなで考えるということが何だかおかしくて、自然と笑みがこぼれる。


「まさか20歳こえで自分のあだなを考えるなんて思わなかったよ」


 壮さんがそう苦笑いをすると、


「俺も中学以来ですね」


 と、涼さんが続けて笑う。

 俺も、中学のときまでくらいかな、なんて考えていると、


「ご飯用意しますね」


 と、ゆあが席を立った。


「あれ、ご飯ってお城の人が準備してくれたんじゃないの?」


 その姿を見て、黎さんがゆあの背中を追うように聞いた。

 それに答えたのは、ゆあではなく優華さん。


「ゆあが作ったんですよ。朝早く起きて、色んな材料探して、前の世界に近い食事を作ろう、って言って……」


 その言葉のあと、ゆあが持ってきた料理はご飯、卵焼き、焼き魚、野菜のおひたしという極めて和風なものだった。


「本当はもう少し用意できればよかったんですけど、なかなか食材がなくて……。この世界でも、探せば味噌とか納豆みたいな発酵食品もあるかもしれませんね」


 ゆあはそう苦笑いで話したが、この食事は十分すぎるものだ。

 トーストやスクランブルエッグ、目玉焼き、ソーセージ、コーンスープ、サラダのような洋食も用意してくれているようで、メンバーが座る円卓の上は賑やかになり、美味しそうな香りに包まれる。


「ゆあちゃん、ありがとうね」


 黎さんが笑いながら、箸や小皿などを用意する。


「いえ、喜んでもらえてうれしいです! それと、ゆあでいいですよ」


 まだ幼さの残る顔で、そう微笑んだ。

 一通り用意が整い、挨拶をして食事が始まる。

 最初は、他愛もない会話をしていたが、自然と話題はこれからの生活に移る。


「俺たちは、どうしていくべきなんでしょね……」


 そう涼さんが、トーストにバターを塗りながら呟く。


「この世界のことも何もまだ分からないしねー……。やっぱりまずは、今の状況を把握することからかな」


 それに答えるように、黎さんが呟いた。


「俺、元の世界でしなきゃいけないこと山積みで、例えば半年この世界に居なきゃいけなくなったりして、元の世界に帰る、とかなったらもう……。それはみんな一緒なの分かってます。でも……、でも、やっぱり元の世界では行方不明とか、そういう扱いされてるのかな、って不安になりますし……」


 涼さんは、そう言って、食欲がなくなったのか、バターを塗ったトーストが置かれた皿を少し奥へと押しやって、紅茶を口に含む。


「そこ不安ですよね。私たち、元の世界に戻っても、この世界に居ても、どっちにしても今までの日常には戻れないんじゃないかな、って。夜、ずーっと考えてました。でもやっぱり、知らない世界のために、命をかけて、元の世界での日常を捨ててまで、私は生きていく自信はないです……」


 そう言って俯いたのは優華さんだ。

 いつまでここに居るのかも、ちゃんと帰れるのかさえ分からない。

 そんな状況で結論を急ぐのは得策ではないが、そうでもしていないと、みんな、何かに押しつぶされてしまいそうだった。


「実は、1つだけいい知らせがある」


 これからのことを考え、いい未来を想像できない俺たちの間に流れる、重たい雰囲気を破ったのは壮さんだった。


「いい知らせ……?」


 ここまで無言を貫いていた雄吾さんが低い声で呟く。


「ああ。実は、この世界を救うと決めても、戦わずに元の世界に変えると決めても、俺たちはこの世界に召喚された瞬間に帰ることができる」


 壮さんのことばの意味をなかなか理解できずに戸惑っていると、それを察したのか、


「つまり、元の世界のことは心配しなくていいんだよ。どんな選択をしても、王女様がちゃんと召喚された瞬間に帰してくれて、元の世界での生活に支障がないようにしてくれるんだ」


 と、もう一度説明してくれた。

 俺たちは、元の世界のことを心配することなく、純粋に、世界を救うために戦うのか、戦わないのか、という選択をすることができるのだ。


 しかし、世界を救うために戦うときめたとき。世界を救って、元の世界に戻るときめたとき。1つだけ引っかかることがある。

 それは他のメンバーも気付いたようだ。しかし、誰も口にしなかった。というよりは、口にできなかった。

 そうなることを壮さんは想像していたのだろう。彼が、きちんと言葉にしてくれた。


「みんな、もう気付いてるよね。戦うと決めたとき。戦って世界を救って、元の世界に帰るって決めたとき。その旅の過程で、もし死んでしまったら、元の世界に帰ることはできないってこと。ゲームみたいに、リセットもできないし、死んだら元の世界に帰れるなんてこともない。そこで終わりなんだよ」


 全員が食事の手をとめ、暗い表情を浮かべていた。俺も冷静を装ってはいたが、本当はどんな顔で、どんな言葉を言えばいいのか分からなかった。ただ、俯いていることしかできない。それが、ただただ情けなかった。


 死ぬなんてこと、まだちゃんと分からなくて、自分の傍にあることだなんてとても思えなくて、少し震える手を強く握りしめた。


 それからの空気はただひたすらに重たかった。

 ちらほらと話し声が聞こえていたが、それはただ沈黙に耐え切れず無理矢理につくられた言葉たちであり、当然のことだが会話が続くわけもなく、自然と静寂へとかえっていく。

 俺は、それすらもする気になれず、ただ無言で食事と片づけを済ませて、部屋へ戻ることにした。


 やはり他のメンバーもまだ整理がつかないのか、全員で話し合うのは午後にすることにして、とりあえずは自由行動をとることになった。


 メンバーが食堂を出ようとしていると、王女様の側近が俺たちを呼び止めて、少し申し訳なさそうな顔で、


「本日の夕方までに結論をお願いします」


 と言われた。本当は、王女様が来れなかったことや、本日の夕方までに結論を求めるということなども、丁寧な言葉で謝罪され、頼まれていたのだが、そんな言葉を1つ1つ聞いている余裕などなく、ただ必要な情報だけが記憶の中にあった。


読んでいただきありがとうございます。




ちょっとゆっくり話が進みます

過去編はあと5話くらいになりそうです


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