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世界を救った、よしどうしよう  作者:
過去を振り返りましょう。
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第39話 夢と現実の間に揺れました


 案内された個室はとても綺麗だった。10畳ほどの部屋にベッド、テーブル、メモと筆記用具の置かれた机、クローゼットが置かれていた。

 土足で入るあたりが文化の違いを感じさせる。


「この世界に合った服や鞄をクローゼットにご用意しておりますので、ご自由にお使いください」


俺を部屋へ案内してくれた王女の付き人の女性は、そう言って軽く頭を下げ、部屋の扉をそっと閉めた。

メンバーの部屋は同じフロアに並んでおり、食堂やお風呂、トイレなどもメンバー専用のものが並んであるようだった。

このフロアは、城の仕事場からも役員や貴族の居住場所からも少し離れた場所にあるようで、とても静かだ。


 ぐるりと部屋を見回して、そっとベットの柔らかいマットに腰を沈めた。

 その瞬間、溜まっていた疲れが一気に溢れだすような感覚に襲われた。

 自分の考えをまとめなければならない。分かってはいたが、体は疲労で言うことを聞いてくれなかった。


 突然異世界に召喚され、知らない人たちに囲まれ、信じられないような話を聞かされ。

 仕方のないことだ、と自分に言い聞かせる。


「はぁ……」


 とても長い1日だった、とため息を吐き、そのままベッドに倒れ深い眠りに落ちていった。




* * * * * *




 翌日。ベットから重たい体を起こし、自分の部屋とは違う天井に、ベッドに、床に、空気に、異世界に召喚されたことが夢でないと感じさせられた。


「やっぱり夢じゃないか……」


 自らの言葉で改めて気持ちを切り替える。分かってはいても信じられないのが現実だ。

 昨日は疲れで、着替えもせず寝てしまっていたため、服装は召喚されたときの制服のままだ。

 とりあえずクローゼットを開け、中を見る。部屋着に使えそうな、黒のTシャツとグレーのゆったりとしたスウェットのようなズボンを取った。


 着替えるだけでも良かったのだが、やはりシャワーを浴びたいと思い、服を抱えて部屋を出る。

 廊下の窓から外を見ると、まだ薄暗く、時刻は5時前であろうかと推測された。

 しかし、城のいくつかの窓からは明かりが漏れており、もう仕事を始めているのか、徹也で仕事をしていたのか分からないが、役員たちが作業をしているのが見えた。


「広いな……」


 窓から見える城の大きさや庭園の広さに驚きつつ、浴場へ向かう。


 案の定浴場には誰もおらず、ひとりでのんびりとシャワーを浴びた。

 城の浴場、ということで無駄な装飾であふれたような場所を想像していたのだが、それとは真逆でかなりシンプルなデザインだった。


 シンプルとはいえ、かなりの広さのある浴場の隅のシャワーをずっと一人で浴びていると、何とも言えないような寂しさに襲われ、特別ゆっくりとすることもなく浴場をあとにした。


 部屋に戻る頃には、太陽はまだ登らないが、空は少しずつ明るくなりはじめていた。もっていたタオルをまだ濡れた髪に乗せて、出窓カウンターに腰掛けて景色を眺める。写真でしか見たことがなかったような洋風の城と、ずっと続いて行く森。魔物だとか、世界の危機だとか。何一つ実感がわかないし、この風景からでは想像もできない。

 

 自分の目で見ているはずの景色なのに。なのに現実なのだと感じられない。全てが夢の様で、今、胸の中に流れ込む少し冷たい空気さえもが、現実のものだと思えなかった。


「はぁ……」


 小さくため息をついて頭を窓に預ける。キシッ、と木枠が音をたてた。朝起きた瞬間に、夢ではないと感じられたはずなのに、目が覚めれば覚めるほど、それを認めるのが怖くなった。これからが不安になった。来月だとか、1週間後とかのことではなくて、明日のことが、今日の夜が、次に訪れる瞬間が不安になる。


 1日経ったからこそ、少しずつ今を理解しはじめているから産まれる、信じたくないだけで、夢だと思いたいだけで、事実なんだということを理解しはじめているからこその感情。


 色々と考えているうちにすこし目頭が熱くなった。


「泣いたって何もかわんないのにな……」


 そんな自分を小さく哂って、出窓カウンターから降り、自室へと足を進めた。今は、じっと一人で考えていることが辛かった。怖かった。ゆっくりと頭にしみこみはじめた事実が、現実であり、夢ではないとはっきりと体で感じ、空気を受け入れられるまで、しばらくは考えないでおこうと自分に言い聞かせた。


 部屋に戻り、ベッドに倒れこむ。眠たいわけではなかった。ただ、そうしていたかった。そして、何も考えずにぼーっと過ごしている間に、現実から逃げるかのように眠りにおちた。




* * * * * *




 それから1時間ほど寝ていたであろうか。コンコン、と誰かが部屋をノックする音で目を覚ました。


「はい……」


 寝起きで思うように声が出ない。まだ半分眠っている身体を起こして、扉へと向かった。


「あの、朝食の用意をしました。よかったらご一緒に……」


 扉の向こうから女性の声が聞こえた。話し方や声の雰囲気から察するに、城の使用人ではないらしい。記憶を辿り、それが一緒に召喚された高校生ほどの女の子であろうという推測をして、扉を開ける。


「あ、おはようございます。もしかして寝てました……? ごめんなさい!」


 案の定、そこには黒いロングヘアを揺らす女の子が居た。


「いやいや、大丈夫だよ。もう行く? なら一緒に行くけど……」


 焦って謝っていた彼女を安心させようとそう言った。


「あ、はい! それと、私、三谷ゆあって言います。今から自己紹介するかもしれないですけど、一応……。呼び方は適当でいいので!」


 彼女の言葉で思い出す。召喚されてからというもの、世界の説明だとかこれからの話だとかでまともに自己紹介さえできていなかった。それに少しさみしさを感じつつも、俺も軽く名前と挨拶をして、食堂へと歩みを進めた。


「あの、三谷さん……?」


 食堂へと向かう途中、少しだけ緊張しながらも彼女に声をかけた。


「あ……はい! なんでしょうか? あと、ゆあでいいですよ?」

「いや、お互い突然すごいこに巻き込まれちゃって大変だなー、って」

「そうですね……。でも、私、これも何かの運命で、縁だと思うんです。だから、せっかくの出会い、大切にしたいなーって思います」


 俺の質問に、大きな目を細め笑って答える彼女につられて、俺も笑った。


「そうだね。頑張らないとね」

「……はい!」


 そんな話をしているうちに、食堂に着いた。

 中からは話し声が漏れている。少し深く息を吐いて、食堂の扉を開けた。





お久しぶりです。

過去編が少々長くなりそうです。

あくまで本編は今現在のことなので、

過去編は全体的に早めの更新をめざし、

流れをとめないようにしたいところです。


読んで下さり、ありがとうございました。

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