第3話 お風呂入りました。
翌日、疲れもあり昼前まで眠ってしまっていた。
寝すぎて重たい体を引きずって食堂へ向かう。こんなに体が重くても、お腹は空くから不思議だ。
「おはようございます……」
誰もいないだろ、と思いつつ、食堂の扉を開けるとそこには壮さん以外の全員がいた。
「淳が最後か……」
「みんなきた時間は、さほど変わらないですよ……」
様子を見る限りでは、みんな先ほどまで眠っていたようだ。
目をこすったり、大きな欠伸をしたりしている。
「なんかね、朝ちゃんと起きたのは壮さんだけなんだって」
「へー……。さすがですね」
優華さんの小さな情報に適当に返事をして席に着いた。
「みんな朝食はこれからなんですか?」
「うん、そうだよ。最早昼食だけどね」
朝食を待ちわびていると、隣の席に座っていたゆあに横腹をつつかれた。
(あの、淳さん)
(ん……?何?)
彼女が小声で聞いてきたので、俺も小声で返す。
(昨日、涼さんからお風呂で何か聞けました?)
……どうだったっけ。昨日の風呂でのことを思い出す。
* * * * * *
「涼介、実際どうなの?王女様のこと」
「どうもなにも……」
「仮に、でいいから。仮に、で」
俺が風呂に入ると、広い浴室の隅っこ涼さんはうずくまっていた。
少し離れたところに黎さんがいる。涼さんをそこから問い詰めている様子。
熱めのお湯に入って、黎さんのもとまで歩いて行く。
「あの、涼さん何か言ってました?」
涼さんに聞こえないよう、少し声を抑える。
「いや、何にも。雄吾さんいるからあんまり深くつっこめないし……」
「そうですよね……」
「実際さ、なんで王女様は壮さんを呼んだのかな?」
一番ノリノリで涼さんをからかっていたように見えた黎さんが、そんなことを聞くので、とても不思議に思い、
「どうしてですか?」
と聞いた。
「質問を質問で返すなよ……」
なんて笑いながらも黎さんは話してくれた。
「ほら、魔王倒したわけだし、俺らもとの世界へ戻るんでしょ?」
「まぁ……」
「各地を転々としてたから、特に親しい人とかできたわけじゃないし、みんなとは元の世界で会えばいいから、そこは寂しくはないんだよね」
いつもと少し違う黎さんの姿に少し、緊張する。
「でもね、みんなと旅出来ないのが寂しいんだよ。みんなとの日常って、1年前までの非日常だから……。だから、もう、同じような生活は出来ないんだな、って思って。そりゃ、怪我したり、心まで疲れちゃったり、大変だったけど、それでもやっぱ楽しかった。だから、もし王女様が本当に誰かにこっちに残ってほしい、なんて話したら、元の世界じゃみんな揃うことができなくて、もっと寂しくなるな、って思って」
「え……?」
意外な言葉に思わず驚きの声が漏れた。
「大丈夫ですよ、きっと。誰が誰に告白されても、このメンバーと帰る道を選ぶと思いますよ。だから、元の世界で思いっきり1年前までの日常を楽しみましょうよ。もう魔王を倒す旅なんてできないでしょうけどね」
とりあえず、何か言わなければと思って言ったが、黎さんの顔を直接見れなくて少しうつむいた。
「そうだよね、もうこんな洋風の城じゃ風呂に入れないけど」
黎さんはそう笑って言って、俺の蒸気で少し湿った髪をくしゃくしゃにした。
「何するんですか!!」
「ん? お前と話してたから、涼帰っちゃった。雄吾さんも」
「え……?」
急いで周りを見渡したが、2人の姿はなかった。
「じゃ、俺も上がる」
黎さんはそういって、浴場をあとにした。
そして、俺はその後、明日女性陣に何て報告しようと頭を悩ませながら、広い浴場で1人ぽつんと髪を洗ったのだった。
* * * * * *
(雄吾さんがいて聞けなかったんだ……)
半分本当で、半分言い訳の言葉で真実を隠した。
(そうですか……。まぁ壮さんからの話で王女様が何て言ってたかわかると思いますし。無理いってごめんなさい。ありがとうございました)
ゆあはなんて良い子なんだ、きっと優華さんだったらもっと聞かれてる、なんて思いながら朝食を待った。
帰るまでの道のりって、意外と長いですねw
誤字脱字等ありましたらご報告お願いします。
アドバイス等お待ちしています。
【3月21日】
年齢関係上不自然な言葉づかいをしている点、
少し会話が噛み合っていない点がありましたので修正しました。