表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救った、よしどうしよう  作者:
大切な人を守りましょう。
38/49

第37話 守る方法を知りました。


「俺たちが消えないためには、世界にとって合理的な存在にならなければいけないんだよね。そうなる方法は、2つ」


 しかし、そのどちらを選んでも今のような生活は送れない。

 それは、分かっていることだった。


「あの、その前に、どうして今現在、俺たちは不合理な存在なのに消えてないんですか……?」


 黎さんが、恐る恐る壮さんに聞いた。

 確かにその通りだった。

 最悪、今までの話でいけば、この世界に戻ってきた瞬間に消されたっておかしくなったはずだ。

 それとも、いつ消えてもおかしくないというのか……?


 そう考えた瞬間、俺の心は恐怖に支配された。

 加速する心臓を落ち着けたのは、やはり壮さんだった。


「大丈夫、時間は残ってる。さすがに、すぐに存在を消すほど世界は厳しくなかったみたい。時間がないことには変わりないけどね。2つの選択をするのに残されたのはあと、7日だよ」


 7日……。長いようで短い。

 今からの選択が、すぐに決断できるようなものだとは思えない。

 壮さんが無茶な作戦で、今の自分の状態を理解させようとしたのが、何となくだが分かったような気がした。


「じゃあ、続きね……」


 緊張した空気が、俺たちを包む。

 不安をかき消すため、上着の裾をきゅっと握りしめた。


「もし、このメンバーと1年間の旅の記憶や持ち帰った道具、魔法という力を保ちたいなら、1年後の世界に行くんだ。つまり、元の世界では召喚された日から1年間行方不明だった、ということになるよね……。そうなったら、この世界での生活に大きな支障がでるし、その後も苦労ばかりになってしまう。だから、もし、召喚された瞬間からこの世界に戻りたいなら、記憶も道具も魔法も、全部忘れなきゃいけない。これが2つの選択だよ……」


 言葉を理解して、胸が締め付けられる。喉の奥がつまったような、そんな苦しさ。

 ……選べるわけがなかった。


 つまり、この世界での生活を取るか、メンバーとの記憶や道具、魔法のどちらをとるか、ということ。


 この世界ではまだ高校生だ。1年間も行方不明となったら、どれだけの人に迷惑や心配をかけるか分からないし、将来に大きな影響がでることは確かだ。

 異世界に召喚された、と言えばきっと病院送りになるだろうし、魔法を使えばその力をどれだけ多くの人に狙われるか分からない。

 

 正直、俺は魔法や道具なんてなくなっても良かった。

 でも、旅の記憶だけは、1年間で得た大きな財産なのだ。

 命を懸けて共に戦った仲間は、きっとこの世界では得られない特別な関係だ。

 そんな仲間や、ともに過ごした旅の記憶を失うなんて考えられない。


 きっと、後者なら、全てを失いもとに戻るだけだ。

 異世界での生活があったことすら分からない。

 何も知らないで、何も変わらないまま、今までの生活に戻れる。

 でも、今の俺にはその選択はできなかった。

 このメンバーが居ない世界は、どうしてもつまらないものに思えてしまった。


 同じように、みんな苦しんでいるようだった。

 きっと、忘れてしまいたいような最悪な旅だったのなら、きっと簡単に選択できただろう。

 でも、そんな薄っぺらい関係じゃない。だから、苦しまなければならない。

 この世界にとって、合理的なことは、俺たちにとってはあまりに不合理だった。


「どちらの選択をしても、俺たちが帰って来てからのこの世界の人の記憶は、新しい記憶に作り替えられる。俺たちが行方不明になったという記憶か、何も変わらない俺たちが居るという記憶にね。おかしい、って思うかもしれない。でも、それがこの世界の道理なんだ、ルールなんだ。ごめんね……。みんな。この2つしか、道は見つけられなかったんだ……」


 誰も悪くない。謝らなくていい。みんな、そう思っていた。

 壮さんも、他のメンバーも、キリグリーマ王国の人々も。

 誰一人、悪くない。キリグリーマ王国の人々は、どうしても、必要だったから俺たちを召喚し、何度も頭を下げて、協力してくれと頼んでくれた。

 そして、俺たちは協力すると決めた。これも、運命なのだ、と。

 

 1年間の旅を経て、こうして無事に帰ってくれた。王女様は、無事に返してくれた。

 すべてが、上手くいくはずだった。

 新しい仲間と、元の世界、元の時間から、また始められるはずだった。


 誰も悪くない。むしろ、みんな良い行いをしたといえるのに。なのに、こんなに苦しい選択をせまられている。


「1年後の世界に行ったら、記憶も魔法も道具もそのままなんですか……?」


 震える声を絞り出して、ゆあが尋ねる。


「道具はすまないが、分からない。でも、記憶も魔法もそのままだよ。それは、1年間の間に作られ身についたものとして、世界に認められるんだ。この世界にとっては、一瞬もしないうちに生まれた1年分の記憶や、身についた魔法を不合理とするらしい。だから、1年間この世界から消えることで、それは合理的なものに変わるんだ」


 俺たちにとって、合理的とか、不合理とか、きっとそんなことは僅かも関係していない。

 それが、この世界の道理で掟でルールで。ただ、それだけのことなのだ。

 深く考えるのは無駄だと悟った。

 今、考えるべきなのはこの世界にとって、何が合理的で、何が不合理的なのかではなく、残された2つの道の、どちらを選ぶか、ということなのだ。


 この世界は、俺たちにとっては、なんとも不合理的な世界だ。




* * * * * *




 それから、どうやって家まで帰ったのか、記憶は曖昧だった。

 ずっと考えていた。俺にとって、みんなにとって、最善の選択は何なのか。


「みんなが同じ選択をする必要はないよ。誰か1人だけが1年後の世界に行っても、ちゃんとこのメンバー全員と居た記憶が残るそうだ。でも、その記憶は他のみんなにはない。街ですれ違っても、相手は自分を知らないから、ただすれ違うだけ……」


 壮さんが、最後に教えてくれたこと。すごくすごく寂しい話。


 これは、1人の選択なのだろうか。自分がどうしたいか。何を護りたいのか。

 それだけなのだろうか。


 そして、これからのこと。


『選択の時間は7日』


 タイムリミットは7日。

 それまでに、自分が守りたいものを、選ばなければいけない。

 

 1番辛いのは、一人でこの話を聞いて、みんなにどう説明するか悩んで、行動して、こうして落ち着きを保って話している壮さんのはずだ。

 ただ、弱さを見せないだけであって。

 今はただ、その強さに感謝するだけだった。


 こうして俺たち6人を今日まで導いて、支えてくれて、思ってくれたのは、他の誰でもない壮さんだ。

1年前の、あの日から――。



読んで下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ