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世界を救った、よしどうしよう  作者:
大切な人を守りましょう。
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第36話 経緯を聞きました。



「嘘、でしょ……? だって、私たちが異世界に行ったときは、1年間大丈夫だったじゃないですか! それに、今、私はここに居るのに……」


 沈黙を破ったのは優華さんだった。

 震える声で、聴く。


「本当だよ……。向こうの世界に行ったときは、異世界に行って、魔法を覚えて、新しい記憶を作っていった。持ち物もただ、持って行っただけとみなされてたんだよ。でも、1年間時をさかのぼって戻ってきたとき、全部不合理になったんだ。おかしいかもしれないけど、それがこの世界の道理なんだ。俺たちには、変えられないことで、逆らえないことなんだよ……」


 こんな考え方はしたくないけれど、俺たちは、俺自身は、異世界を救った勇者だ。英雄だ。

 魔法も記憶も道具も、全部命をかけて戦って、苦しんだことに対するご褒美じゃないのか?

 ……どうして、どうして、俺たちが消されなきゃならない……?


「ただ黙って消されろ、って言うんすか……? 壮さん!!」


 雄吾さんが声を荒げた。でも、ただ荒いだけじゃなくて、奥には、不安が見えた。


「もちろん、違うよ。消されない道は2つある」


 その一言に、全員が顔を上げる。


「じゃぁ、またこうしてこのメンバーで集まって、今まで見たいにこの世界で暮らせるんですよね?」


 一気に表情を明るくした黎さんが壮さんに聞く。

 しかし、壮さんは悲しげに笑って、首を横に振った。


「え……?」

 

 先ほどまであんなに明るかった黎さん顔が一気に暗くなる。

 それも辛いが、悲しそうに笑う壮さんの顔を見るのも辛かった。

 彼は、1人でこんなに大きい問題と向き合ってきたのだ。

 俺たちを心配させないために……。


「その2つの選択をする前に、今の自分を分かってほしかった。俺がゆあの作戦のに協力したのは、みんなに分かってほしかったんだ。……自分たちが今、生きているのは、元居た世界だってこと。この世界に居る大切な人たちの事。この世界での生活のこと。そして、自分たちの感覚はずれているっていうこと、冷静な判断が出来ないっていうこと……」


 繋がり始めた。

 ゆあの失踪事件と俺たちが消えるということが……。


「そのために、ゆあが居なくなるっていう事件を起こしたんだ。金林君や駄菓子屋のお婆さんに嘘の理由を言って、協力を求めて……。キリグリーマっていう名前を出せば、そこからはあまり事件が大きくならないとふんで、途中でその名前が出るように仕組んだんだ」


 全ては、壮さんの考えのもとに動いていた。

 俺たちは、壮さんの思うように動いていたのだ。


「意味……わかんないですよ……。壮さんは、俺たちが冷静な判断できてなかった、って言うんですか? 俺たちは、壮さんの指示通りに動いた!! それで、どうしてそんなふうに言われなきゃいけないんですか……? そんなこと、確かめなくたってよかったんじゃないですか!? わざわざ、こんなことしてまで……」


 涼さんが、声を荒げる。


「それが、違うって言ってるんだよ。確かに、異世界では強くて大きなリーダーを置いて、決まった行動をする必要があったよね。魔物から身を守って、旅を進めていくために……。でも、この世界は違う!! 外部者が何度も高校に入って、警察にも言わないで高校生使ってゆあ探させて、色々と無茶な作戦だったのに、誰も俺に何も言わなかった」


 強い涼さんの口調に、壮さんも言葉を強くする。


「この世界では、個人の考えが居る。何でもリーダーの指示に従えばいいわけじゃない。頼れるのは、俺たちやその周りの人だけじゃない。俺たちを守る組織がいくつもある。きっと、1年前なら大切な人が居なくなったとして、すぐに学校に入っていく? 警察に言わないで高校生に頼る? 違ったよね? ゆあが居なくなって、冷静さを欠いていた、という訳じゃないでしょ? ゆあが居なくなって、必死に冷静な判断をしようとして、結果この世界では“冷静ではない”とみなされる判断をした。今、自分たちがそういう感覚でいることを理解してほしかったんだ」


 涼さんは何も返さなかった。

 壮さんに頼りすぎただと感じていても、何もせず、彼の指示に従っていた。

 壮さんが言うのだから正しいとか、そんな風に感じていたのも事実だ。


 今、俺は壮さんの作戦のもと、自分の感覚がずれていること、“この世界での冷静な判断”をできないということを、強く理解させられた。


「本当は、こんなことはするべきじゃないって分かってた! でも、時間がなかったんだ……。こんな上手くいくかも分からない作戦しか思いつかなかった。ゆあやみんな、関係のない人たちを利用するような形になって、本当に申し訳ない……」


 壮さんはそう言って、深く頭を下げた。


「いいんです。私、どうかしてましたよね……。こんな周りに迷惑しかかけないような無茶をするなんて。何もおかしくない、って思ってました。これでいいって……。壮さんのおかげで、少し冷静になれた気がします……。だから、謝らないでください……」


 ゆあが、声を震わせた。

 皆、同じ思いだった。

 誰も悪くなんかなかった。

 ただ、時間と余裕がなかった、それだけのことなのだ。


「ありがとう、ゆあ……みんな……」


 頭を上げて微笑む壮さんに、


「お礼を言うべきは俺たちの方です。それに謝るなら、作戦に協力してもらった金林君や駄菓子屋のおばあさんに……」


 と、俺が言うと、壮さんは首を横に振った。


「こんな無茶ができたのは、その2つの消えないですむ方法に関係しているんだ。どちらの方法を取るにしても、俺たちがこの世界に帰って来てから、その方法を実行するまでの記憶は、消される」


 ようやく落ち着き始めた脳内が再び混乱し始めた。


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