第34話 それぞれ不安でした。
「壮さん、どういう事っすか……」
「俺たちは、こんなに必死にゆあ探してたんですよ……?」
雄吾さんと涼さんが、小さな声で聞いた。
「あの、ごめんなさい!! 私、涼さんと優華さんが仲直りするきっかけが欲しくて、それで、壮さんに協力をお願いしたんです」
ゆあが、壮さんの前に飛び出して、頭を下げた。
「本当にごめんなさい! まさかこんな大きな話になるなんか思ってなくて……、それで……」
何度も頭を下げるゆあに、優華さんが歩み寄る。
「ゆあ、心配したんだよ……。無事で良かった、本当に……。それから、私のこと、心配してくれてたんだね。こんな無茶なことするくらいに……。ありがと……」
ゆあにそう言う声は震えていた。
「優華さん、ごめんなさい……本当に」
そして、繰り返し謝るゆあを抱きしめた。
彼女よりちょっと背の低いゆあは、肩にそっと顔を埋める。
「俺は、ゆあと壮さんの行動、あまりいいことだったとは思えねぇな。居なくなることが、どれだけ迷惑と心配をかけることなのか、分かってるなら、仲直りのためにわざわざこんなことしねぇだろ」
優華さんとゆあを引き離すというよりは、二人の間に入るかのように、雄吾さんが静かに言う。
その言葉に反応して、優華さんとゆあはさきほどまで居た場所に戻った。
「俺もだよ。正直、ゆあが涼と優華を仲直りさせようとしたのは、今までのことからも想像してたよ。まさか、こんなことするとは思わなかったけどね。でも、壮さんがこんなこと一緒にするなんてね」
柔らかい表情と、声色はそのままなのに、どこか少し、怒りを感じさせた、黎さんの言葉。そして、壮さんを見る、冷たい目。
「正直、もともとは俺と優華さんが喧嘩したことが原因だから、あんまり強くは言えないけどさ。でも、こんなことしなくたって、俺と優華さんが仲直りできる、って。そう信じられなかった? ゆあ、俺ちょっとショックだわ。壮さんも壮さんっすよ……」
涼さんも、ゆあと壮さんの行動を良くは思っていないようで、そう言ったあと深くため息をついた。
「ごめんなさい……。壮さんは悪くないんです、私が無理にお願いしたんです。本当にごめんなさい……。でも…」
「でも、じゃねぇよ。迷惑かけたのは、ここにいるメンバーだけじゃねぇ。ゆあ探すの、何人が手伝ったと思ってんだ!!」
ゆあの言葉を遮り、雄吾さんが声を荒げる。
「私は……。私は……」
彼女は、
俺は、喧嘩のあと、ゆあと一緒に帰ったとき、彼女の心の脆さを知った。同時に、誰よりもメンバーのことを考えて、誰よりもメンバーを大切に思って、誰よりこのメンバーと居られることを望んでいることも。
彼女がしたことは、仲直りをさせるためとはいえ、無茶だったことは確かだ。
でも、誰よりもメンバーを思うから、離れ離れになったり、距離が開いてしまうことに不安を感じていたんだろう。
雄吾さんや黎さん、涼さんがゆあの行動に苛立ったのは分かる。
でも、今はそれよりも、ゆあが無事だったこと、メンバーのことを思ってくれていること、全員がこうして同じ場所に居れることを喜ぶべきなんじゃないだろうか。
そして、ゆあが現れたことで生まれる、いくつかの疑問を片づけなければならない。
加えて気にかかるのは、先ほどから何も言わない壮さんだ。ずっと、俺たちのほうを見ているだけで、表情も変えない。
しかし、まずは苛立つメンバーを落ちつけなければいけない。
「もう、いいんじゃないですか? それくらいで。ゆあが無事だったんですから。確かに、ゆあの行動は無茶だったかもしれないですけど、それだけ、メンバーのことを思ってくれてたんですから……」
メンバーを落ちつけようと、静かに、ゆっくり言う。
「ちゃんと謝ってるんですから、もう、そんなに言わなくていいじゃないですか」
「まぁ、終わったことをどうこう言っても仕方ないよね。うん。反省してるみたいだし。ゆあが無事だったんだから、それだけでもういいよね。ゆあ、言い過ぎたよ。ごめんね」
黎さんが、ゆあにそう微笑んだのをきっかけに、涼さんと雄吾さんもゆあを許してくれたようだ。
みんな、彼女が1番自分たちメンバーを思ってくれていることは分かっていたのかもしれない。
不安で不安でたまらなくて、それに耐えられなかったことも、気付いていた。
でも、みんな同じようにどこかに不安を抱えているから、だから言い合いになって、喧嘩になっていくのかな、なんて思った。
そして、話を先ほどの“ゆあが現れたことで生まれる疑問”に切り替える。
「それよりも、今、考えることあるんじゃないですか?」
「今、考えること……?」
黎さんが俺にそう言ったが、それを俺は無視して、壮さんの方を向く。
「金林君のことも、駄菓子屋のお婆さんのことも、全部壮さんが話を作ったんですよね? 俺たちが最初学校に行くだろう、って想像してたんですよね? 今、冷静になって思うと、壮さんがこんな無茶な作戦行うなんて、やっぱり変ですよ……」
俺の言葉を聞いて、涼さんが、
「確かに、目の前のことで必死でそこまで考えてなかった……。今考えれば、ゆあが居なくなった証言をしたとか、キリグリーマ王国って言葉を聞いたとか、全部おかしい……」
と、うなずく。
「ゆあが言い始めたことでも、ここまで壮さんが協力した、ってことは何かあるのかなぁー……。壮さん? なんでこんな無茶なことに協力したんですか?」
黎さんも、今までの流れにに違和感を感じたようだ。
「私、不安でいっぱいで、色々必死で、もういっぱいいっぱいだったから、だから、壮さんが協力してくれたとき、おかしいなんて思わなかった……。今、考えたら、私でも無茶なことだって分かります。止められてもおかしくなかったな、って……」
事件のきっかけを作ったゆあでさえ、壮さんがなぜ協力したのか、分かっていないようだった。
そして、表情を変えず、ずっと黙っていた壮さんが口を開く。
「話はながくなるから、お茶を淹れよう。その前に、結論だけ話しておくよ。俺たちは、今のままだと消えてしまうかもしれない」
俺の中で、ゆあが仲直りを目的に考えた無茶な作戦への協力と、全くつながらないその言葉に、ただただ、戸惑うばかりだった。
『消えてしまうかもしれない』
その言葉の意味が分からないまま、みんなで紅茶を淹れた。
本当なら、すぐにでも詳しく話を聞くべきなのかもしれないが、それはすこし怖くて、だから壮さんが最初に言ったように、お茶を淹れた。
みんなそれは同じなようで、無言のまま、淡々と用意をする。
自分の中で、壮さんの言葉を意味をゆっくりと理解していくかのように。
そして、紅茶とクッキーの用意がすんだ。
甘党の黎さんは無言のまま、慣れた手つきで、角砂糖をカップへと大量に入れていく。
そして、一口だけ口に含んだ。
きっと、甘いものをとることが、彼にとって1番落ち着くことなのだろう。
他のメンバーは誰も、目の前の紅茶には手を付けなかった。
「よし、じゃあ。説明を始めるよ」
壮さんが、そっと口を開いた。
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