第33話 一度集まりました。
金林君から少し離れた場所で、壮さんを会話をする。
「もしもし、壮さん。俺です」
『ああ、淳。話は聞けた?』
電話越しの壮さんの声は、いつもと変わらなくて、俺に安心を与えてくれる。
「はい。学校の特定まではいきました」
それから、俺は金林君から聞いた情報をすべて彼に伝えた。
そして、もう1つ気がかりだったことを聞く。
「あの、優華さんの具合は……?」
先ほど、涼さんのバイクの後ろに乗せられ、壮さんの事務所に向かった優華さんのことだ。
『大丈夫。ただ、疲れてたみたい。ここ数日、現実世界に引き戻された上に、色んなことがあったでしょ? 本当は、もっと俺が、気遣うべきだったよ。何も気づいてあげられなかった俺の責任』
壮さんは、どこまで考えているのだろうか。
きっと、今いった言葉は、彼の中で本当のことなのだろう。そして、俺に負担をかけないように選んだ言葉なのかもしれない。
いつだってそうだ。
年上だから、リーダーだから。壮さんの意見にみんなが従っていた。逆にいえば、失敗したときの責任は壮さんが背負うことになる。俺は、頼りすぎていた。
何度も命の危機にさらされたのにもかかわらず、無事に帰ってこれたのには、壮さんの存在が大きかったことは分かりきっていることだった。
大人な壮さんの言うことはもっともで、彼はいつだって冷静だった。
でも、必ずしもその言うことが1番じゃないことくらい、どこかでは分かっていた。
ただ、自分で考えて動いて、大きな失敗をすることが怖かっただけなんだ。
だからいつだって。俺の行動の1番下には、壮さんがいた。それを、壮さんは当たり前に受け止めてくれていた。
だから、今。壮さんは、どれだけのことを考えているのだろうか。
「壮さんのせいじゃないです……。そんなの、壮さんの責任じゃないんですよ。俺だって、気づいてあげられなかったし、疲れてることくらい分かってましたけど、何もしてあげられなかったんですから。だから、ゆあ見つかったら、俺、優華さんにちゃんと謝ります。自分のことでいっぱいいっぱいで、周りに気をつかえなかったこと。だから、その……」
きっと、俺が言おうとしていた言葉を、壮さんはくみ取ってくれた。
だから、俺の言葉を途中で遮って、
『うん、ありがとう』
と、そっと笑った。
なんだか、言った後に照れくさくなって、
「それで、今からの計画なんですが……」
と、話を戻す。
『あぁ、そうだね』
「今の情報をもとに、出来る限り情報を絞って……」
最初の計画を思いだして、話し始める。
『ううん、ちょっと色々あって、予定変更。戻ってきてくれるかな? 霧屋まで』
「え? 色々って何ですか? 早くしないと、ゆあが……」
壮さんの予想外の言葉に、俺の心に焦りが生まれた。
『焦らないで。いいから、戻ってきてくれるかな?』
いつもより少しだけ、強い壮さんの声を聞いて、ただ「はい」と返すしかなかった。
どう言って、どう考えたって、やっぱりどこかで落ち着いた壮さんの声を勝手に居場所にして、ゆあのことを、世界を救えたように、解決できるって思っていた。
1年の旅の中で、それだけ壮さんという人の存在は大きかった。
壮さんが居れば、それだけで安心できた。
何も出来なくて、頼ってばかりで、そのくせ立派なことだけ言っている自分が、今、居ることが情けなかった。
通話の途切れた携帯電話を強く握りしめる。
でも、金林君の前でそんな姿は見せられないし、見せたくない。
そんな薄っぺらいプライドを守るため、平然を装い、彼のもとに戻る。
「協力してくれてありがとうね。前に話した作戦にちょっと変更ができたんだ。だから、また後で」
「あの、俺も何かしたいです、三谷のこと心配だから……」
彼の安定しないゆあの呼び方に違和感を持ちつつ、首を横に振る。
「ゆあのこと、俺たちに任せて。じゃぁ、あんまりここに長居しても悪いから……」
大切な人のために何も出来ないという情けなさは、俺もよく分かる。
きっと彼は今、そんな感情と戦っているのかもしれない。
辛いのも、苦しいのも分かる。でも、今は、彼を巻き込むわけにはいかなかった。
心苦しさを抱えたまま、俺は学校を後にした。
* * * * * *
「すみません、遅くなりました」
臨時休業となった霧屋の扉を開くと、壮さん、雄吾さん、優華さん、黎さんが居た。
「あ、淳。事情を説明して、みんなに集まってもらったんだ」
「はい……」
何のために集まったのか理解できず、焦りを隠し、抑えるため、一度大きく息を吸って、テーブルを囲むようにして座るみんなの輪に入る。
「あとは……、涼介だけだね」
これぽっちの焦りも見られない壮さんに、正直苛ついた。ゆあの一大事だというのに、なぜこんなにも平然なのか、と。
今まではそこに安心を感じていたが、この状況ではなかなかそうも思えない自分にも腹が立つ。
これは、壮さんの作戦なのだ。何か考えがあるのだ。そう思おうとしても焦りが消えない。
「あの、なんで集まったんですか? たくさん情報は集まってるじゃないですか。なら、早くそれをもとに……」
まだ体調が回復していないであろう優華さんの言葉。顔色は悪く、くまも見える。ひざ掛け代わりの毛布を握りしめていた。
俺も全く同意見ではあった。優華さんからも焦りを感じられた。しかし、その焦りは今の彼女の体には大きな負担だ。
ゆあの件に異世界が関わっていると分かった以上、優華さんには捜索を手伝ってもらいたい。
どうすればいいのか、分からなかった。ゆあのことも、優華さんのことも、同じように心配なのだ。
居なくなったゆあ、目の前で辛そうな優華さん。どちらも、同じように守りたい。
「優華、落ちついて? ね? 今の優華の体じゃもたないよ。休むときなんだよ」
感情的になっている優華さんに、黎さんが優しく言う。
異世界では、能力を使う優華さんが居たため、医学部生としての一面を見せなかった黎さんだが、今は違う。
医師になるべき人間として、彼女に話しかけていた。
「……」
何も言わず、優華さんは頷いた。
きっと、彼女自身身体が限界であるということには気づいていたのだろう。
それでも、動かずにはいられなかったのかもしれない。
それからすぐに涼さんが霧屋のドアを開けた。
「すみません、遅くなって……」
そこには、いつものように綺麗に髪をセットした、爽やかな青年ではなく、汗で髪をぐしゃぐしゃにした男がいた。
きっと、それだけゆあのため、動いていたのだろう。
涼さんのその姿に感動するとともに、目線は壮さんへと移る。
こんなにも必死に、ゆあのため団結して動いていた俺たちをとめてまで、話さなければいけなかったこととは何なのだろうか。
同じことを考えているのか、全員の視線は壮さんに集まっていた。
「うん、そうだね。すぐに話を始めよう。その前に……」
壮さんは、いつもの柔らかい顔ではなく、引き締まった表情をしていた。
そして、『その前に』の行動を始める。
彼は、霧屋の置くの居住スペースの扉を開け、中に入っていった。
そして、1分もしないうちに霧屋へと戻ってきた。
それから、今起きていることを理解するのには少し時間がかかった。
「え……?」
「どう……し…て……」
「意味わかんねぇ……」
壮さんの後ろには、いつもと変わらない姿のゆあが居た。
読んで下さりありがとうございます。
更新が遅くなり、申し訳ありません。
それにも関わらず読んで下さった皆様には、
感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございます。
完結まで、お付き合い頂ければと思います。