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世界を救った、よしどうしよう  作者:
大切な人を守りましょう。
34/49

第33話 一度集まりました。

 金林君から少し離れた場所で、壮さんを会話をする。


「もしもし、壮さん。俺です」

『ああ、淳。話は聞けた?』


 電話越しの壮さんの声は、いつもと変わらなくて、俺に安心を与えてくれる。


「はい。学校の特定まではいきました」


 それから、俺は金林君から聞いた情報をすべて彼に伝えた。

 そして、もう1つ気がかりだったことを聞く。


「あの、優華さんの具合は……?」


 先ほど、涼さんのバイクの後ろに乗せられ、壮さんの事務所に向かった優華さんのことだ。


『大丈夫。ただ、疲れてたみたい。ここ数日、現実世界に引き戻された上に、色んなことがあったでしょ? 本当は、もっと俺が、気遣うべきだったよ。何も気づいてあげられなかった俺の責任』


 壮さんは、どこまで考えているのだろうか。


 きっと、今いった言葉は、彼の中で本当のことなのだろう。そして、俺に負担をかけないように選んだ言葉なのかもしれない。

 

 いつだってそうだ。

 

 年上だから、リーダーだから。壮さんの意見にみんなが従っていた。逆にいえば、失敗したときの責任は壮さんが背負うことになる。俺は、頼りすぎていた。


 何度も命の危機にさらされたのにもかかわらず、無事に帰ってこれたのには、壮さんの存在が大きかったことは分かりきっていることだった。

 大人な壮さんの言うことはもっともで、彼はいつだって冷静だった。

 でも、必ずしもその言うことが1番じゃないことくらい、どこかでは分かっていた。

 ただ、自分で考えて動いて、大きな失敗をすることが怖かっただけなんだ。

 だからいつだって。俺の行動の1番下には、壮さんがいた。それを、壮さんは当たり前に受け止めてくれていた。


 だから、今。壮さんは、どれだけのことを考えているのだろうか。



「壮さんのせいじゃないです……。そんなの、壮さんの責任じゃないんですよ。俺だって、気づいてあげられなかったし、疲れてることくらい分かってましたけど、何もしてあげられなかったんですから。だから、ゆあ見つかったら、俺、優華さんにちゃんと謝ります。自分のことでいっぱいいっぱいで、周りに気をつかえなかったこと。だから、その……」


 きっと、俺が言おうとしていた言葉を、壮さんはくみ取ってくれた。

 だから、俺の言葉を途中で遮って、


『うん、ありがとう』


 と、そっと笑った。

 なんだか、言った後に照れくさくなって、


「それで、今からの計画なんですが……」


 と、話を戻す。


『あぁ、そうだね』

「今の情報をもとに、出来る限り情報を絞って……」


 最初の計画を思いだして、話し始める。


『ううん、ちょっと色々あって、予定変更。戻ってきてくれるかな? 霧屋まで』

「え? 色々って何ですか? 早くしないと、ゆあが……」


 壮さんの予想外の言葉に、俺の心に焦りが生まれた。


『焦らないで。いいから、戻ってきてくれるかな?』


 いつもより少しだけ、強い壮さんの声を聞いて、ただ「はい」と返すしかなかった。

 どう言って、どう考えたって、やっぱりどこかで落ち着いた壮さんの声を勝手に居場所にして、ゆあのことを、世界を救えたように、解決できるって思っていた。


 1年の旅の中で、それだけ壮さんという人の存在は大きかった。

 壮さんが居れば、それだけで安心できた。

 

 何も出来なくて、頼ってばかりで、そのくせ立派なことだけ言っている自分が、今、居ることが情けなかった。


 通話の途切れた携帯電話を強く握りしめる。

 でも、金林君の前でそんな姿は見せられないし、見せたくない。

 そんな薄っぺらいプライドを守るため、平然を装い、彼のもとに戻る。


「協力してくれてありがとうね。前に話した作戦にちょっと変更ができたんだ。だから、また後で」

「あの、俺も何かしたいです、三谷のこと心配だから……」


 彼の安定しないゆあの呼び方に違和感を持ちつつ、首を横に振る。


「ゆあのこと、俺たちに任せて。じゃぁ、あんまりここに長居しても悪いから……」


 大切な人のために何も出来ないという情けなさは、俺もよく分かる。

 きっと彼は今、そんな感情と戦っているのかもしれない。

 辛いのも、苦しいのも分かる。でも、今は、彼を巻き込むわけにはいかなかった。


 心苦しさを抱えたまま、俺は学校を後にした。




* * * * * *




「すみません、遅くなりました」


 臨時休業となった霧屋の扉を開くと、壮さん、雄吾さん、優華さん、黎さんが居た。


「あ、淳。事情を説明して、みんなに集まってもらったんだ」

「はい……」


 何のために集まったのか理解できず、焦りを隠し、抑えるため、一度大きく息を吸って、テーブルを囲むようにして座るみんなの輪に入る。


「あとは……、涼介だけだね」


 これぽっちの焦りも見られない壮さんに、正直苛ついた。ゆあの一大事だというのに、なぜこんなにも平然なのか、と。

 今まではそこに安心を感じていたが、この状況ではなかなかそうも思えない自分にも腹が立つ。

 これは、壮さんの作戦なのだ。何か考えがあるのだ。そう思おうとしても焦りが消えない。


「あの、なんで集まったんですか? たくさん情報は集まってるじゃないですか。なら、早くそれをもとに……」


 まだ体調が回復していないであろう優華さんの言葉。顔色は悪く、くまも見える。ひざ掛け代わりの毛布を握りしめていた。

 俺も全く同意見ではあった。優華さんからも焦りを感じられた。しかし、その焦りは今の彼女の体には大きな負担だ。

 ゆあの件に異世界が関わっていると分かった以上、優華さんには捜索を手伝ってもらいたい。


 どうすればいいのか、分からなかった。ゆあのことも、優華さんのことも、同じように心配なのだ。

 居なくなったゆあ、目の前で辛そうな優華さん。どちらも、同じように守りたい。


「優華、落ちついて? ね? 今の優華の体じゃもたないよ。休むときなんだよ」


 感情的になっている優華さんに、黎さんが優しく言う。

 異世界では、能力を使う優華さんが居たため、医学部生としての一面を見せなかった黎さんだが、今は違う。

 医師になるべき人間として、彼女に話しかけていた。


「……」


 何も言わず、優華さんは頷いた。

 きっと、彼女自身身体が限界であるということには気づいていたのだろう。

 それでも、動かずにはいられなかったのかもしれない。


 それからすぐに涼さんが霧屋のドアを開けた。


「すみません、遅くなって……」


 そこには、いつものように綺麗に髪をセットした、爽やかな青年ではなく、汗で髪をぐしゃぐしゃにした男がいた。

 きっと、それだけゆあのため、動いていたのだろう。


 涼さんのその姿に感動するとともに、目線は壮さんへと移る。

 こんなにも必死に、ゆあのため団結して動いていた俺たちをとめてまで、話さなければいけなかったこととは何なのだろうか。


 同じことを考えているのか、全員の視線は壮さんに集まっていた。


「うん、そうだね。すぐに話を始めよう。その前に……」


 壮さんは、いつもの柔らかい顔ではなく、引き締まった表情をしていた。

 そして、『その前に』の行動を始める。


 彼は、霧屋の置くの居住スペースの扉を開け、中に入っていった。

 そして、1分もしないうちに霧屋へと戻ってきた。


 それから、今起きていることを理解するのには少し時間がかかった。

 

「え……?」

「どう……し…て……」

「意味わかんねぇ……」


 


 壮さんの後ろには、いつもと変わらない姿のゆあが居た。

 


 


読んで下さりありがとうございます。

更新が遅くなり、申し訳ありません。


それにも関わらず読んで下さった皆様には、

感謝の気持ちでいっぱいです。


本当にありがとうございます。


完結まで、お付き合い頂ければと思います。

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