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世界を救った、よしどうしよう  作者:
大切な人を守りましょう。
32/49

第31話 駄菓子屋さんに行きました。

 涼さんはバイクの後ろに優華さんを乗せて、壮さんの家へ向かった。

 恐らく、ここから壮さんの事務所に彼女を送り、戻ってくるまでに40分近くかかってしまうだろう。

 だから、俺はその時間を無駄にしないようにと、捜索をしてくれている人たちに連絡を回した後、1人で駄菓子屋へと向うことになった。



 一通り連絡を回し終え、駄菓子屋へ向かって歩きだした。それから、5分も歩かないうちに駄菓子屋が見えてきた。

 いわゆる昭和の香り、というものがする店構え。店先では、優しそうなおばあさんが椅子に座り、膝の上で休んでいる猫の頭を撫でている。

 きっと放課後になれば、近所の小学生や学校帰りの高校生がたくさんくるのだろう。


「あの、すみません」


 俺は、おばあさんに声をかける。


「あら、こんな時間に高校生がくるなんてね。学校はどうしたの? ちゃんと行かないとね」


 おばあさんは優しくそういうと、店の奥に入っていく。


「いや、あの……」


 人を探している、と続けようとしたが、すでにおばあさんは見えなくなっていた。

 どうしようか、と考えていると、彼女は何かを取り出して帰ってきた。


「ほら、ジュース飲んで学校行きなさいね」


 彼女が俺に手渡したのは瓶入りのオレンジジュース。


「いや、あの、俺は……人を」

「いいから、ほら、座って、座って」


 おばあさんは俺の言葉なんて聞こうともせず、半ば強制的に近くにあった木の箱に座らせた。

 時間が惜しい中、のんびりおばあさんとジュースを飲んでいる暇なんてなかったが、このままでは彼女に話を聞くこともできない。

 冷たい瓶を持ったまま、頭を抱えていると、おばあさんは先ほど座っていた椅子に座り直し、


「で、何を聞きに来たのかしら。学校、行っていない理由もそこにあるのよね、きっと」


 と、聞いた。


「え……?」


 さっきから、俺の話なんか聞いていないと思っていたから、思いもしない言葉に反応できなかった。

 

「だから、さっきから焦って何か聞こうとしていたでしょう? そのくらい、分かってますよ」

「でも、俺の話なんか……」

「今のあなたすごく疲れた顔をしてたからね。ちょっとゆっくりしなきゃ、求めている物何もかも失ってしまうよ。ほら、ゆっくり話しな」


 おばあさんは、変わらない笑顔で俺に言ってくれた。俺の焦りは少し和らいで、さっきより冷静になれた気がした。

 あのまま突っ走っていても、きっとどこかで転んでいた。今は、そう思う。


「あの、人を探してるんです。今日の朝……」


 今までの経緯をおおまかに説明し、彼女に情報を求めた。


「えぇ、朝見かけたわ。あなたのいう髪の綺麗な女の子がここを歩いていたときに、その車がそばに停まって、降りてきた3人が女の子に話しかけてたわ」

「それで、会話とかは聞こえました?」

「いいや、そこまではね。でも、最初、女の子は逃げようとしていたから助けようとしたんだけど、1人の女の子が何か一言言っただけで、彼女はその人たちに従って、車に乗り込んだわ」

「何か、一言……」

「えぇ。それも、きっと文章ではなくて、単語だった気がするねぇ……。それは聞こえたんだけど、カタカナの難しい言葉でね。何ていってたかしらね……。キ……キ……何とかだったよ、確か」

「キ……ですか……」


 その、1つの単語で、ゆあは相手たちに従わざるをえない状況になった。

 この世界で、彼女がどんな生活をしていたかなんて知らなかったから、その単語を考え、そこから相手を探していくことは容易ではない。


 しかし、考えたくはない可能性が1つだけあって、その場合のみ、俺にも単語の想像はつく。

 というより、1つに絞り込めてしまう。

 どう考えたってありえないことだが、万が一……。万が一の場合を考えて、だ。


「キリグリーマ……。キリグリーマ……王国……」


 考えたくはない可能性。それは、この世界では存在しないはずの1年が、この世界の誰かに知られてしまっているということ。

 つまり、『魔法』という存在が、どこからか漏れ出しているということだ。


 しかし、それは確定したわけではない。

 おばあさんがそれを否定してくれれば、それだけで十分なのだ。

 彼女の反応を、じっと待つしかなかった。


「そう、その言葉だったわ。キリグリーマ」


 おばあさんは、その単語を言いづらそうにではあるが確かに口にして、肯定した。

 その瞬間、俺の頭は真っ白になったが、俺の中で何かが動き始めていることは確かだった。

 

 それは、感情というものの一種であることに間違いはないのだが、どうもほうっておいて良い感情ではないらしい。

 それを証明するように、鼓動が早まり、真っ白の頭で形にならない無数の考えが蠢く。


「ありがとうございました、おばあさん、俺、行かなきゃ……!」


 感情の整理はつかないままだが、俺はじっとしてはいられなかった。

 おばあさんに軽く頭を下げて、どこに行けばいいかなんて分からないまま走り出す。

そうでもしなければ、この危機感と恐怖に押し潰されてしまいそうだった。



 

読んで下さりありがとうございます。

久しぶりの更新になってしまいました…。

申し訳ありません。

これからも気長にお付き合い頂けたらと思います。



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