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世界を救った、よしどうしよう  作者:
大切な人を守りましょう。
27/49

第26話 大切な人がいなくなりました。


 重たい身体を引きずるように立ち上がった。

 どうせ、このまま居ても同じことばかり考えてしまう。

 そう思って、玄関の扉を開けて、今までの日常へと還ろうとしたとき。

 ポケットの中で携帯が震えた。


 そうして、また、日常が遠ざかる。


「誰だろう……?」


 携帯を取り出して、確認すると優華さんからだった。

 しかも、メールではなく電話。何事かと焦って、応答すると、


「あ……、淳? ごめんね、突然。あの、その、何ていうか……、えっと、だから……」


 明らかに様子のおかしい優華さんを落ち着かせようと、


「とりあえず、落ち着いてください。ゆっくりで大丈夫ですから……!!」


 と言ったが、そういう俺も落ち着いてはなかっただろう。


「ごめん……。あのね、ゆあがいないの……。今日、朝8時に待ち合わせしてたのに、ゆあが来ないの……。遅刻かな、って思ったけど、それにしては遅すぎるし、連絡は来ないし……」


 現在の時刻は午前9時半。約束の時間からは1時間半が経っている。

 それに、真面目なゆあだから、遅刻するときは連絡をいれるだろう。

 明らかに、おかしい。


「とりあえず、今、どこですか? 俺行きますから……」

「でも、学校は? この時間に電話出れるってことは行ってないんだろうけど……」

「そんなのどうでもいいですから!!」


 余裕なんてものなかった。 

 ゆあが待ち合わせ場所に来ないのは、何らかの事件や事故に巻き込まれたからなのだろうか。

 不安は募るだけだった。


「今、ゆあの高校のすぐ裏にあるファミレスに居るよ……。ゆあ、どうしたんだろう……」

「すぐに行きますから、大丈夫です。優華さんは、そこに居てください」

「ありがとね、淳」


 電話を切って、急いで自転車を走らせて駅に向かった。


 目的地であるファミレスまでは、電車にのって、それから歩く必要がある。

 どうしても、時間がかかってしまい、目的地のついたのは40分後のこと。

 店内に入ると、そこには不安気な姿の優華さんがいた。


「優華さん、ゆあは……」


 俺の問いに、彼女は無言で首を横に振る。


「そうですか……」


 想像出来ていたことではあったが、それでもやはり不安になる。


「ゆあからの連絡は?」

「今日の朝、もうすぐ家を出る、っていうメールが最後。学校あるけど、午前中だけ休んでもらって、話をするつもりだったの」


 優華さんはうつむいて、ため息をついた。

 1年間、2人はずっと一緒だった。その相手からの連絡が途絶え、不安でいっぱいなのだろう。

 俺には、そんな彼女にかける言葉が見つけられなかった。


「とりあえず、探しましょう!! 俺、家に行ってきますから」

「家、知ってるの?」

「はい、この前のカラオケのときに、彼女を家まで送ったんです」

「あの……ときか……」


 あのとき、つまり、喧嘩をしたとき。

 まだ、解決できていない問題がそこにはあって、彼女の表情が曇る。


「あのときは、私、ひどいことしちゃったよね。涼介には色々言って、変な空気にしちゃって……。ごめんね」

「今はそれどころじゃないです!! ゆあを探しましょう!! 優華さんだって、あのとき、自分の考えがあって、そう言ったんですよね? なら、それでいいじゃないですか。喧嘩したっていいじゃないですか。問題は、それを今、考えて謝ることです」

「淳……?」

「いいから、はやく行きましょう!!」


 自分でも訳が分からなくなるほどに、必死だった。

 問題が山積みの今、動いていないと、押しつぶされそうだった。




* * * * * *




「家まで行って、いなかったら他のみんなにも連絡しましょう」

「うん……」


 少しでも優華さんを不安にさせまいと、俺は落ち着いた行動を心がけるが、実際は彼女と一緒で、不安でいっぱいいっぱいだった。

 電車にゆられ、彼女の家の最寄駅まで行く。

 その間も、優華さんはずっと携帯を握りしめて、ゆあからの連絡を待っていた。


 ゆあの家からの最寄駅に着いて、近くに停まっていたタクシーに乗り、彼女の家を目指す。

 ついこの前通った道。しっかりと覚えていた。


「ここです。ゆあの家……」


 タクシーを降り、インターホンを鳴らしたが、反応はなく、誰かが家にいるようでもなかった。


「ゆあは、私に家を出るってメールして、家を出たんだね……」

「そうですね。家を出て、ゆあはどこに……」


 彼女は家を出ていた。

 ただの遅刻でも寝坊でもないことは明らかだった。


 家から駅までの間。駅からファミレスまでの間。

 そのどこかで、ゆあは何らかの事故や事件に巻き込まれた可能性が高かい。


「壮さんに頼りましょう。あの人は、この世界では有名な情報屋みたいですし……」

「そうするしかないよね……」


 彼女は、携帯をぐっと強く握りしめてしゃがみこんだ。


「何でかなぁ。異世界じゃ、英雄になって、幸せのままかえってきたのに。新しい仲間と一緒に、何の問題もなく帰ってこれたはずなのに……。何で、何1つ上手くいかないで、問題ばっかり積み重なっていくの……」


 今にも泣き出しそうな声でしゃがみこむ優華さんを見て、ゆあを送った夜を思い出す。

 答えなんて出るはずのない問題から逃れたくて、ひとつ大きな息をつき、壮さんへ電話をかけた。


読んで下さりありがとうございました。

誤字、脱字、アドバイス等ありましたら、

コメント、メッセージ、Web拍手から、

お気軽にお願いします。

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