表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救った、よしどうしよう  作者:
日常と非日常について考えましょう。
26/49

第25話 それぞれの問題をしりました。


 今のままの空気が続くのにも耐えられなかったが、黎さんにかける言葉を見つけられるわけもなく、ただ黙っていることしか出来なかった。

 

「ごめんね。急にこんな話して……。淳、いつでも落ち着いてるイメージだったから、大丈夫だと思ったけど、やっぱきつかったね……」


 結果、黎さんにこうして謝罪の言葉を言わせてしまった。

 悪いのは黎さんではなくて、悩んで悩んで大切な事を話してくれたのに、それをきちんと受け止めて、言葉を返せなかった俺なのに。


「でも、淳を信じてこのことを話して、この先のさゆみを任せることにしたことは本当で、俺とさゆみの願いに変わりないよ」


 嬉しい言葉のはずが、寂しい言葉にしか感じられなかった。

 1年間という、確かな時間を過ごしたことが抹消されたこの世界で、その事実を確かめられる唯一の存在たちに、これほどに頼ってもらえているのに、素直に頷くことはあまりにも難しかった。


「あの、やっぱり相談してみるべきじゃないですか? 皆にさゆみさんのこと……。それで、あの、優華さんに病気を……」


 この言葉が黎さんを苦しませるなんてことは、簡単に想像できていたはずなのに、俺は逃げ場を探して吐き出した。


「淳、こんなバカな願いおかしいとは思ってる。さっき会ったばかりの人のこと頼むなんて……。でもさ、もう耐えられないんだよ……」


 まだ、黎さんの顔を見ることはできず、声からこの先の言葉を読み取ろうとしたが、それはどれも明るい言葉ではなかった。


「目の前に、俺の大切な人を助けられる人がいる。でも、それは別の大切な仲間を傷つけることにつながるんだよね……。魔法なんて、存在しないはずのものを使って、仲間を傷つけてまで救って、それで俺もさゆみも幸せになれんのかな……」

「あの……、その……」


とりあえずの言葉さえ見つけられず、情けない気持ちでいっぱいになる。


「俺、皆を犠牲にしてまで、さゆみを助けたいなんて思ったりしてさ……。最低だよ……。諦めてたはずなのに。なぁ、淳……俺、どうすればいい……?」


 初めて聞く、震えた黎さんの不安げな声に、動揺を隠せなかった。

 かける言葉なんて見つからない。俺は、黎さんの辛さを軽減させられるだけの、そんな立派な言葉を知らなかった。


「ごめん、こんな話……。このまま一緒にいたら俺どうにかなりそうだ……。家まで送るから……、本当にごめん」


 何ども謝る黎さんに何て言葉をかけたかさえ分からないまま、俺は黎さんの車で家まで送り届けてもらった。




* * * * * *




 月曜日。何も手につかず、疲れた気分の俺は、制服はきたものの、学校に行く気分にはなれず、玄関にすわりこんでいた。

 どうしてか、そんなときに思い出すのは、つい先日までいた異世界のことで。

 

「ほんのついこの前なのに……」


 ため息をついて、己の手のひらを見つめた。

 この手で、おれはいくつもの命を奪ってきた。そんなこと、忘れられるわけはない。

 なら、今度はこの世界で、今までは争いの手段だった魔法を使って、役に立つことをしていかなければならないのだろうか。

 それが、どんなに自分にとって危険なことであっても。


 そもそも、俺はこの世界に帰ってくるべきだったのだろうか。

 異世界で、俺は英雄になった。

 しかし、この世界でのおれはなんの取り柄もない、ただの高校生。

 勉強だってこの1年で忘れてしまったことも多く、大きな遅れをとっている。


 いっそ、あの世界で英雄ともてはやされながら暮らしていったほうが、幸せだったんじゃないか。


 

 そんなことを思っているとき、思い出すのは異世界での生活だった。

 7人での生活。

 それは、あまりにも楽しくて、充実していて、今の生活とは違うスリルがあった。

 必死だったあのときには分からかったが、今の淡々とした生活は何とも味気なく、物足りない。


 そう感じているのは俺だけだろうか。


 涼さんはモデル、という特殊な人で、優華さんは立派な別荘をもつようなお金持ちで、黎さんは将来を期待される難関大学の医学部生で、壮さんは有名な情報屋で、雄吾さんはこのへんの不良を束ねている人で。


 みんなみんな、俺とはちがって特別な人に思えた。いや、特別な人なんだ。

 俺とは違う、俺とは違うんだ。

 この世界でも、活躍できるんだ。


 そのとき、1人の女の子の顔が思い浮かんだ。


「ゆあは……。ゆあは普通の人なのかな……」


 彼女は、学校の事で悩んだり、家族のことで悩んだりするけど、それは普通の女の子だからの悩みなんじゃないだろうか。

 俺と同じ、異世界での栄光と、現実での平凡のギャップに苦しんでいるんじゃないだろうか。


 でも、少ししたら、そんなことはどうでもよくなっていた。

 ただ、今までの生活に不満ばかりを零して、目の前の問題から逃れようとする自分の醜さに、ため息をつくだけだった。


 俺は、ただの高校生として生きていく。それ以上でも、それ以下でもない。

 これが今までの生活に戻るだけなんだ。


 そんなことが理解できないというか、理解したくない自分がいて情けなかった。




読んで下さりありがとうございました。

誤字脱字、アドバイス等ありましたら、

コメント、メッセージ、Web拍手から、

頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ