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世界を救った、よしどうしよう  作者:
日常と非日常について考えましょう。
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第21話 神経衰弱をしました。

「異世界に召喚される前からお知り合いだったんですか?」


 聞かずにはいられなかった。

 俺は、霧屋という名も、新平会という名も今日初めて聞いたが、有名なものなのだろうか。

 俺が、引っ越してきたばかりだから知らないだけなのだろうか。

 

「いや、霧屋って店を知ってただけだ。誰がやってるか、とかは知らなかった」

「俺も、新平会、ってのを知ってただけ。雄吾とか、召喚されて知り合ったよ」


 2人の言葉に集中しすぎ、床にばら撒いたカードを混ぜていたことを忘れていた。

 止まっていたてを再び動かして、カードを混ぜる。


「淳、次は……、神経衰弱!! 俺、暗記力は抜群だから!!」


 きっと、黎さんの耳にもこの事は入っているだろうが、気にせずカードの準備をしていた。

 重ならないように、丁寧にカードを並べて、ジャンケンをしよう、と俺を急かす。


「じゃーんけーん……ポン!!」


 結果は俺がパーで黎さんがグー。このゲームの場合、後攻が有利なため、俺はもちろん後攻を選択した。


「霧屋は有名ですからね。うちなんてちっせぇ会社っすから」

「いやいや、新平会も十分有名だよ。仕事でもプライベートでも名前は何度も聞いたから」

「そんなこと霧屋に言われたって何の説得力もないっすよ。たくさんの情報が入ってくる会社ですから、小さい会社の名前が入って来たっておかしくないです」

「だから言ったでしょ、プライベートでも聞いた、って」


 黎さんが最初の1枚を無駄なほど真剣に選んでいる間に、壮さんと雄吾さんの会話は進む。

 そうやら、霧屋、というのは情報関係の仕事のようだ。それもかなり有名な。


「よっし!! 俺、これとこれ!! 見えた!!」

 

 何が見えたのかは知らないが、選びに選んだからと言って、最初の1回で当たるものでもない。当然のことだが、カードは全く違う数字だった。

 

「そういや、霧屋の先代はどうされたんですか? 最近全く噂を聞かなくて」

「去年引退して、今は田舎で農業してるよ。うちの両親なんだけどね。新平会は新しいでしょ?」

「俺と平松、っていう俺の兄貴みたいな人とで、5年前に設立しました。一応副会長やってます。霧屋の歴史に比べたら、まだまだ餓鬼以下です……」

「やってる長さじゃないよ。うちも実際、明治からあるけど、ほとんど活動していない時期もあって、立ち直ったのはほんとここ30年ちょっとだから。うちの両親と祖父が色々としてね」

「それでもうちの6倍ですから……」


 ある程度はカードゲームに集中しながら、2人の会話を聞く。

 俺は、いくつかペアを作ることができ、足元には俺のカードがあったが、黎さんはまだ1ペアも作れていない。

 この人にはスピードも暗記力もないのだろうか、なんて思ってしまう。


 2人の話を聞く限りでは、霧屋は代々続いている会社の様だ。先代の方はすごく有名で、優秀だった様子で、会社の歴史は100年を超えている。

 活動が活発になったのはここ30年らしいが、それでも続いているのだからすごい。


「よっし……。俺のターン!!」


 黎さんは、何故か少し張り切って、カードを1周ぐるりと見回す。

 どうせまたカードは合わないのだろう……なんて思っていると。


「まず、これとこれが4、こっちとこっちが6……」


 彼は、迷いなくカードをめくる。しかも、普通に考えれば、1枚めくって、そのカードの数字を確認し、もう1枚めくるはずだろうが、2枚同時にめくっている。

 それが、何の数字なのか、それも全て当てながら。


「こっちはキング、これはエース……」


 彼の手は止まらない。そして、一切止まることなく、40枚以上残っていたトランプを全てめくってしまった。

 

 ここからは俺の予想なのだが、彼はペアを作れなかったんじゃなくて、作らなかった。

 そして、すべてのカードをめくって、何がどこにあるのか、全て覚えてしまっていたのだ。

 暗記が得意だとか、そういうレベルのものじゃないんじゃないか?


 壮さんと雄吾さんは、少し特殊で有名なお店で働いているようですごい、なんて思っていたが、まさか目の前にいる甘党がこんなにすごい人間だとは思っていなかった。

 だから、その分、驚きが大きい。


「何者ですか……、黎さん」

「黎すごいね……」

「お前、その力旅の中じゃ一切発揮してなかったよな……」


 どうやら、俺が2人の会話を聞いていたように、2人もこちらのゲームの様子を見ていたらしく、驚きの声を上げていた。

 雄吾さんが言っていたが、旅の中では一切この記憶力は活用されていなかった。

 そもそも、覚える必要があるものがなかったからだ。

 これだけ瞬間で暗記できたら、テスト困らないだろな、なんて思った。


「黎大学生だよね? 大学どこなの?」


 暗記が出来るからといって成績が良いとは限らないが、頭が良いから暗記が出来るのなら、成績が良くたって不思議ではない。

 もちろん、頭がいいと、成績が良いというのは違う話だから、成績が悪い可能性もあるのだが。


「T大学の医学部です」


 彼は、机の上のコーラに手を伸ばしながら答える。

 

 T大学は、この国で最も難しいとされる大学だ。しかも医学部。正直、努力でどうこうできるものではない、とも思ってしまうほどの場所だ。

 目の前でおいしそうにコーラを飲む、小動物のように可愛らしい男の子が、そんな日本選りすぐりの秀才だなんてとても思えなかった。


「T大……、しかも医学部かよ」


 雄吾さんも壮さんも、ただただ驚いている。


「あの、お二人のお仕事は? 色々話されてましたけど」


 そんなことは気にせず、黎さんが、俺も気になっていたことを聞いてくれた。


「あぁ、言ってなかったね。俺は、霧屋っていう情報屋を1人でやってるよ。代々受け継いできた情報網を使って、迷子探しから財宝探しまで何でもやるけど、難しいお仕事はちょっと値がはるかな」


 情報系の仕事の予想は見事的中したが、そんな仕事が現実世界にあるなんて思っていなかった。

 小説だとか、映画だとか、そんな世界の中の物だと思っていた俺にとっては、その仕事だ存在すること自体が驚きで、その道で有名な人が目の前にいる、なんて信じられない。


「俺は新平会、っていう会の副会長。そこは、業者相手に引っ越しやってんだ」


 名前は少し怖いものだが、実際はきちんとしたお仕事。だから、なぜ有名なのか分からない。


「新平会は、そこらの高校に行っていないような人とか、行ったけど上手くいかなかった人、卒業したけど行くあてのない人、万引きだとかの軽犯罪の前科のある少年なんかを雇って、更生させてるんだよ」


 俺の心の中の問いに答えてくれたのは壮さん。

 ちょっと会員、というか社員というべきか分からないが、その人たちが特殊なのだ。

 だから有名、というのもちょっと気の毒かもしれないが、悪いことではないとも思う。


 まだまだ聞きたいことはたくさんあったが、待ち望んだピザの到着で、そんなことは忘れてしまった。


読んでいただきありがとうございます。

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