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世界を救った、よしどうしよう  作者:
日常と非日常について考えましょう。
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第20話 意見をまとめました。

 風呂場に着いた俺は、予想通り、といった感じで無事にウンディーネを召喚することが出来た。

 彼女は、召喚された場所が俺たちが住んでいた、科学の発達した世界だと知ると、液体となり辺りを見に行く、と言い出した。

 もちろん浴槽に召喚し、しっかり栓もしておいたためそれは叶わず、彼女は、


「つまらんのう。今日は帰るとするか」


 と、ため息をついて、水流となり杖の中に吸い込まれていった。

 最後に、困ったらいつでも呼べ、と呟いたのを、俺はしっかりを聞いていた。


 もしかしたら、彼女はこの世界で、自分は異端な存在であると気付いていたのかもしれない。

 表面上は、嫌々帰ったようだったが、本当は帰らなければならない、と悟っただろうか。

 少し、召喚獣たちの姿を見られないように、と俺が考えすぎていたのかもしれない、とも思った。

 心配しなくたって、きっとみんなは俺が言わなくても気付いて、どこかへ行ったりしなかっただろう。

 皆を信じきれていなかった自分がいたことが、情けなかった。




* * * * * *




「とりあえず、召喚術も使える、ってことか……」

「そうですね、全ての魔法が異世界と変わらず扱えるようです」


 リビングに戻り、今度は黎さんもソファに座って話し合う。

 俺の隣に黎さん、向かいには壮さん、その隣に雄吾さんといった形だ。


「とりあえず、みんなは魔法をどうしたいと思ってる? 涼介は仲間の間でのみ使うべきだ、優華は世界のためにどんどん使っていくべきだ、って言ってるけど」


 壮さんは、そう言って、すっかり冷めてしまったコーヒーをゆっくりと口に運ぶ。


「俺は、仲間の間でも使うべきじゃないと思ってる。この世界にないものは、一切使うべきじゃない。これは、この世界の道理を守るためだ」


 雄吾さんは、壮さんの質問にそうはっきりと答え、ソファに深く腰を掛け直した。


「俺は仲間の間では使ってもいいと思います。せっかく与えられた力です。ただ腐らせるだけではダメなんじゃないか、って思うので……」


 俺は、雄吾さんに続いて、壮さんにそう答えた。


「まぁ、個人的な目的で、他人にばれる心配がないなら、便利なものだし使ってもいいと思うよ、俺も。雄吾の意見も分かるけどね」


 壮さんの意見に雄吾さんは何か言いたげだったが、良い言葉が見つからなかったのか、結局何も口にしなかった。


「黎さんは? どう思ってるんですか?」


 先ほどから黙っている黎さんにそう振ると、


「……分からない。俺には、涼介の意見も、優華の意見も、どっちも分かるから……」


 と言って、コーラのペットボトルに手を伸ばし、中身を半分ほど一気に飲んだ。


「珍しいな、黎が分からない、なんて」


 壮さんは、黎さんを少し心配げに見つめる。

 

「すみません、今は何とも言えないんです」


 軽く苦笑いをして、黎さんは残りのコーラを飲み干した。


 今までの旅で、彼はいつも、きちんとした理由のある、自分の意見を持っていた。

 それに、決断が早く、イエスかノーか、いつもはっきりしている人だったから、今回、彼がこうも悩むということは、奥に何かあるのだろう。

 きちんとした理由があって、『分からない』と答えているはずだ。



「別に答えを焦る必要はないよ。ただ、分からない以上は、魔法を人前で使う、っていうことは出来ないけどね。使いたいんなら、それ相応の理由と覚悟が必要だよ」


 壮さんの言葉に、黎さんはそっと頷いて、


「これは、俺だけの問題ではありませんから、軽はずみな行動はしませんよ。大丈夫です」


 と笑った。いつもより、少し元気のない声だったが、深く尋ねるのも無神経すぎると、それ以上は誰も何もしなかった


「とりあえず、まだ魔法について情報がまとまったわけじゃない。俺から、優華に今はまだその時期じゃないとだけ言っておくよ。また、涼介と優華が落ち着いてから話し合おう」


 壮さんが、今回の会議の総括をして、一応は解散となるが、もちろんすぐに帰る人はいない。


「せっかくだし、みんなでお話、お話!!」


 黎さんは、鞄をまさぐり、何と更に3本のコーラと取り出した。一体何本携帯しているのだろうか。


「俺は午後から仕事だから、午前中だけ」


 雄吾さんが着ているツナギは恐らく仕事着で、この後直接仕事へ向かうのだろう。彼は、袖を捲って、コーヒーに手を伸ばした。


「じゃぁ、俺も少し居させてもらいます」


 せっかくだから、と居させてもらうことにした。このメンバーもそうだが、7人全員の『少し』とか、『ちょっと』は長い。

 異世界で、ちょっと飲み屋で話すすもりが、気づいたら日付が変わっていた、なんてこともざら。

 それだけ、話題が尽きない、ということなのだが。


「おっ、じゃぁ、お昼はピザでも頼もうか」


 壮さんも乗り気だ。


「いやいや、向こうの世界のピザは最高にうまかったですからね。今さらこの世界のデリバリーピザで満足できるか……」

「お前それほど味覚発達してねぇだろ」

「雄吾さんに言われたくないですよ!!」

「何で砂糖舐めて生きてるような人間に言われなきゃなんねぇんだよ!!」


 雄吾さんと黎さんの口論をよそに、壮さんは電話でピザを注文する。

 デリバリー、なんて響きから懐かしくて、それに2人の下らない口論も重なり自然と笑みがこぼれた。


 

* * * * * *




 ピザはまだか、と待ち飽きた黎さんとトランプで盛り上がる。何だかんだ言いながら、結局黎さんはピザが楽しみなのだ。


「うっわ、また負けた……。何、淳って特殊訓練受けてんの? トランプの」

「何ですか、トランプの特殊訓練って……」

「だってさ、手が風のようにシュッ、シュッ、って!!」

「それは俺が早いんじゃなくって、黎さんが遅いんですよ」

「うっそだ!! 俺中学んときクラスで5番だったもん!!」

「微妙なラインだな……」


 下らない会話を繰り広げる横で、サラッと雄吾さんが衝撃的な事実を述べた。


「それはそうと、壮さんが霧屋だったなんて驚きましたよ」


 そして、壮さんも衝撃的な事実を述べる。


「俺も、さっき雄吾のツナギ見て気付いたんだけど、新平会だったなんてな」



 ……え? 異世界に召喚されたとき、赤の他人じゃなかったの?

 まさかの、知ってましたパターンですか?


読んで下さりありがとうございます。


誤字脱字等ありましたら、ご報告頂けると嬉しいです。

アドバイスもお待ちしています。


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