第17話 男の子に会いました。
翌日。高校生である俺にとっては、ある意味で週の終わりである金曜日。
しかし、午前9時現在、学校にはおらず、高層ビルが並ぶ街の中心部から少し離れた場所に居た。
波のように押し寄せてくる人、排気ガスで濁った空気、自動車や街のモニターから流れる音。
異世界にはなかったもので溢れるこの世界の街は、ほんの数十分そこらを歩くだけで、くたくたに疲れてしまう。
自然に害を与えない魔法で発展した世界は、不便な点も多かったが、住み心地はこの世界のどの場所より良かったのかもしれない。
それはそうと、なぜ俺がこんな時間にここに居るのかというと、だ。
喧嘩のことを壮さんに話したところ、今日がたまたま休業日だったということもあり、会ってくれることになったからだ。
もちろん今日、俺には学校があるわけだが、1日学校を休んだからと言って、下の上の成績がどうこうなるわけではないから、仮病で欠席した。
そして、壮さんの仕事場兼自宅があるというこの街まで、8駅電車に揺さぶられ来たというわけだ。
どうやら、目の前にある茶色いレンガ造りの9階建てのビルの4階が、彼の仕事場兼自宅のようだ。
駅から20分ほど歩いただけだが、駅前の見上げるほど高いビルはこの辺りはなく、高くてもせいぜい十数階建てといったところ。
メールで教えてもらったビルの名前と、目の前に立つビルの名前を何度も確認して、中に入った。
エレベーターで4階まで行き、降りてすぐ見えたのは階段。それを無視して右を向くと、『霧屋』と書かれた古びた表札が下がるドアがあった。
壮さんから聞いていた店の名前と一致し、安心してインターフォンを鳴らそうとしたが、見当たなかった。だから、仕方なく、
「すいませーん、仙崎ですが、霧島さんいますか?」
と恐る恐るドア越しに言ってみると、
「あ!! ごめんごめん、今いく!!」
と、壮さんの声が聞こえた。
しばらく、ドンドンと足音がして、扉が開かれた。
「ごめん、気づかなくて。入って」
ドアの向こうには、少し髪が短くなったようには感じるが、それ以外は何も変わらない壮さんの姿があった。
ただ、俺の身長が縮んだせいで、旅の終わりには同じくらいになっていた身長が、少し俺の方が低くなってしまっていた。
黒縁メガネと、清楚な黒髪と白いシャツにグレーのスラックスという服装。やはり、筋肉は落ち、細くなった印象があった。
「おじゃまします……」
彼に案内され、その『霧屋』に入って、まず見えたのはテーブルと、それを挟んでおかれた白い2脚の2人掛けであろうソファー。
その奥には、パソコンが置かれたデスクや、本棚、観葉植物なんかが置いてあった。
フローリングの床は綺麗に磨かれ、薄いベージュの壁紙にはシミ1つない。
彼の几帳面さが見える部屋だ。
「ほら、俺家で仕事してる、っていったでしょ? この部屋がお客さんがくるとこで、奥にあるドアの先が家。1人暮らしで、会社も1人でやってんだよね。今日は家の方で話しするから」
彼は綺麗なフローリングの床を構わず土足で歩いて行く。俺はなんだか、汚してしまうのが嫌で、軽く入り口で靴のつま先をトントン、と床にぶつけて土を落とし、彼のあとについていった。
「ごめんね。俺がみんなに言ったのに、話し合いに参加できなくて……」
彼は俺の少し前を歩きながら、ちいさく呟いた。
「いいんです。お仕事があるでしょうから……」
本当のところは、昨日壮さんがいたら、喧嘩は起きてもここまでひどくはならなかったのではないか、などと思ってしまっていた。
けれど、この世界に戻った今、みんな学校や仕事があって、異世界にいたときのように、今から話し合おうなどとは出来ないのだ。
それぞれが、この世界で生活をしているのだから。
「涼介と優華のことも心配だったけど、同じくらい淳とゆあのことも心配だったんだよね……。特にゆあが。やっぱり、1番このメンバーのことを気にかけて、心配して、大切にしてるのは彼女だと思うし」
「そうですよね……。彼女が1番……」
昨日の彼女の様子を思い出す。大切だから、不安になっていた。俺が、気づいてあげられなかったこと。
だけど、壮さんはそのことにとっくに気が付いていたのだろう。自分が情けなくて仕方なかった。
「まぁ、みんな色々あって当然なんだからさ、そんなに重くなりすぎないようにね」
壮さんの優しい声が俺を包んだ。同時に、どれほど自分が重く、暗い表情をしていたのかと気付かされ、そのことでも情けなくなった。
「こっちだよ」
必死で、その表情を少しでもまともなものにして、そう言った壮さんの方を見た。
霧屋の奥にあるドアを開けて俺を待っていた。
「ここからは土足じゃないんですか?」
「うん、そうそう」
霧屋の入り口には玄関は無かったが、ここにはそれがある。そこで靴を脱いで、部屋の様子を確認した。
まず見えたのは前に続く一本の廊下。右側には2つ扉があり、左側には1つ扉がある。
霧屋と同じ様子の床、壁で、靴なんかも綺麗に棚に収納されているようだった。
荷物はしまうと、どこにしまったか分からなくなるから、全部出しておいた方が逆に分かりやすい、なんて言っている俺と大違いの部屋だ。
「こっちがリビングね」
壮さんは、『男の1人暮らしの部屋』の格差を見せつけられ、やるせない気持ちになっている俺をよそに、左側の扉へと入っていった。
リビングも、彼の几帳面さがにじみ出ている場所だった。
フローリングの床や、壁紙がきれいなことはもちろん、部屋の中央に敷かれた黒いカーペットには1つの埃もついていない。
となりにあるのはキッチンだろうが、そこも含め机の上、椅子の上には一切の荷物はなく、全てしまわれているようだった。
そして、そのリビングの中央のカーペットの上で寝転がる男が1人と、テーブルの傍に置かれたソファに座る男が1人。
「おぉ。淳来たか」
「久しぶり!! ……でもないか」
心臓まで響くような迫力のある低い声の男と、少し男性にしては高めの声の男。
雄吾さんと、黎さんだった。
やっとこさ壮さん、黎さん、雄吾さん出てきました。
物語進むの遅くてすみません。
読んで下さりありがとうございます。
数日振りの投稿ですね。
指摘された点を色々と見直し、改稿しました。
どの点もストーリーの変更はありません。
誤字脱字、アドバイス等ありましたらお気軽にどうぞ!!
Web拍手でのコメントは無記名で構いません。
ではでは!!