表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救った、よしどうしよう  作者:
日常と非日常について考えましょう。
16/49

第15話 大切な事に気づかされました。

 彼女の家の最寄駅につき、駅を出た。


「家まで送るから……、どっち?」


 まだ、どこか暗い表情のゆあに、そう声をかけると、


「あっ、こっちです」


 と、はっとしたように、再び無理に明るく、苦しそうに笑ってそう答える。

 旅の中では、一度も見せなかった表情を、この短時間で2回も見たのだから、優華さんや涼さんのことと同じくらい、彼女のことが気になった。


 魔法とか魔族とか、そんな世界での当たり前が、この世界に通じるわけがない。変化とか、違いとか、そういったものがあって当然。

 分かっていても、俺の心はついてきてくれず、彼女のことが気にかかる。


「あの……、淳さん」


 彼女は、下を向いて歩きながら呟く。

 表情が分からないから、どうにか声で感情を読み取ろうとするが、何度考えても、あまり良い感情のようには思えなかった。


「何……?」


 だから、俺にはいつもと変わらないように、と気を遣いながら聞くしかない。


「1人暮らし、寂しくないんですか?」

「え……?」


 予想していなかった質問に、思わず驚いてしまったが、


「んー……。別に、自分で決めたことだから、寂しくはないかな。親だって、流石に毎日じゃないけど、週に何回かは連絡くれるから」


 と、言い、俺が1人暮らしになった経緯を説明した。

 俺の斜め前を歩く彼女は、それを相槌を打ちながら聞いてくれた。


「どうしてこんなこと聞いたの?」


 そう、彼女に尋ねた。


「何となく、です。ほら、一人って響きだけでなんか、もう、寂しいじゃないですか。だから……。このまま、バラバラになっちゃうんですかね……。それで、旅のメンバーは周りに私、ただ1人になるのかな、って……」


 彼女は、下を向いていた顔を少しだけ上げて、そう言った。

 きっと、カラオケ店の一件が響いているのだろう。


「そんなことないよ……。今まで大丈夫だったんだから……」


 必死で、彼女を慰めようと、言葉を出す。


「今回は大丈夫でも、これからはどうか分からないじゃないですか……。だって、魔法を使うか、なんてことでこんなに大きなけんかになっちゃったから……。これから、もっともっと大きな問題があるかもしれない……。そしたら、もうダメなんじゃないかな、って……」


 揺れる声で、言葉を呟く彼女に、俺は何と言えばいいか分からなかった。


「ごめんなさい……。信じなくちゃいけないのに……。この世界に戻ってきた途端不安になったんです……。みんな、学校とか、家族とか、バイトとか、恋人とか、仕事とかがあって、私たちメンバー以外ににも大切なものがいっぱいあるんだ、って。私たちに頼らなくたって、十分やっていけるから……」


 必死に声にならない声で、言葉を紡ぐ彼女を見ていると、心臓がぐっと掴まれるような、そんな気持ちの悪い苦しさが生まれてきた。

 俺が少し前に考えていたことと、同じこと。逃げ道はいくらだってあるということ。

 正直、このメンバーなら、元に戻れると俺は信じている。

 だけど、ゆあは俺が考えていたよりずっとずっと、本当は弱くて、1番みんなを心配していて、だから、今、こんなに不安になっているのかもしれない。


 気付いてあげられなかった。

 本当は旅の中でも、1番仲間が崩れていくことを心配していたのはゆあだったのだ。

 彼女がけんかを止めていたのも、『大丈夫』と言っていたのも、ただの強がりだったのかもしれない。

 認めたくない現実を否定するために、必死だったのかもしれない。


「ゆあ、大丈夫だよ……。今は、冷静じゃなくなってるけど、きっと落ち着いたら涼さんも、優華さんも謝るよ」


 彼女への、慰めの言葉。


「淳さん、ごめんなさい……。こんな人間で……。馬鹿みたいに心配して、不安になって、誰かに頼ってばかりで……」


 けれどそれは、ただの俺の気休めにしかならなかった。

 ゆあは、ただ謝るだけで、そんな彼女に何も言ってあげられないまま、彼女の家についてしまった。

 どこにでもあるような閑静な住宅街。どこも、温かな光がともっているのに、彼女の家には、1つの光も灯っていない。

 彼女の、『何時になっても心配されない』という言葉の意味が分かった気がした。

 心配されるとか、どうとかいう問題ではなくて、きっと彼女が遅くに帰っても、家族は誰もまだ帰ってきていないからではないだろうか。


「ご家族まだなの? 大丈夫?」

「いいんです、もう慣れっこですから」


 彼女はそう言って、道路に面した小さな門を開けた。


「今日は、送って頂いてありがとうございました。それから……、ごめんなさい。突然あんなこと言っちゃって……。気にしないでくださいね」


 彼女は門を閉めて、今日3度目の苦しそうな笑みを浮かべた。

 もう、そんなゆあを見ていられなかった。ただの、衝動。

 ゆあが、必死に溜めていた不安が今日、溢れだしたように。


 閉められたばかりの門を開けて、背中を向けて、玄関へと歩く彼女の腕を、強く掴んだ。



読んで下さりありがとうございました。


誤字脱字等ありましたら、ご報告いただけると嬉しいです。

また、アドバイス等もお待ちしています。

感想欄、メッセージ、Web拍手、どれでも構いません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ