第14話 喧嘩をしました。
「違うよ!! 涼介は間違ってる……。魔法を使ってでも、命を助けるべきだよ!!」
「違ってるのは優華さんです!! 俺たちは、力を隠して、ひっそり生きるべきなんです!!」
「涼介には分からないだけだよ……。人を助けて、その人本人や、家族に感謝される気持ちが!」
「それくらい分かりますよ!! 魔族を倒して、誰かを救った時と同じですから」
「じゃぁ、こっちでもそうすればいいじゃん!! この世界にいる悪人を、魔法で倒せばいい。火事だって、水魔法を使えば火を消せる。それでいいんじゃないの? さっき言ってたじゃん。使えるものは、ありがたく使え、って!!」
「だから、それは個人とか、メンバー内での話です!! それ以上に魔法の存在が知られたら、それを邪魔だと思ったり、悪用しようと思った奴らから、ひどい目に合わされるのは目に見えてます。見え見えのトラップに自分からかかる馬鹿はいませんよ!」
変わらず口論を続ける2人を、とりあえず止めなければならない。
ゆあも、そう思っているようで、膝の上にある手で、制服のスカートを強く握りしめていた。
今までも、旅の中で意見が食い違い、喧嘩になることは少なくなかった。その度に、ゆあを中心にみんなで仲裁して、納得いくまで話し合った。
今回だって、きっと大丈夫なはずだ。
「2人とも、一回冷静になりましょうよ!!」
「そうですよ!! いったん、落ち着きましょう?
ゆあと2人でなだめようとしても、
「黙ってて!!」
「口出すなよ!!」
と、聞く耳を持たず、口論を続ける。これも、今までにあったこと。
しかし、今回はここから違う展開を見せた。
「結局、涼介は自分を守りたいだけでしょ? 魔法を隠せば、誰にも狙われないで、静かに過ごせるから!」
「違います!! 逆に優華さんは、目立ちたいだけじゃないんですか!? どうせ、全員を救うなんて無理なのに、見える命だけを、たまたま与えられた力で救って!! ただの偽善です、そんなの!!」
さすがに、この言葉は言いすぎだ。
涼さんだって、1年間共に旅をして、優華さんが偽善とか、そういうことではなく、純粋に自分よりも誰かを大切にしている、ということを知ったはずだ。
だから、もういい加減これ以上はまずい、と無理やりにでも止めるため、立ち上がろうとしたときだった。
「違う……、偽善なんかじゃない!! もう帰る……。淳、ゆあ、ごめん」
優華さんはそう言って、カラオケ料金を机の上に置いて、部屋を出て行ってしまった。
彼女は泣いているのか、声が揺れて、瞳も赤いように見えた。
今までは、どんなに喧嘩をしても、こうやって誰かが出ていくことはなかった。
向こうの世界では、自分の居場所はこのメンバーがいる場所しかなかったから。
けど、今は、たくさんの逃げ道が出来てしまった。みんな、もともと、この世界に友達がいて、家族がいる。
いくらだって、他に行くところはあるのだ。
「涼さん、追いかけて謝った方が……」
座ったままの涼さんにそう言うと、
「なんで俺が……。気分悪い……。悪いけど、俺も帰るわ。ごめんな……」
とだけ言って、料金を置いて部屋から出て行ってしまった。
涼さんも戸惑い、苛つき、冷静ではないのだろう。だから、自分から出ていく彼を止めることは出来なかった。
今までにない展開に、ゆあは固まってしまっている。
2人の意見が分からないわけではないし、正直、帰ってきてからどこかで衝突があることは想像していた。
俺たちの日常だったものが、突然非日常になる。避けられるものではなかっただろう。
それに加えて発覚した、『魔法が使える』という事実。
まだ、日常に戻れていない中で、それぞれが不安が生まれ、焦りが生まれたのかもしれない。
「ゆあ、どうする?」
とりあえず、何か話さないと、と声をかけた。
「もう、帰りましょうか!! それで……、それで……」
無理に明るく彼女は言うから、何だか辛くなる。
「そうだね、帰ろうか。遅くなると家族が心配するでしょ?」
そう言って、机の上に涼さんと優華さんがおいて行った2枚の千円札を取って、荷物を持ち立ち上がった。
彼女は何も答えないで、立ち上がり、荷物を持つ。
受付でお金を払って、無言のままカラオケ店を出た。
時刻は7時過ぎ。日は落ちてしまい、辺りを照らすのは街のネオンだけになっていた。
「家どの辺? もう暗いから送るよ?」
「気にしないでください、大丈夫ですから……」
「いやいや、何かあったら俺が大丈夫じゃないから……」
「じゃぁ、お言葉に甘えて……」
彼女は、今いる街の中にある、Y高校に通っている。デザイン系の学科らしい。
自宅は、俺が家に帰る際に乗る電車と同じ電車に乗り、ここから4駅行ったところにあるそうだ。
「あの、淳さんはご家族心配されないんですか? 駅から10分くらい歩くので、遅くなりますよ?」
「あぁ、俺1人暮らしだから大丈夫それより、ゆあは大丈夫なの? 帰り着くの8時くらいになるけど……」
駅へ向かいながら、お互いの事を心配する。
「私の家は、大丈夫です。何時でも、心配されないですから……」
彼女はそう言って苦しそうに笑う。
1年間の旅の中で、ゆあのそんな表情を見たことがなかった俺には、
「そっか……」
と半ば独り言のように呟くことしかできなかった。
彼女の、そんな笑みを見たせいか、そんな言葉しか言えなかった不甲斐なさからか、俺までが苦しくなってきた。
この苦しさを解くには、彼女の苦しさの種を知らなければならない。
でも、そんなことを聞く勇気は俺にはなかった。
ゆあは、旅のなかでいつも中心になってけんかを止めていたし、バラバラになってしまいそうなときでも『大丈夫』、と言っていた。
その性格は、こちらの世界に帰ってきたからといって変わるものなのだろうか。
ということは、彼女の悩みの種は、『何時に帰っても心配しない家族』にあるのだろうか。
結果を導き出せるはずのない自問を繰り返しながら、駅に向かい、電車に乗ってゆさぶられるのだった。
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