第12話 女の子に会いました。
6クラス中4位という、なんとも微妙な結果で掃除を免れた俺は、靴箱で涼さんを待ち合わせをしていた。
慎に聞いた話では、涼さんのクラスは3年生総合優勝だったらしい。
全種目決勝戦まで進出していた、という何ともすごいクラスなのだ。
「おーい、淳!! 待った?」
廊下を小走りに、涼さんはやって来た。
「いえ、俺もさっき来たところですから」
「なら、良かった……。ささっ、みんなに会いに行こう!!」
彼は、そういつも通りの爽やかスマイルで言うと、俺の両肩を持って、俺の体を押しながら歩き始めた。
子供のころにやった、列車ごっこのようだ、恥ずかしい……、なんて思っていると、
「線路は続くーよ、どーこまでもー」
なんて涼さんが歌いだすものだから、周りの視線を一気に集めてしまい、更に恥ずかしくなってしまった。
「ちょ、止めてくださいよ……」
彼の手を振りほどいて、自分の靴を取りに行き、スリッパを脱いで履き替えた。
そして、靴を履きかえた涼さんと駅に向かって歩き始めた。
俺が住んでいるマンションの最寄の駅から、3駅行ったところに、学校からの最寄駅がある。
その駅から、更に3駅いけば、高層ビルが立ち並ぶ街に行け、更に2駅いけば、超高層ビルが立ち並ぶ街に出るのだ。
わずか数駅離れるだけで、住宅が立ち並ぶような場所から、見上げるほど高いビルが立ち並ぶ街に出られるのだから、何と便利な場所だろうか。
「なんかさ、平和だよね、本当に」
突然、涼さんが言い始めた。
「どうしてですか?」
当然だけれど、俺はそう聞く。
「いや、なんとなーく。今までの生活がおかしかったんだろうけど、そっちに慣れちゃうと、今度はこっちの世界が平和すぎる、っていうか……。魔族とか、盗賊に襲われることもないし……。平和は、良いことなんだろうけど……」
彼の言っていることは、なんとなくわかる気がした。
あちらの世界での日々は、怪我も多いし、突然襲われたりするし、訓練も怠れないし、という平和とは無縁の日々だった。
けれど、その分、魔法を使った曲芸なんかはすごくおもしろかったし、見たことのないレンガ造りの町並みは新鮮だったし、と飽きることのない日々だった。
無事に帰ってきたから、言えることなのだろうが、こちらの世界の科学より、ずっとあちらの世界の魔法の方が、便利で、楽しいものだった。
「まぁ、いいんじゃないですか。妙な警戒心はらなくていいですし……」
「それはそうだけど……、なんか物足りないんだよね……」
「じゃぁ、もう一回魔王倒してきてくださいよ、別世界で」
「いやいや、なんかそういう訳じゃないんだけどさぁ……」
そんな会話をつづけながら、駅に行き、電車で待ち合わせ場所まで向かった。
* * * * * *
2人は、駅の中にあるハンバーガーショップにいた。
「淳!! 涼介!! こっちこっち!!」
駅中を歩き回って2人を探している俺たちを、優華さんが見つけてくれたようで、ショップの外まで迎えに来てくれた。
彼女は、異世界から帰った時と何も変わらない姿だった。
茶色いボブは、あちらの世界でも染め直したり、切ったりと維持をしているようだったし、身長も、19歳にもなって急激に伸びることもないからだろう。
綺麗な目元と、ブラウンの瞳も相変わらず。全体的に、可愛いというよりは、綺麗という言葉が似合う女性だ。
だが、少しこちらの世界に合わせて、メイクをしっかりしているようには感じる。
160cm弱であろう身長は、ヒールで少し盛られ、170cmの俺と目線はあまり変わらなかった。
「淳も涼介もなんか小っちゃくなったよね!! 淳なんか背伸びすれば追いつきそう」
彼女は爪先立ちをして、ヒールで高くなっている身長をさらに高くしようとする。
「それも今だけですから!! あと1年すれば俺ももう5センチ伸び直すんですから!!」
「まぁ、淳の身長が5センチ伸びたところで俺には勝てないんだけどな!!」
優華さんへの反論を、涼さんは嘲笑った。彼はすでに180センチの長身だが、これから更に1年すると数センチ伸びる。身長で勝負する気さえ起きない。
俺たちが話しているのに気付いたのか、ゆあもショップから出てきた。
「いいの? 食事中だったんじゃ……」
ゆあにそう聞くと、
「ううん、飲み物だけ頼んだだけだったし、それもすぐ無くなっちゃったから」
と言って、
「あの、これからなんですけど、他の人を気にしないでもいいように、カラオケに行きませんか?」
と提案した。
ゆあも、姿はほとんど変わっていなかった。
黒く大きな瞳、白い肌、150cmほどの小柄で細い体、目の上できれいに切りそろえられた、重ための前髪。
唯一変わったところといえば、腰まで伸びていた髪が、背中の中央あたりまでに短くなったところだろうか。
透き通った声も相変わらずで、将来声優にでもなれるんじゃないか、というほどにかわいらしい声だ。
ゆあは高校の制服、優華さんは春らしいワンピースに身を包んでいて、相変わらずの仲の良さを見せてくれた。まるで本当の姉妹だ。
「俺は賛成ですけど……、涼さんは?」
涼さんに同意を求めると、彼もうなずいてくれた。
「じゃぁ、決定で」
ゆあはそう言って、ハンバーガーショップから歩いて3分ほどの場所にあるカラオケ店に向かって歩き始めた。
「ねぇ、どうして2人とも体操服なの?」
歩きながら、優華さんが聞いてきた。
「あぁ、今日球技大会だったんですよ。で、体操服登校だったんで」
涼さんは、優華さんの隣を歩きながらそう答える。
周りから見れば、美男美女カップルの微笑ましい一コマだろう。
優香さんのほうが、涼さんより1つ年上だが、2人は同い年、もしくは涼さんが年上に見えてしまう。
決して優華さんが幼いわけではなく、涼さんが大人っぽいのだ。
涼さんの服装が、体操服でないもっときちんとしたものであれば、の話だが。
「優華さん美人だし、涼さんはかっこいいですよね」
俺の隣で、ゆあが俺と同じ考えを呟いた。
「だよね……」
「ほんと、涼さんただの一般人にはもったいないくらいかっこいいですよ」
そういえば、彼女は涼さんがモデルであることを知らないのだ。
それは、いずれ気付くから放っておけば良いが、そんなセリフを普通に口にできるゆあも、色んな意味でかっこいい。
「ねぇ、淳!! 涼介、今日の球技大会のサッカーで優勝したって本当?」
優香さんが、突然俺の方を向いて聞いた。
「えぇ、本当です。ちゃんと試合も出てましたよ。背が高いので、うちのチームもマークしてたんです」
「あぁね。背が高いだけね」
嫌味っぽく優華さんは呟く。
「違いますって!! ちゃんと活躍しました!!」
「どうなんですか? 淳さん」
必死に反論する涼さんを笑いながらゆあが聞く。
「んー……、さほど」
実際のところはゴールを決めたり、アシストしたり、甚だしい活躍だったのだが、少し意地悪をした。
「やっぱり!! そう思ってた」
「私もです」
優香さんとゆあさんは、きっと俺の言葉が嘘で、本当は活躍したと分かっているはずだが、それでも涼さんをいじり倒す。
「もういい!!」
涼さんはすねた振りをしながら、横目で俺の顔を見て、寂しげな表情を浮かべる。
「はいはい、嘘です。活躍してました!!」
俺がそういうと、彼の表情は一気に明るくなって、
「流石、分かってる!!」
と、俺の隣にきて肩を無理矢理組んだ。
「やめてください、恥ずかしいです……!!
抵抗する俺を上から腕で押さえつけて、爽やかに彼は笑う。
そんな俺たちを見て、優華さんとゆあは2人で笑った。
* * * * * *
「あっ、ここです、ここ」
しばらく、会話をしながら歩くと、カラオケ店があるビルについた。このビルの2階がカラオケ店だ。
階段を上り、3時間で部屋を取り、店員さんに指定された部屋に入った。
ゆあちゃあああああああん
読んで下さりありがとうございました。
誤字脱字等ありましたらご報告いただけると嬉しいです。
アドバイス等もお待ちしています!!
更新ペース下がるとかいいつつ早いのは、
小説書いて、更新することで現実逃避出来るからです。うん。
あれです、これからもこんな感じですが、お願いします。