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世界を救った、よしどうしよう  作者:
日常と非日常について考えましょう。
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第10話 球技大会開幕しました【中】。

 涼さんに連れてこられたのは、職員を含めた全員が球技大会に出払い、誰もいなくなった普通校舎2階の廊下。


「何ですか? 確かめたいことって」


 まだ整わない呼吸の中、一生懸命に声を出す。

 異世界では何キロも走って、戦って、召喚獣を召喚して、魔法を使って、と出来ていたのに今では少し走ったり、階段を駆け上がったり、ということでさえきつくなっている。

 朝、涼さんをトイレまで連れて行ったときもそうだったし、今もそうだ。

 1年前の俺は、こんなにも運動不足で体力のない人間だったのか、と痛感させられた。


「それが……」


 そんな俺とは裏腹に、息を荒げる様子のない涼さんは、肩で呼吸をする俺を心配そうに見ながら、左手の手のひらを上に向けて、胸元まで持ってくる。


「……?」


 訳が分からず混乱する俺をよそに、先輩はそのまま数日前まで当たり前に口にしていた、この世界では何の意味もなさないはずの言葉を呟いた。


「輝きを与えたまえ……」


これは光属性の魔法の詠唱。


「何でこんなときに光魔法なんか……」


彼の行動の意味がくみ取れず、思わず笑ってしまったそのすぐ後。


「なん…で……?」


 彼の手のひらの上にはしっかりと光の球が浮かんでいた。

 これは光属性下級魔法のシャイニーだ。

 攻撃能力も防御能力もない、軽く自分の周りを照らすだけの魔法。


「こんな下級魔法だけじゃない。シャイニングレイみたいな上級魔法も、

 ファイアとか、サンダーとか、他の属性の魔法も全部使えたんだ……」


 あちらの世界に召喚されて、突然全員魔法を使えるようになった。

 だから、こちらの世界に戻れば当然魔法は使えなくなるものだと思っていた。


 俺は召喚術士として召喚されたため、あまり多くの魔法を扱えなかったが、魔道士として召喚された涼さんや、壮さん、優華さん、黎さんはたくさんの魔法を扱える。

 それに加えて、雄吾さんは、肉体強化という特別な魔法が使えるし、ゆあは、天使術と呼ばれる更に特別な魔法を扱える。


 それらすべてが使える、となればこの世界の『常識』を完全に壊してしまう。


「で、壮さんが確認取ったところ、雄吾さんの肉体強化も、ゆあの天使術も全て扱えるということらしいんだよね……。そこで、あと確認がとれてないのがお前、ってこと」


 この世界で、また召喚獣のみんなと会える喜びと、この世界の、道理が崩壊してしまうという危機感が合わさり、なんとも不味い感情が出来上がった。


「お前、携帯教室に置いてるだろ? それで連絡取れなかったから、俺に連絡来たんだよね」

「そうなんですか……」


 壮さんがこのことに気付いたのだろうか?

 魔法が使えなくて当たり前の世界にきて、『魔法が使えるか試そう!』なんて、彼が考えるようには到底思えなかった。


「とりあえず……、杖ないと召喚出来ないんでしょ?」

「そうですね……。杖は家にあります」

「なら良かった。召喚する状態は整ってる、ってことか……。あとは場所だけだね……。誰にも見られない、スペースのある場所、か」


 召喚獣のみんなはとても大きかったり、周りにあるものを燃やしてしまったり、凍らせてしまったり、人の姿をしていなかったりと、一般市民に見られるわけにはいかない。


「やっぱり、そこが1番難しいですよね……」

「まぁ、今日みんなと放課後に駅前で会うことになったから、そのとき考えよう?」

「……はい」


 早く召喚できるのかどうか、ということを知りたかった。

 しかし、その自らの欲でこの世界に迷惑をかけるわけにはいかない。

 言い表しようのない、何とも言えない複雑さがあった。


「そこで、重要なことが1つあるわけですよ、淳さん」

「……なんですか?」


 彼は、いつものテンションで聞いてくる。


「最下位のクラスは居残り掃除だよね?そんなことしてたら皆と会う時間、無くなっちゃうよ?」

「……あっ」

「そういうことだから、大切なことは?」


 涼さんはこういうときでもいつでも楽しそうに聞くから、こちらの緊張感までも吸い取っていってしまう。

 でも、同時に暗い気持ちとか、そういうものまで吸い取っていってくれる気がする。


「絶対に最下位だけにはならない……」


 涼さんの目を見て言うと、彼は静かにうなずいた。


「ってことで、絶対に勝つぞ、このやろー」

「そうですね、負けてたまるか、このやろー」

「とりあえず、1回でも多く勝ってポイント稼ぐぞ……」

「そうっすね、先輩。俺、ついていきます」

「おう……。しっかりついてこい」


 複雑な気持ちは涼さんに吸い取ってもらい、下らない会話をしながら、グラウンドへと戻るため歩き始めた。




* * * * * *




 グラウンドに着くと、慎が俺を探していた。


「いたいた!! もう試合始まるから早くしろよ!!」

「悪い、悪い!!」


 慎に謝り、


「じゃぁ、そういうことで……」


 と、涼さんに言い急いで試合が行われる場所に向かった。


「あ、高崎先輩がいるクラスとは上手くいけば決勝で当たれるよ?」


 決勝とか、優勝とか、そういうことは今はどうでもいい。

 とりあえず、お互い上手く勝ち上がればポイントが稼げることが分かり安心する。

 1回戦や2回戦で当たってしまえば、そこでどちらかのクラスが、ポイントをあまり稼げず敗退。居残り掃除への道が近づいてしまうのだ。


「まぁ、お前ベンチだし気楽にいけよ」

「おぅ、頑張れ……。絶対に負けんなよ……」

「あ……はい。何? 突然気合入っちゃって……」


 不審がる慎を横目に、試合会場へ向かう足を速めた。



読んで下さりありがとうございます。


誤字、脱字、感想、アドバイス等ありましたら、感想かメッセージで、

ぜひお願いいたします。



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