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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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98. 黒、金、銀、赤

「これはひ、み、つ。また会おうね!」


 リーシェはニコッと笑って手を振った。


 嘘になるだろう約束。でも、嘘にしたくない約束だった。


 リーシェは潤む瞳でキュッと唇をかみ、空間跳躍し、近くの高層ビルの屋上へと飛ぶ。


 サラが何か叫んだが、声は聞こえなかった。



         ◇



 屋上に着地――。


 ふぅと大きく息をつくと、辺りを見回した。


 夕焼けの空。ビルの谷間を吹き抜ける風。さっきまでの穏やかな時間が嘘のように、空気が張り詰めている。


 自分は別の宇宙からやってきた不法侵入者にしてスパイ。捕まれば処刑も十分にありうるのだ。


 そうなれば自分の命のみならず、レテの数十億の命運にかかわってしまう。何としてでもいい形に落とすしかない。


 リーシェはぐっとこぶしを握り締めた。


 それにしてもどんな相手なのだろうか?


 いきなり捕縛の権能を放ってくるなど、かなりのやり手だ。この宇宙の管理者の手の者か。軍隊か――。


 話が通じる相手だといいが。


 すると、四つの光が空に現れた。


 夕焼けの空を背景に、四人の少女がゆったりと飛んでやってくる。


 頭上に光輪。背中に翼。光そのもので編まれた神々しい翼を広げ、夕暮れの空を悠然と飛んでいる。四人とも十代半ばほどの少女で、それぞれ異なる髪の色をしていた。黒、金、銀、赤。


 天使。


 この宇宙の女神に仕える天使たちだ。


「アンノウン! 見つけたわ」


 黒髪の少女が先頭に立ち、ビシッとリーシェを指さした。切れ長の目に不敵な笑みを浮かべている。四人の中でリーダー格のようだ。


「素直にお縄につきなさい!」


「か、勝手に日本に来たのは悪かったわ」


 リーシェは両手を上げて見せた。敵意がないことを示すつもりだった。


「でも、いきなり捕まるわけにもいかないの。どなたか責任者とお話をさせてもらえない?」


「問答無用! 不法侵入者は逮捕ですわ!」


 金髪の少女が右手を振った。


 虚空から黄金色に輝くロープが現れ、蛇のようにうねりながらリーシェに向かって飛んでくる。天使の権能で編まれた拘束具。触れれば身体の自由を奪われるだろう。


「ちょ、ちょっと待っててばっ!」


 リーシェはブワっと光背を輝かせると、女神の権能でロープを弾き飛ばした。黄金のロープが弾かれ、空中で霧散する。天使の権能と女神の権能では格が違う。女神の方が上位だ。


「こいつ女神の権能を使うわ! 危険よ!」


 銀髪の少女が叫び、銀色に輝く弓の弦を引き絞る。


「いやいやいや、安全だってば! ほんとだって!」


「アンノウンなど信じられないわ!」


 素早く三本の矢を同時に放った。


 矢が空を切る――。


 三本が扇状に広がり、それぞれ異なる角度からリーシェに迫る。


 リーシェは横に跳んだ。だが矢は追尾してくる。空中で弧を描き、軌道を修正し、まるで意志を持つかのようにリーシェを追いかけてきたのだ。


「っ!」


 慌てて物理攻撃無効を発動した。矢がリーシェの身体に触れた瞬間、透明な膜に弾かれて砕け散る。銀色の破片が夕焼けの空にきらきらと舞った。


「何すんのよ! いいから責任者を呼んでってば!」


 リーシェは叫ぶ。


「あんたは何者? 女神さまの縁者なの?」


 黒髪の少女が剣を構えたまま問いかけてきた。


「女神の縁者……じゃなくて……そのぉ……」


 リーシェは口ごもった。何と説明すればいいのか。別の宇宙から勝手に来ましたとは言えない。


「……神宮書記官(メタトロン)の関係者……かな?」


神宮書記官(メタトロン)の関係者がなんで渋谷で遊んでんのよ!」


 赤毛の少女が声を張り上げた。


「いい加減な嘘でごまかさないで!」


 赤毛の少女の周囲に、熱が集まり始めた。空気が歪み、陽炎が立ち昇る。その中から、巨大な炎の龍が姿を現した。


 灼熱の龍。全長十メートルはあろうかという炎の塊が、蛇のようにうねりながら空中に浮かび上がっている。口を開けば業火が渦を巻き、鱗の一枚一枚が赤熱して夕焼けの空をさらに赤く染めていた。


「わぁ! 遊んだっていいじゃないのよぉ!」


 天使の権能で練り上げられた、その芸術的ともいえる灼熱の造形にリーシェはたじろいだ。


「話は取調室で聞いてあげるわ!!」


 赤毛の少女は腕を振り下ろした。


 炎龍が、リーシェに向かって突進してくる。


 これは権能による攻撃だ。物理攻撃無効は通用しない。炎そのものが超自然的な力で構成されている。


「ナイナイ!」


 リーシェは反射的に右手を突き出した。


 炎龍の巨体が、虚空に呑まれていく。十メートルの炎が、音もなく消失する。収納空間の中で炎が暴れる気配がしたが、すぐに鎮まった。


「やっぱり女神の権能使いには効かないわねぇ」


 黒髪の少女がニヤリと笑った。余裕の笑みだった。初めからこうなると分かっていたかのような。


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