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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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95. 熱き魂

 一般の人間が、仲間内で、歌を歌って「遊ぶ」?


 それは――作曲家に対する冒涜ではないのか? 素人が歌って、何が楽しいのか?


「じゃあ、歌ってみましょ?」


 リーシェの困惑を見て取ったサラが、にやりと笑った。ピアスの光る唇が、悪戯っぽく吊り上がっている。


「え、ちょ――」


 リーシェの腕を掴み、サラはカラオケ店の中に突入した。



         ◇



 最上階のVIPルーム。


 ドアを開けた瞬間、リーシェは目を見張った。


 壁一面の大画面。天井に埋め込まれたスピーカー。間接照明に照らされた室内には、座り心地の良さそうなソファが並び、テーブルの上にはマイクが二本と、操作用の端末が置かれていた。


「じゃあまず、私がお見本を見せるわ」


 サラがソファにどかっと座り、端末を操作し始めた。ランキングの上位から、何かの曲を選んでいく。


「これ、知ってるかなぁ……。最近めっちゃ流行ってるんだけど」


 画面が切り替わった。


 映像が流れ始める。


「あっ!」


 リーシェは、飛び上がりそうになった。


 画面に映っているのは――あのアニメだった。


 シアンに映画館で見せられた、あの作品だ。夜空を舞いながら爆弾を振りまく女性と、それに対抗する人外の男。ビルが炎で芸術的に吹き飛んでいく、あの凄まじい映像表現。


 あの時は何が何だか分からないまま圧倒されるだけだった。だが今、この場所で、この映像が「歌」と結びついて流れている。


 サラがマイクを握った。


 画面に歌詞が流れ始めた。サラの声が、部屋を満たしていく。


 上手くはなかった。


 正直に言えば、調子っぱずれだった。音程が外れる箇所があり、リズムが走るところがあり、プロの歌手と比べれば素人そのものだった。


 だが。


 サラは全力だった。


 目を閉じ、眉間に皺を寄せ、マイクを両手で握りしめて、身体を揺らしながら歌っていた。声を張り上げ、囁き、叫び、時に裏声で高音を絞り出す。技術は拙い。だがそこには、魂が込められていた。


 リーシェの五千年の音楽が到達した究極の美――それとは正反対の、荒削りで不格好で、だからこそ生命力に溢れた歌。


 その渾身の歌声を浴びながら、リーシェは画面に流れるアニメの戦闘シーンを食い入るように見つめていた。


 映像と音楽が同期している。戦闘のクライマックスでサビが来る。ビルが吹き飛ぶ瞬間にドラムが炸裂する。男が勝機を掴む瞬間にメロディが転調する。


 映像と音楽とストーリーが、一つに融合している。


 そしてそれを、一般の人間が、仲間内で、歌って「遊ぶ」。


 この国では、音楽は「聴くもの」であると同時に「歌うもの」なのだ。プロだけのものではなく、全ての人に開かれたもの。上手い下手は関係ない。歌いたいから歌う。楽しいから歌う。それだけの理由で、人々は声を張り上げる。


 これが、日本の多様性を支える一端なのだ。


 消費者が同時に表現者でもある。聴衆が同時に歌い手でもある。その循環が、新しい音楽を生み、新しい映像を生み、新しい物語を生んでいく。


 レテには、これがなかった。


 レテの音楽は、常にプロのものだった。聴衆は聴衆であり、演奏者は演奏者だった。その境界は厳格で、誰も越えようとしなかった。だからこそ洗練された。だからこそ――停滞した。


 サラの歌が終わった。最後の一音を引っ張り、ぷはーっと息を吐いて、マイクを下ろした。


「どう? ふふん」


 得意げな顔。少し汗をかいている。


「……すごいわ」


 リーシェは、素直にそう言った。


 上手いという意味ではない。歌声に込められた熱い魂が、すごい。


「じゃあ次はリーシェよ?」


 サラがマイクを差し出した。


「いや、でも私、日本の曲知らないから……」


「いいのよそんなの、一緒に歌ってあげるからさ」


 サラは聞く耳を持たなかった。端末を操作し、ランキング上位の曲を次々と予約していく。画面の隅に「予約済み」の表示がどんどん積み上がっていった。


「ちょ、こんなに歌うの……?」


「当たり前でしょ! 初カラオケなんだから、全力でいくわよ!」


 最初の曲が始まった。


 リーシェは恐る恐るマイクを持った。画面に流れる歌詞を生体チップで読み取り、メロディを耳で追いかけ、タイミングを計る。


 声を、出した。


 小さな声。震える声。音程がずれている。リズムがめちゃくちゃだ。レテの五千年の音楽教育を受けた身として、こんな酷い歌は初めて歌った。


 だが――。


「そうそう! いいよいいよ! もっと声出して!」


 サラが隣で一緒に歌ってくれた。歌詞を指さし、リズムを手拍子で刻み、サビでは腕を振り上げて盛り上げてくれる。


 リーシェはサラの声についていった。二曲目。三曲目。だんだん声が大きくなっていく。四曲目で初めてサビを一人で歌いきった。五曲目でサラと声を合わせてハモれた。六曲目でマイクを両手で握り、目を閉じて歌った。


 七曲目の途中で、リーシェは気づいた。


 楽しい。


 下手だけど。音程を外しちゃうけど。レテの声楽家に比べれば子供の遊びだけど。


 こんなに楽しいことが、あったのか。


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