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美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


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78. リソース『最適化』

 一方、地上では一人の男が走っていた。ぶざまに、必死に。瓦礫を飛び越え、炎を潜り抜け、降り注ぐ爆弾から逃げ惑いながら、それでもなお勝機を探している。その目は折れていない。


「な……何、これは……」


 リーシェは座席の肘掛けを握りしめていた。


 男と女の攻防が加速していく。画面の中で世界が崩壊し、再構築され、また崩壊する。その映像の美しさと暴力性が同居した表現は、レテの芸術にはない種類の衝撃だった。


 周囲を見れば、超満員の観客たちが手に汗を握り、食い入るようにスクリーンを見つめている。誰もが瞬きすら惜しむように魅せられ、物語に魂ごと持っていかれている。


「次はこれね」



         ◇



 また景色が変わった。


 今度は――どこでもない場所だった。


 仮想現実。VRゲーム空間。


 色鮮やかな草原に、可愛らしいモンスターたちが跳ね回っていた。丸い目。ぷにぷにした体。短い手足でてちてちと走り、ころんと転び、また起き上がる。


 リーシェは言葉を失った。


 こんな生き物は、レテには存在しない。可愛い。ただひたすらに、可愛い。機能的でもなく、高尚でもなく、ただ「可愛いから存在する」という、レテの美学では決して生まれ得ない造形。


 そして、このモンスターたちを育て、戦わせている人間たちがいた。


 老若男女。子供も大人も。画面越しに、あるいは仮想空間の中で、自分の育てたモンスターに声援を送り、勝てば飛び上がって喜び、負ければ頭を抱えて悔しがっている。


 その執念は凄まじかった。


 たかがゲームの中の、架空の生き物に。それなのに、彼らは本気だった。心の底から本気で、この小さな仮想の生き物たちを愛し、鍛え、戦わせている。


 リーシェには、理解できなかった。


 理解できないのに――目が離せなかった。



         ◇



 気がつけば、元の演奏室に戻っていた。


 白い大理石の床。硝子の壁。庭の花々。傾きかけた柔らかな日差し。何もかも、さっきまでと同じ。


 だがリーシェの中で、何かが変わっていた。


 心臓がまだ早鐘を打っている。耳の奥に、あの重低音の残響がこびりついている。目の裏に、崩壊するビルの映像が焼きついている。掌に、あの可愛いモンスターのぷにぷにした感触が残っている。


「どう?」


 シアンが、にやりと笑った。


「これが『日本(ニホン)』。素敵な世界でしょ? ふふっ」


「こ、こんなの……!」


 リーシェは叫んだ。声が震えている。


「派手でうるさいだけじゃない!」


「そうかもね?」


 シアンは肩をすくめた。余裕の笑み。


「でも、この世界のコンサートに、あの熱狂はあるかしら?」


「そ、そんなの……」


 リーシェの声が、詰まった。


「い、要らないわ」


 きゅっと口を結び、うつむいた。


 要らない、と言った。だが自分の声が、どこか空虚に響いたことに気づいていた。あの数万人の熱狂を見てしまった後では、「要らない」の四文字が、嘘のように軽い。


「まぁいいわ」


 シアンの声が、少しだけ柔らかくなった。


「ボクも別に、この世界がああなってほしいなんて言ってるわけじゃないし」


「じゃっ、じゃあ、なんで見せたのよ!」


「井の中の蛙って……つつきたくなるじゃない? ふふっ」


「くっ……!」


 リーシェは歯を食いしばった。悔しい。今まで信じていたものの足元が、ぐらぐらと揺れている。


 そして、リーシェの頭脳が、一つの結論を弾き出した。


 シアンの鑑定結果が全て???だったこと。結界を無視して侵入してきたこと。時空を超えて別の世界を見せる力。


 この宇宙で、そんなことができる存在は、一つしかない。


「……あなたは、神宮書記官(メタトロン)ね」


 リーシェの声が、低くなった。


「うちの世界を……消すつもり?」


 神宮書記官(メタトロン)。宇宙の管理者にして、世界の生殺与奪を握る存在。停滞した星を「最適化」の名のもとに消去する権限を持つ、女神が唯一恐れる存在。


 シアンは笑みを崩さなかった。


「ははっ、そろそろあなたの世界にも飽きてきちゃったからねぇ……」


 軽い口調だった。世界一つを消すという話を、まるで古い服を捨てるかのように言っている。


「どうしろって……言うの……?」


 リーシェの声が、掠れた。


「いや、好きにすればいいんじゃない? ボクはただ宇宙のリソースを『最適化』するだけだからね。きゃははは!」


 突き放すような言葉。だがシアンの碧い瞳の奥に、ほんのかすかに――興味の光が揺れていた。この少女がどう動くのか、見てみたい。そんな光。


 沈黙が降りた。


 リーシェはうつむいたまま、拳を膝の上で握りしめていた。


 あの熱狂が。あの映像が。あの可愛いモンスターたちが。脳裏をぐるぐると駆け巡っている。レテにはないもの。レテが五万年かけても辿り着けなかったもの。それが、あの『ニホン』にはあった。


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