表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女荷物持ちの収納魔法【ナイナイ】が実は世界最凶だった件 ~魔王すら瞬殺だけど、カモミールを飲んでいたいの~  作者: 月城 友麻


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/119

76. アンノウン

 初代レテの再来――次代女神は堅い。


 リーシェの評価は、多くの世代のレテ・クローンたちにそう囁かれていた。


 同期のクローンたちの中で、リーシェの能力は群を抜いていた。知的能力。魔力の制御精度。芸術的感性。そのどれもが、過去数百世代のクローンと比較しても最高レベルに位置していた。


 コンクールに出れば優勝する。議論をすれば論破する。星の管理シミュレーションでは常にトップの成績。同期のクローンたちは、リーシェの背中を見て溜息をつくしかなかった。


 だが、リーシェ自身は――退屈していた。


 勝つのが当たり前になってしまい、驚くことがなくなってしまった。何を見ても、何を聞いても、「まぁ、こんなものよね」という感想しか浮かばない。レテの世界は美しい。だがその美しさは、五千年前から変わっていない。他の孫宇宙も一万年前から変わっていない。


 洗練の果てに待っていたのは、停滞だった。


 どんなに褒めたたえられても、リーシェの心の片隅で小さな疑問が芽生え始めていた。


 ――これが、本当に最高なのだろうか。


 この美しさ。この高尚さ。この完璧さ。それらは確かに素晴らしい。だが、それだけで宇宙が求める「多様性」を満たせているのだろうか。何万年も磨き上げてきた結果、レテの文明は完成してしまったのではないか。


 そして、完成とは『終わり』の別名ではないのか。


 その疑問を、リーシェは口にしなかった。


 口にすれば、レテの全てを否定することになる。この星を、この音楽を、この文明を。自分自身の存在意義を。


 だから黙って、ピアノを弾いた。


 五千年の歴史を持つ、完璧な旋律を。


 限界を感じながら。


「はぁ……タルい……」


 その口癖が生まれたのは、いつ頃だったろう。


 気がつけば、リーシェの口からは「タルい」という言葉ばかりが零れるようになっていた。何をしてもタルい。何を見てもタルい。勝ってもタルい。褒められてもタルい。


 次代女神最有力候補――その肩書きすらも、タルかった。



         ◇



 リーシェは独りピアノを弾きつづける――。


 何かから逃げるように、魂を込め渾身の演奏に没頭していく。


 庭に咲き誇る花々が、風に揺れるのを止めたかのように見えた。鳥たちが枝の上で羽を休め、ウサギたちが耳を傾けている。この星の全ての生命が、一人の少女の旋律に聴き惚れているようだった。


 曲がゆったりとエンディングに向かっていく。


 最後のフレーズ。美しい旋律が羽を休めるようにゆったりとテンポを落とし――やがて最後の一音が響き渡った。


 その一音が庭の花々の間をすり抜けて、空に溶けていく。


 残響が消えるまで、リーシェは動かなかった。


 目を閉じたまま、最後の余韻に身を浸している。唇の端がかすかに上がり、満足そうな微笑みが浮かんでいた。


「うーん、完璧! 私ってば天才! キャハッ!」


 リーシェはぱっと目を開け、両手を天に突き上げた。さっきまでの優美さはどこへやら、年相応の無邪気な笑顔。


 しかし――その笑顔は、すぐに曇った。


「でも……私がコンクールで勝っても仕方ないのよね……」


 リーシェは深くため息をついた。


 リーシェにとってコンクールで優勝するのは当然のことだった。だが、勝って何になるのだろう?


「はぁ……タルい……」


 ため息が漏れた。


 その時だった――。



 パチパチパチパチ。



 拍手の音が、部屋の奥から響いた。


 リーシェは弾かれたように振り返る。


 見れば演奏室の入口に、一人の女性が立っていた。


 青い髪。碧い瞳。白磁の肌に、妖しい微笑み。ショートカットの青髪が、風もないのにふわりと揺れている。


 ――いつからいた?


 リーシェの全身に緊張が走った。この邸宅には最高レベルの警備が敷かれている。それだけではない。リーシェ自身が結界を張っているのだ。女神候補の結界はこの星の如何なる存在も無許可では通れない。


 それを、気付かれることなく正面から突破されていたのだ。


 人間技ではない。


「くっ……」


 リーシェはアンノウンの接近という、いまだかつてない危機的事態にキュッと口を結んだ。


「素晴らしい演奏……」


 女性がゆっくりと歩み寄ってくる。ヒールの音が大理石の床に響いた。一歩ごとに、空気の密度が変わっていく。


「さすが女神候補だわ。ふふっ」


 甘い笑みをもらす。


「なっ、なんなの! あんた誰よ!」


 リーシェはバッと立ち上がった。ピアノの椅子が倒れ、けたたましい音を立てる。黒い瞳が女性を鋭く睨みつけた。


 とっさに、鑑定スキルを起動する――。


 この星の全ての生命体の情報を読み取れる、女神候補の権能。名前、属性、能力、経歴――あらゆる情報が光の文字列となって虚空に展開される――はずだった。


 だが。


 文字列の大半が、表示されない。


 名前:シアン

 属性:???

 能力:???

 経歴:???

    :

    :


 全ての項目が???で埋め尽くされている。かろうじて読み取れたのは、名前の欄に浮かぶ三文字だけだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ